[出典] "Peptide barcoding for establishment of new types of genotype–phenotype linkages" Miyamoto K [..] Ueda M. PLoS One. 2019-04-23

 概要
  • 京都大学、大阪府立大学などの研究グループは今回、ラクダ類の単一ドメイン抗体に由来するナノボディーを対象として、遊離状態でその結合活性を偏りなく定量的に測定可能とするスケーラブルなプラットフォームを開発した。
 背景
  • 抗体をはじめとする結合体(binders)は、試薬、診断薬ならびに治療薬として有用な生物製剤である。目的とする結合特性を帯びた結合体は、精製した候補分子の動態パラメーターを表面プラズモン共鳴法またはELISAにより測定することで、精度良く同定可能であるが、スループットが低い弱点がある。これに対して、ファージディスプレイ法が開発されて以来、ハイスループットな候補分子群の生成と選別を可能にする様々なディスプレイ法が発展してきた。
  • ディスプレイ法では、候補結合体 (例 抗体)と細胞表面タンパク質(例 ファージのコートタンパク質)をそれぞれコードするDNAを融合したキメラDNAを細胞表面に発現させ、発現した抗体を、しかるべき抗原との結合親和性から目的とする抗体を選別(バイオパニング)していく。
  • ファージディスプレイ法の場合は、それぞれのファージ粒子を介してディスプレイされた抗体とそれをコードするDNAが1対1で対応づけられることから (genoetype-phenotype linkages)、結合性が高い抗体を帯びたファージ粒子を大腸菌内に導入しては選別を繰り返すことで、より結合親和性が高い抗体を大量に獲得することが可能になる。
  • ディスプレイ法は、抗体を細胞表面に固定することになることから、抗体が必ずしも生理的条件下での遊離状態での結合親和性を示さず、抗原へのアクセシビリティも生理的条件下と異なる。さらに、抗体のコピーが多数発現することから個々の抗体の結合親和性 (affinity)ではなく複数コピーが関与した結合活性avidityを見ることになり、(特に、抗原がオリゴマーの場合)、選別された抗体が遊離状態では弱い結合親和性を示す問題も伴う。そこで、抗体を含む結合体の結合特性を遊離状態で判定する手法の開発が試みられてきた。
 研究成果
  • プラットフォーム (FIg. 1引用下図参照):ナノボディーの遺伝子に質量分析で高感度で検出されるように設計したペプチドをコードするDNA断片をバーコードとして融合したキメラDNAを、真核生物でのタンパク質フォールディング機構を内在するメタノール資化酵母Pichia pastorisに導入し、ペプチドバーコード付ナノボディーを発現・分泌させる。Nanobodies 1
    続いて、多様なナノボディーの混合を、抗原で被覆した磁気ビーズと反応させワンポットで反応させ、非結合ナノボディーを洗い流した後、バーコードのペプチドをプロテアーゼ (実験ではエンテロキナーゼを使用)でナノボディーから切り離し、感度、選択性および定量性が極めて高いLC-MS/MS (Nexera UHPLC/HPLC - LCMS-8060, Shimzu)を利用した選択反応モニタリング (selected reaction monitoring: SRM)にて同定する。
  • 抗CD4ナノボディと抗GFPナノボディーをモデルとして (Fig.2引用下図参照)、Nanobodies 2
    本手法を実証し、また、ペプチド・バーコーディングがナノボディーの結合特性に影響を与えないことを確認した。
  • 本手法には、DropSynth などを利用したバーコーディングのスケール拡大、100,000種類を超えるSRMランジッションのデータが蓄積されているSRMAtlasデータベースを利用したLS-MS/MS解析に最適なバーコード設計のスケール拡大、を今後期待できる。
  • 本手法と同様に、ランダムなペプチド・バーコードを利用しながら、大腸菌での発現を経て、オービトラップ型MSによるペプチド分析を介したナノボディー作出を実現したNestLink法 ("Engineered peptide barcodes for in-depth analyses of binding protein ensembles" Egloff P [..] Seeger M. bioRxiv. 2019-03-23)とも比較し、予め設計したバーコードの使用とP. pastorisでの発現の優位性を指摘した。
  • 本手法は、ナノボディー以外の結合体にも展開可能である。