[出典] "Structural basis for the promiscuous PAM recognition by Corynebacterium diphtheriae Cas9" Hirano S [..] Nishimasu H, Nureki O. Nat Commun. 2019-04-29;構造情報 PDB 6JOO: Crystal structure of Corynebacterium diphtheriae Cas9 in complex with sgRNA and target DNA (2.9 Å 分解能)
概要
- C. diphtheriae Cas9 (CdCas9)のPAMはNNRHHHY (N=A/C/G/T; R=A/G; H=A/T/C; Y=C/T)と'promiscuous'であり、Cas9オーソログのほとんどがG-richなPAMを認識するのに対して、CdCas9はG-lessなPAMも認識する。
- 東大と群大ならびにBroad Instituteの研究グループは、CdCas9/sgRNA/標的DNAの三者複合体構造を分解能2.9 Åで決定し、CdCas9が独特なPAMを認識する機構は、ファン・デル・ワールス相互作用と塩基特異的水素結合の協働に依存することを明らかにした。
詳細
- 研究グループはCdCas9のPAM配列についても、改めて、CdCas9-sgRNA22によるプラスミド切断実験で検証し、第1/2塩基には縛りがなく、第3塩基のRが必須であり、第4塩基から第6塩基にはアデニンへの偏りが存在することを見出した。
- CdCas9の活性については、in vitroでのDNA切断速度が遅く、ヒト細胞内では標的にindelsを誘導しないことが、報告されていた。これまでの報告は20-ntの長さのsgRNAを使用していたが、Cas9オーソログのgRNAにはそれぞれ最適な長さが存在する(SpCas9, SaCas9およびCjCas9、それぞれ、20-, 21-および22-nt)。
- 研究グループは今回、精製したCdCas9と20~24-ntの長さのsgRNA20~sgRNA24によるin vitro DNA切断実験を行い、sgRNA20では先行研究同様にDNA切断活性を示さなかったが、sgRNA21~sgRNA24を使用した場合はCdCas9がDNA切断活性を示し、sgRNA22が最適であり、SpCas9よりも遅いが2分以内にDNAを切断することを特定した。
- HEK293FTのDNMT1、DYRK1AまたはEMX1を標的とするsgRNA20~sgRNA24は、in vitro実験結果と異なり、いずれも編集活性を示さなかった。
- ラット受精卵にRNPとしてマイクロインジェクションした場合は、 CdCas9-sgRNA22がTet1EX4とTet1EX12に対してそれぞれ5%と8%の編集効率、CdCas9-sgRNA24がTet1EX12に対して56%の編集効率を示した。
- 結晶構造解析にあたって、CdCas9の全長結晶が得られなかったため、HNHドメインをGGGSCCリンカーで置換したCdCas9-ΔHNHと112-nt sgRNA (20-nt gRNA)ならびに28-ntの標的DNAの三者複合体の構造を決定した(Fig. 2 引用左下図参照)。全体構造はSaCas9、SpCas9ならびにFnCas9よりもCdCas9により近いが (Fig. 3 引用右下図参照) 、CdCas9のDNA切断機序は他のCas9オーソログと類似していることを示唆する構造であった。
- CdCas9とsgRNA結合の構造基盤およびPAM認識の構造基盤についても、他のCas9オーソログと比較しながら詳細に論じた。
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