[出典] "Novel screening system revealed that intracellular cholesterol trafficking can be a good target for colon cancer prevention" Miyamoto S [..] Mutoh M. Sci Rep. 2019-04-17.
  • がん化学予防は、天然物、合成または生物学的製剤を利用して、発がんの初期または前がん状態の細胞のがん細胞への進行を、逆行、抑制または予防する手法を言う。国立がんセンターの研究チームは今回、がんの初期段階の'hallmark'とされた細胞増殖とアポトーシスを指標とする化合物スクリーンに替えて、正常細胞または良性腺腫の悪性形質転換を予防する観点からの化合物スクリーンを行ない、大腸がんの化学予防薬候補として既存の抗真菌薬を同定した。
  • PDIS (Platform for Drug Discovery, Informatics, and Structural Life Science)事業の支援を受けて設立された東京大学創薬機構が提供する化合物ライブラリーのうちValidated Compound Library (リポジショニングや構築アッセイ系の確認に用いられるサンプルのセット既存薬 約1500サンプル、既知薬理活性試薬 約1900サンプル)由来の既存薬1,280サンプルを対象として、それぞれ未分化状態の維持と炎症反応の誘導に関与する転写因子TCF/LEFとNF-κβの活性を抑制し、抗酸化ストレスに寄与する転写因子NRF2の活性を亢進する化合物8種類を大腸がん予防薬候補として同定した。
  • その中で 、経口抗真菌剤として承認されているイトラコナゾールを、家族性大腸腺腫症モデルのMinマウス (Jackson eNews)で評価し、イトラコナゾールが腸ポリープ形成を顕著に抑制することを見出した。また、この抑制効果が、部分的に、イトラコナゾールのコレステロールの細胞内輸送阻害を介した転写因子の活性調節に由来することが、示唆された。
  • 本研究は、がん化を予防する観点からの化合物スクリーニングが薬剤候補同定に有効であり、コレステロールの取り込みに加えてコレステロールの細胞内輸送の抑制も大腸がん予防の標的であり、また、既存薬の承認時の対象疾患と異なる疾患の治療への再利用 (drug repositioning/repurposing/reporiling)*が創薬の手法として有効であることを示した。
  • (*) ドラッグ・リポジショニングは、長い時間と巨額の経費を必要とし、また、候補薬のドロップアウトが発生する段階である安全性試験の回避が可能になることから、注目を集めている創薬手法である。