[出典] "A CRISPR Knockout Screen Identifies Foxf1 as a Suppressor of Colorectal Cancer Metastasis that Acts through Reduced mTOR Signalling" Lee L [..] Tomlinson I. bioRxiv. 2019-04-18.
概要
- University of Birminghamを主とする英国研究グループの投稿:マウス大腸がん細胞MC38をマウスに大腸内視鏡により同所性移植したところ、全てのマウスに転移癌が発生した。肝臓転移は低頻度で、骨、脳、脊髄、脾臓、腎臓への転移は見られなかった。
- ゲノムワイドCRISPR KOスクリーンから肺転移を抑制する遺伝子18候補を絞り込んだ。その中にはmTORシグナル伝達を抑制するDptorと、腸の発生ならびに消化管系がん易罹患性に関与する転写因子FOXF1遺伝子が含まれていた。研究グループはFOXF1に注目し、広範な検証実験を進めた。
詳細
- MC38細胞ではFoxf1 mRNAのレベルが比較的高いが、ヒト大腸癌細胞では高頻度でFOXF1の発現レベルが抑制されている。そこで、FOXF1のKOに替えて、CRISPRa (SAM)によりヒト大腸癌細胞でのFOXF1発現を上方制御し、その結果、細胞移動が抑制されることを見出した。
- TCGA DBからの255件の大腸癌のトランスクリプトーム・プロファイルから、FOXF1の発現が活性な大腸癌細胞において発現が上方制御されている遺伝子群と下方制御されている遺伝子群とを同定した。その結果、これまでに報告されていたFOXF1のRB/E2Fシグナル伝達との負の相関および上皮間葉転換との正の相関に加えて、FOXF1の発現レベルとmTORC1シグナル伝達の活性化が逆相関することを発見した。
- TRANSFAC DBのデータベースについて からFOXF1の標的遺伝子として1,508遺伝子を同定し、MsigDBを参照したところ、上皮間葉転換とmTORC1シグナル伝達の遺伝子群の間の重複が見られた。
- CRISPRa (SAM)により7種類の大腸癌細胞でFOXF1を再発現させ、強く影響を受けたパスウエイ15種類を同定した。そのうちの一つがmTORC1シグナル伝達であった。
- FOXF1を再発現させたヒト大腸癌細胞株の中でSW480細胞株とHT29細胞株についてタンパク質レベルを解析し、mTORC1シグナル伝達のエフェクターであるリン酸化4E-BP1と、mTORC1のスキャフォールドタンパク質RPTOR (Raptor)が、下方制御されることを同定した。
- MC38細胞にてFoxf1を標的とするCRISPR/Cas9 KOを改めて実行し、mTORC1シグナル伝達と上皮間葉転換が亢進することを確認した。
- さらに、ヒト大腸癌細胞株LS174Tを移植した超免疫不全NSGマウスにおいて、mTOR阻害剤シロリムスが転移を抑制することを確認した。
- GEO登録のGSE41258データセットから186種類の初代大腸癌細胞と67種類転移癌 (肝臓47件、肺20件)のデータを解析し、FOXF1の発現レベルが転移癌で有意に低下していることも確認した。
- マウスモデルにおいてこれまでに大腸癌転移を促進する因子として、BRG1、MACC1、HIF1A、UBE2V1、CPT1A、および EPCAMが同定されてきた。 間葉系FOXF1は腸の発生を担うが、上皮系ではFOXF1の減少がmTORシグナル伝達と転移を亢進することを初めて同定した。
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