[出典] "Multifunctional CRISPR-Cas9 with engineered immunosilenced human T cell epitopes" Ferdosi SR, Ewaisha R. Nat Commun. 2019-04-23
背景
- CRISPR-Cas9システムの個別化遺伝子治療への展開が期待されていたところ、中国に続いて (crisp_bio 2017-04-26)、米国でも2019年4月にペンシルベニア大学で2名の患者を対象とするCAR-T療法の第1相試験が始まった。
- 一方で、Cas9に基づくヒトゲノム編集に伴うオンターゲットへの望ましくない変異誘導とオフターゲット部位の編集の課題と、CRISPR-Cas9システムに対する望ましくない免疫応答の課題の解決法は、未だ確立されていない。Cas9に対する免疫応答は、CAR-T療法のように患者由来の細胞をex vivoで編集した後に自家移植する場合には、編集後の細胞を選別することで、結果的に回避可能であるが、CRISPRi/aによる遺伝子発現調節などによるin vivoでの遺伝子治療 (crisp_bio 2017-12-08; Nat Neurosci, 2018)に向けて回避法を開発する必要がある。
概要
- Arizona State Universityの研究グループは今回、SpCas9がヒト細胞に免疫応答を引き起こすことを確認した上で、Cas9に変異を導入することで、その免疫応答を顕著に低減可能なことを示した。
詳細
- 健常人143人中82人 (57.3%)の血清にELISA法によりS. pyogenesライセートに対するIgG抗体を検出し、ライセートに高い反応性を示した80名のうち7名の血清に、組み換えSpCas9に対する抗体が存在することを確認した。
- HLA結合親和性に加えてT細胞受容体に接する残基の疎水性を考慮したエピトープ予測プログラムにより、SpCas9のペプチドについて結合性と免疫原性のスコアを算定し (それぞれ、Fig. 1引用下図b内のSbとSi)、HLA-A*02:01拘束性免疫優性T細胞エピトープを同定した (Fig. 1引用下図b参照)。
- 加えて、健常者12名由来の末梢血単核細胞 (PBMC)において、SpCas9 MHCクラスIエピトープについて、3~4ペプチド10種類を合成し、 IFN-γ secretion ELISpotアッセイし、免疫優性エピトープを同定し、予測プログラムと整合することを確認した。
- これらのペプチドに類似のペプチドが免疫エピトープデータベース (IEDB)に存在せず、T細胞免疫応答が、SpCas9ペプチドへの暴露以前から存在していたものではないことも確認した。
- Cas9のドメイン上にマップした免疫優性エピトープは、sgRNAと標的のDNAヘテロ二重鎖に結合するSpCas9のRECローブに位置した (Fig. 1引用上図最下段)。
- 次に、MHC結合に重要なアンカー残基に変異を導入することで、SpCas9がT細胞による認識を回避可能という仮説のもとに実験を進め、T細胞による認識が、αとβのアンカーへの変異導入によってそれぞれ25分の1と30分の1へ低減することを見出した。さらに、対応するCas9変異体の免疫原性がβ変異の場合に5.5分の1へと低減しつつ、Cas9の切断活性およびオフターゲット作用は野生型Cas9と同等なことを見出した。α変異Cas9についても同様の結果が得られた。
関連crisp_bio記事
- 2019-03-26 AAVsとCasタンパク質に対する適応免疫応答がサルにも内在;PAIR-C (Pre-existing Adaptive Immune Responses against CRISPR-Cas nuclease)
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