(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/09/11)
  1. [論文] Pyrococcus furiosus I-G型CRISPR/Casシステムの機構
    • Corresponding author: Michael P. Terns (University of Georgia)
    • 研究チームは先行研究で超好熱アーケアP. furiosus にI-A型 (Csa)、I-G型 (Cst)およびⅢ-B型 (Cmr)と3種類のエフェクター複合体が共存し、in vivo にていずれもが外来DNAを排除することを見出していた。
    • 今回、Cst crリボ核タンパク質(RNP)複合体をin vitro で再構成し、Cstを構成するCasタンパク質Cas5t, Cst1, Cst2, およびCas3の機能を明らかにした。
  2. [論文] 合理化されたI-C型システムのCascade複合体の構造と要素タンパク質の役割
    • Corresponding authors: David W. TaylorJennifer A. Doudna (UC Berkeley);
    • I型およびⅢ型 CRISPRシステムのほとんどが、4つまたはそれ以上のタンパク質で外来核酸を監視する複合体を構成するが、I-C型システムではわずか3つのタンパク質(Cas5c, Cas7およびCs8c)で構成されるCascade/I-C複合体によって、crRNAが成熟し、標的二本鎖DNAが認識される。今回、Desulfovibrio vulgaris のI-C型CRISPRシステムにおける各タンパク質の役割を明らかにした。また、クライオ電顕によってCascade/I-C複合体の構造を明らかにした。
    • EMデータ
      • EMDB 8294: apo-Cascade/I-C(6.7 Å)
      • EMDB 8295: 2x duplex DNA target-bound Cascade (8.8 Å)
      • EMDB 8296: 1x duplex DNA target-bound Cascade/I-C (7.6 Å)
  3. [論文] CRISPRleader:CRISPR遺伝子座のリーダー(leader)配列の探索
    • Corresponding authors: Fabrizio CostaRolf Backofen (U. Freiburg)
    • CRISPR/Casシステムの免疫応答は、外来遺伝因子から断片配列を切り出し、CRISPRアレイの端に隣接するリーダー配列の次から挿入する“adaptation(適応)”と呼ばれている段階から始まる。このリーダー配列には、CRISPRアレイの転写開始と適応のシグナルが位置しているが、その保存性が低いため、リーダー配列の網羅的解析が進んでいなかった。
    • CRISPRアレイに存在する共通リピートと上流に保存されている弱いシグナルに注目したリーダー配列検出プログラム “CRISPRleader”を開発し、既知ゲノムを解析し、アーケアとバクテリアに特有なリーダー配列の特徴を見出し、プログラムとリーダー配列の195のクラスターの配列アライメントを公開した。
    • CRISPRleader Webサイト:CRISPRleader - An efficient tool to determining CRISPR leader boundaries
  4. [Letter to the Editor] CRISPR進化過程における軍拡競争:CRISPR/Casに抗するウイルスの応答
    • Corresponding authors: Xinzheng Zhang (National Lab. Biomacromolecules/Inst. Biophysics); Yanli Wang (Key Lab. RNA Biology/Beijing Key Lab. Noncoding RNA/U. Chinese Academy of Sciences)
    • I-F型CRISPR/Casシステムでは、Cas1とCas2がスペーサーをCRISPRアレイに挿入し、Csy4がCRISPRアレイから成熟crRNAを生成し、Csy4-crRNAの複合体がCsy1, Csy2およびCsy3タンパク質と集合して、標的DNAを認識するCsy複合体を構成し、Cas3をリクルートして、侵入DNAを分解する。一方で、ファージの抗CRISPR免疫システム戦略には、プロトスペーサーまたはPAM配列の変異の他に、非典型の5種類の抗CRISPR(anti-CRISPR, Acr)ファージタンパク質 が存在し、その3種類AcrF1, AcrF2およびAcrF3がCsy複合体に直接結合することが明らかにされた。
    • 今回、ファージJBD5の遺伝子35にコードされるAcrF3タンパク質と、AcrF3とP. aeruginosa のCas3との複合体構造解析を行って、AcrF3二量体がCas3タンパク質に結合する機序を明らかにした。
      • AcrF3二量体がCas3のHD, リンカー、およびCTDドメインに結合し、DNAのCas3へのアクセスを阻害することで、ファージはCRISPR/CasシステムによるDNA分解を回避する。
    • PDB登録構造
      • 5GNF: AcrF3(1.5 Å)
      • 5GQHP. aeruginosa Cas3-AcrF3 (4.2 Å)
  5. [レビュー] Cas9を介したショウジョウバエのゲノム編集
  6. [論文] CRISPR/Cas9により劇症肝不全モデルマウスを治療する
    • Corresponding authors: Mary Wei-Ming Fu (Chinese U. Hong Kong); Wei-Ming Fu (Southern Medical U.)
