(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/09/09)
- Corresponding author: Daniel A. Erlanson (Carmot Therapeutics, Inc.)
- 時に静かに成長を続けながら20年を経てFBDD (fragment-based drug discovery) が創薬に確固たる地位を築くに至った今、過去に学び、進むべき道を提示する。
- 重原子(non-hydrogen)30個以上のドラッグ・ライク(drug-like)化合物に対して、FBDDでいうフラグメントは通常、重原子20個未満の分子とされる。1980年代、フラグメントに対する期待は以下のようであった:
- FBDDのライブラリーは理論的には数千億種類の規模に及ぶが、現実には、数千のフラグメントの規模であり、ハイスループット・スクリーニング(HTS)が対象とする数百万規模の化合物ライブラリーに比較して小規模である。したがって、構築・管理・スクリーニングがHTSライブラリーより遥かに容易であり、小規模企業とアカデミアの研究室でもリード化合物を発見することが可能になる。
- フラグメントと特定のタンパク質との相互作用数は比較的少数であり、より多様なタンパク質のより多くのサイトに結合可能であり、ヒット分子に至る確率が高く、タンパク質間相互作用などの難度が高い標的の阻害分子の発見も可能になる。
- フラグメントはサイズが小さくまた多くは可溶性が高いという医薬品として優れた特性を有している。
- 1980年代は、偽陽性の識別法と親和性の向上法が存在していなかったことから、これらの特徴を活かすことが叶わなかったが、1990年代の終わりに、NMRによる構造活性相関解析法’SAR by NMR’が確立され、FBDD実現へのブレークスルーが起こった。SAR by NMRでは、フラグメントが標的タンパク質のアミノ酸に結合することによるタンパク質のNMRシグナルの変化を検出する。この高感度な手法により結合親和力が低いフラグメントの検出と結合サイトの同定が可能になったからである。また、当時、二種類のフラグメントを組合せることで結合親和力を高めることが可能なことも示された。
- FBDDによる創薬から、認可薬二種類(ベムラフェニブ(vemurafenib); BCL-2阻害薬venetoclax)が創出され、28種類の薬剤候補分子の治験が進んでいる(レビュー TABLE1)。
- [各論]
- FBDDのライブラリーの設計・構築:良いフラグメントを選択する基準と‘bad actors’を排除する方法
- FBDDのスクリーニング - 生物物理学の手法の勝利:NMR;表面プラズモン共鳴法(SPR);X線結晶構造解析;マイクロスケール熱泳動(MST);サーマルシフトアッセイ;弱親和性クロマトグラフィ (weak affinity chromatography)
- フラグメントからリードへ - 化学の出番
- 結論と展望
- リード発見を超えて:FBDDの開発過程で得られた知見や手法がHTSにも応用され始め(HTSライブラリーの見直し;スクリーニング早期への生物物理学的解析法の導入;分子量と脂溶性の重視)、FBDDとHTSを融合した ‘fragment-assisted drug discovery’が、特に大規模機関では、普及し始めた。
- 次の20年に向けての課題:FBDDライブラリーの設計(FBDDライブラリーは平面的な複素環式化合物が多くを占めているが、3次元的特徴を考慮した設計の評価;少量のタンパク質を対象として、1mM感度で検出可能な、簡易で安定した結合親和性測定技術の開発;リードの最適化技術の開発;FBDDへの理解を創薬の現場でさらに広げていく)
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