(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/09/01)
- [論文] CRISPR/Cas9によるDSBからの修復がもたらす変異はランダムではない
- Corresponding author: Andrew P. May (Caribou Biosciences, Inc.)
- CRISPR/Cas9によるゲノム編集は、Cas9による二本鎖DNA切断(DSB)の修復に依存しているが、ようやくその修復機構への関心が高まってきた。CRISPR/Cas9を介したDSB修復は標的サイトにindelsをランダム発生するとされてきたが、研究チームは今回、DSB修復過程で発生する変異に法則性があることを見出した。
- HEK293細胞、K562細胞およびHCT116細胞において223か所を標的として、2種類の方法でゲノム編集を行った(Cas9タンパク質とsgRNAをRNP(リボ核タンパク質)として導入する手法と、Cas9を恒常的に発現させた細胞にsgRNAをレンチウルスで導入する手法)。
- ゲノム編集後時系列で、CRISPR/Cas9が切断したサイトの左右それぞれ50 ntの範囲を対象としてアンプリコンシーケンシングを行い、indelsのタイプ、位置、長さなどの変異プロファイリングを行った。その結果、DSB修復結果の変異プロファイルは、細胞株、CRISPR/Cas9の送達手法、および、複数回の実験には左右されなかった。
- ゲノム中に複数回出現する標的配列の修復結果の比較から、変異プロファイルがゲノム・コンテクストにも依存せず、プロトスペーサーの配列に依存することが明らかになった。
- DSB修復結果は、典型的な非相同末端結合(classical nonhomologous end- joining, c-NHEJ)とDNA末端のマイクロホモロジーを利用するMMEJ (alt-EJ/microhomology mediated end-joining) のバランスに依存する。 DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)を低分子で阻害することで、DSB修復機構をc-NHEJ依存からMMEJ 依存へと調節可能なことも示した。
- DNA修復プロファイリングによって、CRISPR/Cas9による初代細胞のゲノム編集結果を予測可能である。例えば、変異プロファイリングを利用してイン・フレームではなくアウト・オブ・フレームをもたらすgRNAを選択することで、遺伝子破壊効率を高めることが可能である。
- [論文] ゲノムと相同性を持たない合成DNA断片が、遺伝子の破壊効率が改善する
- Corresponding author: J. E. Corn (UC Berkeley)
- Cas9-sgRNAゲノム編集の活性がゲノム上の遺伝子座と細胞型に依存して大きく変動することが知られている。その原因は定かではないが、同一のsgRNAによるゲノム編集効率が細胞株や生物種に依存することから、DNA修復機構が関与するものと思われる。
- 研究チームは、相同組換修復(HDR)最適化を試みていた過程で、HDRのドナーとして利用する一本鎖DNAが、“error-prone repair”の頻度を高めることを見出した。そこで、Cas9タンパク質のタンパク質とsgRNAの複合体であるRNPをヌクレオフェクションでHEK293T細胞, U2OS細胞などに直接導入し、ssDNAの効果を系統的に解析した。
- ゲノム上に相同な領域が存在しない合成ssDNAを併用することで、多数のヒト細胞株において、遺伝子破壊変異の頻度が大きく上昇し、その結果、ホモ型遺伝子破壊が起こる細胞数も大きく増加した。
- ゲノムに非相同なDNA断片は、“error-prone repair”を亢進することが示唆された。
- [Spotlight] 体細胞ゲノム編集、急速に広がる(goes viral)
- Corresponding author: Lukas E. Dow (Cornell University)
- Creリコンビナーゼなどをウイルスで細胞へ送達する手法は体細胞のin vivo ゲノム操作に長年利用されてきた手法である。生体の体細胞のゲノム編集には、遺伝子破壊のタイミングの選択や、組織特異的ゲノム編集が可能など、生殖細胞系のゲノム編集に対する利点がある。CRISPR/Cas9システムをマウス乳腺に送達することで、従来法によるトランスジェニック・マウスにおける癌発生を再現可能なことを示したAnnunziato et al. (Genes Dev. , 2016) (*)を代表として、体細胞ゲノム編集の成功例を紹介。Casの免疫原生を抑制することで、体細胞ゲノム編集がさらに広がっていく。
(*) CRISPR関連文献メモ_2016/07/01ー 4.[論文] 乳腺のCRISPR/Cas9ゲノム編集による浸潤性小葉癌のモデリング - [注] 多能性幹細胞からの癌をテーマとするレビュー Jukian Gingold et al. “Modeling Cancer with Pluripotent Stem Cells” Trends in Cancer. Available online 2016 August 21.
- [論文] センダイウイルス(SeV)で送達するCRISPR/Cas9による効率的な遺伝子編集
- Corresponding author: Benhur Lee (Icahn School of Medicine at Mount Sinai)
- CRISPR/Cas9の送達に利用されているレンチウイルスとアデノ随伴ウイルスには、宿主ゲノムへの組み込まれる恐れがある。研究チームは今回、CRISPR/Cas9の送達手段として、細胞質内に留まり宿主ゲノムへ組込まれることがないセンダイウイルスを利用評価した。
- SeVの感染効率は高く、HEK293細胞、Vero細胞などの細胞株において、標的とした内在遺伝子座と導入遺伝子座に対して75〜89%の変異導入効率を達成した。また、初代ヒト単球のccr5 遺伝子座に対して88%の変異導入効率を達成した。
- SeVは造血幹細胞を含む広汎な細胞株に感染可能であり、これまでに遺伝子治療のベクターとしての研究の蓄積もあり、SeVさらにはパラミクソウイルス科は、ゲノム編集用ベクターへとして有用と考えられる。
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