    • 正常な肝臓に発症する劇症肝不全は重篤な疾患である。研究チームはモデルマウスのFas遺伝子を標的とするCRISPR/Cas9の効果を、マウス培養細胞とコンカナバリンAによる劇症肝炎モデルマウスにおいて、解析した。
    • CRISPR/Cas9のin vivo 送達は、マウス肝臓の恒常性を維持され、肝細胞をFasを介した細胞アポトーシスから保護した。
  7. [論文] CRISPR/Cas9は難易度の高いマウス遺伝子座への条件突然変異導入を実現する
    • Corresponding authors: William C. Skarnes (Wellcome Trust Sanger Inst.); Wolfgang Wurst (Helmholtz Zentrum München)
    • The International Knockout Mouse Consortium (IKMC)は、C57BL/6Nマウスの条件突然変異導入用にゲノムワイドで15,000種類の遺伝子ターゲッティング・ベクター・ライブラリーを保有している。マウスES細胞においてほとんどの遺伝子はこのベクター・ライブラリーによって標的とすることが可能であるが、ほぼ2,000種類の遺伝子は標的とならない。今回、CRISPR/Cas9[D10A]によって、これらの遺伝子を標的とする変異導入を実現した。
    • IKMCのベクター・ライブラリーとCRISPR技術を併用することを期待している。
  8. [論文] CRISPR/Cas9とiPSCの融合によるモデルマウスにおけるヒトβサラセミアの遺伝子治療
    • Author: Daolin Tang (广州医科大学/U. Pittsburgh); Xiaofang Sun (广州医科大学)
    • βサラセミアは、βグロビン遺伝子(HBB)の点変異または小さな欠損が病因である。研究チームは、βサラセミアの患者由来のiPSCの遺伝子変異をCRISPR/Cas9によって修復した造血幹細胞(hematopoietic stem cells, HSCs)を、致死量以下の放射線照射したNOD-scid-IL2Rg-/-マウス(以下、NSIマウス)に注入し、NSIマウスにおいて血球分化後にHSCsにおいてHBBが発現することを見出した。
    • 重要なことは、NSIマウスにHSCsを移植後10週間後、肝臓、肺、腎臓、あるいは骨髄に腫瘍が検出されなかったである。
  9. [論文] Staphylococcus aureus Cas9によりマウスの効率的高精度な遺伝子編集が可能である
    • Corresponding authors: Zhou SongyangJunjiu Huang (中山大学)
    • Streptococcus pyogenes Cas9 (SpCas9)に替えて、より小型で異なるPAM(5′-NNGRRT-3′)を認識するStaphylococcus aureus Cas9 (SaCas9)によって、マウス接合子のX連鎖遺伝子Slx2 と常染色体遺伝子Zp1 を効率的かつ選択的に編集可能なことを実証した。また、SaCas9を介したチロシナーゼ遺伝子(Tyr)の破壊によってC57BL/6Jの毛色がモザイク状になることを示した。
    • これら3種類の遺伝子を標的とするsgRNAsとSaCas9 mRNAの送達による多重遺伝子破壊も効率的であった。
    • さらに、Flagをコードした一本鎖DNAオリゴヲSaCas9 mRNAとgRNAを同時に送達することで、FlagタグをヒストンH1c のC末端に挿入することに成功した。
  10. [ミニレビュー] Cas9からの展開
    • Corresponding author: Ling Zhao (中山大学)
    • 2ページのミニレビュー。Casタンパク質(Cas9, Cpf1, C2c2, dCas9およびdC2c2)とCRISPR/Casシステム(CRISPR/Cas9, CRISPR/Cpf1およびCRISPR/C2c2)の簡便な比較表あり。