[出典] PERSPECTIVE "When genome editing goes off-target" Kempton HR, Qi LS. Science. 2019-04-19 (PERSPECTIVE Figure参照 "Detecting CRISPR off-targets")

 遺伝子編集ツールのオンターゲット選択性は、臨床応用はいうまでもなく遺伝子編集モデル生物を利用する基礎研究においても決定的に重要であり、CasエフェクターのDSBを介して遺伝子編集においても、デアミナーゼを介した塩基編集 (Base Editor: BE)においても、オフターゲット活性の同定が必須である。

 オフターゲットのプロファイリングは、gRNAとの相同性に基づくin silico解析からin vitro解析そしてin vivo解析へと展開してきた。In silico解析は、想定外の変異が発生した限られた領域からの実験データに依存する限界を伴っていた。In vitro解析 (1, 2)は、Cas9, gRNAおよび精製したゲノムDNAに基づき高感度であったが、クロマチンや核の構造といった細胞内での環境を反映しないが故の限界を伴っていた。Cas9とgRNAを生細胞に送達しオフターゲット編集を判定するin vivo解析 (3,4)は、細胞内の環境が反映されるが、感度が低く、また、Cas9-gRNAの他の因子を加える必要がありハイスループット化が困難であった。

 これらに対して、Wienertらが開発したDISCOVER-seq (5)は、Cas9とgRNA以外の因子が不要であり、細胞内在修復機構を介した編集結果をDNA修復因子MRE11をモニターすることで判定することから、患者由来初代細胞にも利用可能であり、疾患に特有な遺伝子変異や細胞過程におけるオフターゲット編集を同定可能にする。

 標的の一塩基を変換する編集が期待されるBEのオフターゲット編集の判定は、細胞集団にゲノムの多様性が存在することから難易度が高い。Zuoらは2細胞期胚の2つの割球のうちの一方を遺伝子編集のコントロールとして利用するGOTI (6)法を開発し、CBEとABEのオフターゲット・プロファイルを明らかにした。Jinらは、単一細胞を編集し、編集結果を全ゲノムシーケンシング (WGS)で解析することで、CBEとABEのオフターゲット・プロファイルを明らかにした (7)。

 ZuoらとJinらの結果「ほとんどのランダム変異 (オフターゲット編集)が、転写が活性化されている遺伝子において発生するプロファイル」は驚くべきことではない。CBE (BE3)のデアミナーゼrAPOBECはCas9とは独立にssDNAに結合するが、その際にDNAを巻き戻してssDNAを露わにするからである。一方で、ABEで利用するデアミナーゼTadAは、単独ではDNAに結合しないために、ABEの活性はCas9結合に制限されることから、Cas9のオフターゲットを超えるオフターゲット編集が発生せず、CBEよりもオフターゲット頻度が抑制される。

 Cas9遺伝子編集において、gRNAの最適化、RNPでの送達、タンパク質工学によるCas9改変などにより、オフターゲットの最小化が試みられてきた例に倣って、BE技術についても、多様なデアミナーゼの探索やデアミナーゼの改変によるオフターゲット最小化を探ることになる。いずれにしても、オフターゲット・プロファイリングは、遺伝子編集ツールボックスの進歩を駆動する。

 PERSPECTIVE引用文献(一部)に相当するcrisp_bio記事
  1. 2017-04-14 ヒト細胞におけるCRISPR-Cas9のオフターゲット効果をゲノムワイドで評価可能とするDigenome-seqを開発
  2. CRISPRメモ_2018/10/22 1. [プロトコル] CIRCLE-seqによりCRISPR-Cas9のヌクレアーゼの活性をゲノムワイドで決定する
  3. 2017-04-14 インテグレース欠損型レンチウイルスベクターを使って、CRISPR-Cas9とTALENのオフターゲット効果を、偏り無く査定した
  4. 2017-04-16 CRISPR-Casヌクレアーゼのオフターゲット効果をゲノム全域にわたって俯瞰可能にするGUIDE-seq
  5. CRISPRメモ_2018/11/15 [第1項目] DISCOVER-seq: CRISPRオフターゲット編集をin vivoで偏りなく検出する法 (bioRxiv 2018-11-14版に基づく; Science 2019-04-19)
  6. 2018-11-28 BE3とCas9がオフターゲットとオンターゲットに誘導する変異プロファイル2報 1. 一塩基編集(BE3)はオフターゲットSNVsを顕著に誘発する WGSによるイネゲノム編集オフターゲットのin vivo査定
  7. 2019-03-02 C-to-T塩基編集(BE)は、イネでもマウスでも、大規模なオフターゲット変異を伴う
 In vivoでのオフターゲットプロファイリング関連crisp_bio記事
 BEのオフターゲットプロファイリング関連文献