[出典] "Cholesterol Induces CD8+T Cell Exhaustion in the Tumor Microenvironment" Ma X, Bi E [..] Yi Q. Cell Metabolism. 2019-04-25

 腫瘍浸潤T細胞は高頻度で抗腫瘍性を失う。Houston Methodist Research Institute (以下、HMRI) を主とする研究グループは、腫瘍微小環境のコレステロールがERストレス-XBP1の経路を介してCD8+T細胞を疲弊させることを明確にし、コレステロールレベル低減またはERストレス抑制によりCD8+T細胞の抗腫瘍性を活性化可能なことを示した:
  • 腫瘍組織内のコレステロールレベルと腫瘍浸潤CD8+T細胞内のコレステロールレベルが、PD-1、2B4、TIM-3ならびにLAG-3の発現と正相関。
  • 腫瘍細胞株へ養子移植した (adoptively transferred) CD8+T細胞は、コレステロールを取り込み、免疫チェックポイント分子を高発現させ、疲弊。
  • CD8+T細胞を腫瘍細胞培養上清またはコレステロールに暴露すると、脂質代謝異常が生じ、小胞体ストレス (ERストレス)が上昇し、免疫チェックポイント分子発現亢進。
  • ERストレスのセンサーXBP1が活性化され、PD-1と2B4の転写を調節。
  • XBP1阻害、または、腫瘍微小環境や腫瘍浸潤T細胞におけるコレステロールレベル低減によって、抗腫瘍活性亢進
crisp_bio注
背景 (原論文Introductionに準拠)
  • 腫瘍浸潤CD8+T細胞は、抗原に繰り返し暴露され、また、腫瘍微小環境による免疫抑制を受けて、徐々に抗腫瘍活性を失い疲弊し、PD-1、LAG-3、TIM-3、2B4、CTLA-4といった免疫チェックポイント分子を高発現するに至る。免疫チェックポイント分子、中でもPD-1、を標的とする抗体による癌免疫療法はかってない著効を示すが、一方で、低い奏効率、毒性および再発の課題を伴うことから、免疫チェックポイント発現の調節機構と、免疫チェックポイントを標的とする新たな戦略が必要とされている。
  • これまでに、PD-1の発現を調節する因子として、STAT3、STAT4、NFATc1、T-bet、およびBlimp-1といった転写因子や、DNAメチル化やヒストン修飾が報告されてきた。また、TIM-3の発現を調節する因子として、T-bet、AP-1およびc-Junが報告されている。これらのT細胞のゲノムおよびエピゲノム に由来する因子に加えて、近年、免疫抑制性の腫瘍微小環境に由来するT細胞の疲弊に関与する因子が、治療標的として注目を集め始めた。腫瘍微小環境調節因子でもあるTGF-βや腫瘍細胞に由来するVEGF-Aといった因子がもたらす免疫チェックポイント分子の発現亢進の他に、コレステロール代謝を調節することで、CD8+T細胞の抗腫瘍応答強化が可能なことも報告されている (Nature, 2016)。