1. 相同組み換えに替えて毒素-抗毒素システムに基づくCRISPRドライブシステムにより、耐性発生と無制限な拡大を回避する
[出典] "Performance analysis of novel toxin-antidote CRISPR gene drive systems" Champer J et al. (Cornell U). bioRxiv 2019-05-05
- 毒素-抗毒素システム (Toxin-antitoxin system, TA)はMedea遺伝子ドライブ (Medea gene drive)システムに利用されているが、Medeaの構成要素はショウジョウバエ特異的である。Cornell Universityの研究チームは今回、CRISPR-Casシステムに基づいたTAドライブを開発した。
- TAドライブの'Toxin'は必須遺伝子を標的とするCas9-gRNAsであり、'Antidote'は、遺伝子ドライブ回避のためにsgRNAsとの相補性を欠くようにリコードした遺伝子である。TAドライブ・アレルはそれぞれ、この'Toxin'と'Antidote'を帯びている。
- 研究チームは、TAドライブ・アレルを帯びた個体が野生型集団に引き起こすダイナミクス (ポピュレーションダイナミクス)を、世代間のオーバーラップが無い離散世代モデルでありまた決定論的なモデルによりシミュレーションした。
- 具体的には、劣性致死遺伝子を標的とするTARE (Toxin-Antidote Recessive Embryo Fig. 2引用左下図参照)、ハプロ致死遺伝子を標的とするTADE (Toxin-Antidote Dominant Embryo)、ならびに、精子形成に必要な遺伝子を標的とするTADS (Toxin-Antidote Dominant Sperm)の3種類とそのバリエーションについて、分析し、HDRを介したhomingによるCRISPR遺伝子ドライブなどの既存のシステムと作用と比較対照した (Table 1引用右下図参照)
2. デイジーチェイン型遺伝子ドライブは、自己増殖し、自己収束する
[出典] "Daisy-chain gene drives for the alteration of local populations" Noble C, MIN J [..] Church GM, Now MA, Esvelt KM. PNAS 2019-04-02
- これまでに、自己増殖するCRISPR-Cas9システムに基づく遺伝子ドライブが、酵母、ショウジョウバエおよびマラリア媒介蚊とハマダラ蚊、さらにマウスを対象とする実験室内実験で実証されてきたが、実用化には、遺伝子ドライブが無制限に国境を超えて地球規模に広がらないように封じ込める技術開発が課題である。
- MITのK. M. EsveltとHarvard Medical SchoolのG. M. Churchが率いる研究グループは今回、数理モデルに基づいたシミュレーションにより、デイジーチェーン方式の遺伝子ドライブが、効率的な遺伝子ドライブを実現するとともに、封じ込めの課題も解決することを示した (Fig. 1 引用下図参照)。
- デイジーチェイン型遺伝子ドライブは、遺伝子ドライブの部品 (たとえば、gRNA、改変DNA断片、Cas9)を異なる染色体に分散し、ベースになり自己増殖しない部品の存在のもとに2次部品が合成され、2次部品の存在のもとに合成される3次部品が遺伝子ドラブとして機能するという多段化 (3段に限らない)に基づき、自己増殖しない部品がやがて枯渇することで2次部品と3次部品の合成、ひいては遺伝子ドライブが収束していく仕組みであり、数世代で遺伝子ドライブの広がりが止まることを期待できる。
- YouTube解説ビデオ (5m 14s): Dasy-chain gene drives. MIT Media Lab. 2019-04-03
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