[出典] "Crystal structure of a mammalian Wnt–frizzled complex" Hirai H, Matoba K, Mihara E, Arimori T, Takagi J. Nat Struct Mol Biol 2019-04-29;[PDB登録構造情報] 6AHY: Wnt signaling complex
背景 (原論文 Introductionに準拠)
- Wntファミリーのタンパク質は細胞外分泌糖タンパク質であり、器官形成、組織再生、癌化などの細胞機能を制御する。Frizzled (Fz)ファミリーのタンパク質は、7回膜貫通タンパク質であり、そのN末端領域 (NTD)のシステインチッリドメイン (CRD)を介してWntタンパク質に結合し、Wntタンパク質のプライマリー受容体として機能する。
- 古典的Wnt経路 (β-カテニン経路)においては、Fzとは異なる細胞表面タンパク質であるLDL受容体のLRP5またはLRP6が、Wntの補助受容体として機能する。これら、Wnt、Fz、およびLRPの三者の間の相互作用の構造基盤の解析は、共有結合性脂質修飾によりWntタンパク質が強い疎水性を帯びていることから容易ではなかった。
- 2012年になってようやく、Jandaらが (Science, 2012) Xenopus Wnt8 (xWnt8)とマウスFrizzled-8 (Fz8)-CRDとの複合体構造(PDB 4F0A) を発表し、続いて2013年にChuらが (Structure, 2013)によるショウジョウバエのWntD N末端ドメインの構造 (PDB 4KRR)を発表した。
- しかし、xWnt8とWntDは、Wntファミリーの~19種類のタンパク質の中でも、ジスルフィド結合サブドメインを含むN末端ドメイン (NTD)を欠失した非典型的タンパク質であったため、これまで、哺乳類Wntタンパク質の精密なホモロジーモデリングまでに至らなかった。
- 阪大蛋白研の高木研究室は今回、ヒトWnt3 (hWnt3)の結晶化を実現しX線結晶構造解析に成功し、hWnt3に近縁のマウスWnt3a (mWnt3a)にて、タンパク質領域の機能解析を進めた。
成果
- hWnt3とmFz8のコンストラクトの徹底的な最適化と様々な化学修飾を経て高発現、高可溶性およびサンプルの一様化を実現し、リジンメチル化および脱グリコシル化したhWnt3とmRz8 CRD複合体の結晶を得て、分子置換法によるX線結晶構造解析により、分解能 2.8 Åの構造を得た (RCSB PDBのNGL Viewerからキャプチャーした下図左参照;下図右はxWnt8の構造)。
- Cα原子鎖のr.m.s.dからみてhWnt3の構造はxWnt8の構造に重なった。また、mFz8との結合がxWnt8と同様に2ヶ所のサイトでの相互作用に依存し、3種類のプロトマーの構造情報からも、hWnt3がmFz8と結合後も揺れ動くことが示唆された。
- 一方で、hWnt3が結合したmFz8 CRDは、xWnt8が結合したmFz8 CRDと異なり、複合体結晶内で対称二量体を形成していることを見出した。この二量体化は、hWnt3に結合したCRDが互いに不飽和アシル鎖の先端を交換することで実現されていた。こうして、X線結晶構造解析からhWnt3とmFz8が2:2の複合体を形成することが明らかになったが、溶液中でも濃度依存で2:2複合体を形成することが、結晶化前のゲル濾過プロファイリングまた後述のmWnt3aの実験から、明らかになった。
- 今回得られたhWnt3の構造をもとにして近縁のmWnt3aの6ヶ所へのPAタグ挿入を実現し、PAタグ挿入変異体によりmWnt3aの各領域の機能解析を試みた。
- PAタグ挿入実験の結果も参照して、mWnt3aの極めて柔軟な'linker'領域(上図hWnt3/mFz8-CRD複合体の構造の左上)が、βヘアピンを形成してFrizzled結合界面から反対側突き出す構造をとり、mWnt3aの補助受容体への結合を可能にしていることが示唆された。
- 表面プラズモン共鳴解析を介してWnt3が補助受容体LRP6に直接結合することを確認し、WntとFz受容体との結合に始まるmWnt3a-mFz8Fz-LRP6三者複合体形成機構のモデル構築に至った (原論文Fig. 4-h参照)。
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