1. CRISPRシステムのアダプテーション過程は、Cas4-Cas1-Cas2複合体によって進行する
[出典] "The Cas4-Cas1-Cas2 complex mediates precise prespacer processing during CRISPR adaptation" Lee H, Dhingra Y, Sashital DG. eLife. 2019-04-25.
  • CRISPRシステムが侵入DNAの断片 (プレスペーサ/prespacer)をCRISPRアレイにスペーサとして組み込むアダプテーションの過程は、Cas1-Cas2インテグラーゼ複合体とCas4の協働で進むとする報告が、このところ相次いだ  (関連crisp_bio記事:CRISPRメモ_2019/04/09の第3項目など4件)。
  • Iowa State Universityの研究チームは今回、 ネガティブ染色電子顕微鏡法によりBacillus haloduransのタイプI-C CRISPRシステムのCas1-Cas2複合体およびCas4-Cas1-Cas2複合体の構造を明らかにし (Figure 1引用下図参照)、アダブテーションの分子機序を詳らかにした。Cas4-Cas1-Cas2
  • Cas4-Cas1-Cas2インテグラーゼ複合体にCas4が加わる複合体は、dsDNA存在下で、Cas4の2コピーがCas1の2ヶ所のインテグラーゼ活性部位と密接に相互作用することで形成される。
  • Cas4-Cas1-Cas2複合体におけるCas4が、dsDNAからのssDNAを精確にPAMの上流でin cisまたはin transに切断する (先行研究の報告と同じくCas4を伴わないCas1-Cas2複合体は切断活性を示さない)。
  • Cas4によって調整された断片がCas1-Cas2インテグラーゼ複合体に渡されてCRISPRアレイへ組み込まれることが示唆される。
  • 構造データ:EMDB-20128; EMDB-20128: EMDB-20130; EMDB-20131 (未公開)
2.ゲノムワイドCRISPRスクリーンにより、 免疫調節剤に対する原発性滲出性リンパ腫の耐性発生に関与する遺伝子を同定
[出典] "Genome-wide CRISPR Screens Reveal Genetic Mediators of Cereblon Modulator Toxicity in Primary Effusion Lymphoma" Patil A, Manzano M, Gottwein E. bioRxiv. 2019-04-25.
  • 多発性骨髄腫の治療薬として再認可されたサリドマイドから、レナリドミドポマリドミドといった免疫調節薬 (Immunomodulatory Imide Drugs, IMiDs)が誘導されたが、これらのIMiDsの標的タンパク質はセレブロン (CRBN)であり、セレブロン調節剤は、原発性滲出性リンパ腫 (primary effusion lymphoma, PEL)治療薬候補としても期待されている。
  • Northwestern Universityの研究チームは今回、その欠損が3種類のCMs (レナリドミド、ポマリドミド に加えてCC-122)に対する耐性をもたらす一連の遺伝子をゲノムワイドCRISPRスクリーンにより同定し、PEL診断のバイオマーカや免疫調節剤の改良・開発への手がかりを得た。
3. 炎症性腸疾患モデルマウスでの免疫細胞機能解析を目的とするCRISPR/Cas9技術に基づくプラットフォームの構築と評価
[出典] "Validation of a CRISPR/Cas9-based technology platform for examining specific immune gene functions in an experimental murine model of IBD" Wang R et al. bioRxiv. 2019-04-26.
  • 炎症性腸疾患 (Inflammatory bowel disease, IBD)は多因子がかかわる複雑な疾患である。GWAS解析からはIBD関連遺伝子として数百種類が同定されており、各遺伝子の機能解析が急がれる。
  • バイオ医薬品企業アッヴィ (AbbVie Inc.) の研究グループは今回、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術と造血幹細胞の移植技術を組み合わせて、CD40アゴニスト抗体で誘導した炎症性腸疾患 (Inflammatory bowel disease, IBD)モデルマウスin vivoにて遺伝子機能解析が可能なことを実証した。
  • はじめに、致死線量照射したCD45.1陽性コンジェニックマウスに、CD45.2陽性マウスから分離したLSK細胞 (CD48-, Lin-, Sca-1+, c-kit+)を致死量放射照射マウスに注入し、脾臓、骨髄、および血液で免疫システムが再構成されることを確認した (CD54.1とCD54.2はドナーとアクセプター識別のためのマーカ)。
  • 次に、Cas9をノックインしたマウス由来のLSK細胞にCD44を標的とするsgRNAを導入したのち移植し、in vivoでCD44タンパク質の発現が阻害されることを確認した。
  • さらに、CD40を標的とするsgRNAを導入したLSK細胞移植後にCD40アゴニスト抗体でIBDを誘導したマウスにおいて、CD40のノックアウトが炎症を緩和することを見出した。
  • CRISPR/Cas9に基づくプラットフォームによって、標的遺伝子の同定から創薬標的としての検証までの時間を大幅に短縮可能なことを示した。