(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/09/18)
1. [論文] GEEP:体細胞核移植に替わるモデルブタの作出法を確立
[出典] 谷原史倫(Fuminori Tanihara) et al. “Somatic cell reprogramming-free generation of genetically modified pigs.” Sci. Adv. 2016 September 14;2(9):e1600803.; プレスリリース→徳島大学. “ゲノム編集ブタ作製の新手法の確立” 2016年9月15日.
- Corresponding authors: 竹本龍也;音井威重(徳島大学)
- モデルブタは体細胞核移植(somatic cell nuclear transfer, SCNT)によって作出可能になったが、SCNTは高度な技術と時間を要し、また、効率が低いことが懸案となっていた。他のモデル動物のゲノム編集に活用されているCRISPR/Cas9技術も、マイクロインジェクションによるブタの受精卵への導入が技術的に困難であった。研究チームは今回、簡便にモデルブタを作出可能とするGEEP(Genome Editing by Electroporation of Cas9 Protein)法を確立した(参考図参照)。
- はじめにマウス受精卵を利用して最適条件を探ったエレクトロポレーションにより*、大量に培養したブタの体外成熟(IVF)受精卵へCas9 mRNAとsgRNAを送達した。さらにCas9 mRNAをCas9タンパク質に変えることで、胚盤胞形成の確率を損なうことなく、編集効率を25%から90%へと高めた (* マウス: Sci Rep 2015; 5: 11315; Dev Biol. 2016 Oct 1;418(1):1-9.).
- 予備実験の標的とした繊維芽細胞増殖因子10(FGF10)に続いて、ミオスタチン遺伝子(MSTN)の第1エクソンを標的とする7種類のsgRNAを設計・利用し、GEEP法によるブタのゲノム編集を実証し、その効率がsgRNAに依存することを見出した。
- 次に、卵管への胚移植を経て、MSTNに変異を導入し子ブタの作出に成功した。SCNTと異なりエピゲノムのリプログラミン不要なGEEP法は効率が高い。
- [利用例] CRISPRメモ_2018/10/25 [第1項] CRISPR-Casによりヒト癌モデルにもなり得るTP53変異ブタを作出
2. [PERSPECTIVE] 原核と真核の免疫機構のいいとこ取り
[出典] PERSPECTIVE“Harnessing mutation: The best of two worlds.” Silvestro G. Conticello & Cristina Rada. Science. 2016 September 16;353(6305)1206-1207; “A useful AID for genome editing” Guy Riddihough. Science 2016 September 16;353(6305)1247-B.
- Corresponding author: Cristina Rada (MRC Laboratory of Molecular Biology)
- 原核生物の獲得免疫機構と真核生物の免疫機構を組合わせた精密な変異導入システムを展望。
- CRISPR/Casシステムが標的dsDNAに結合する際に、dsDNAのうちgRNAが結合する標的ストランドに対して、非標的ストランドはCas9に固定されるが、そのPAM認識部位に隣接する領域のごく一部がフリーになり(バブルを形成し)、一本鎖に作用する酵素の格好な基質となる。例えば、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(Activation-Induced (Cytidine) Deaminase、AID)やAPOBECs(アポリポタンパク質B-mRNA編集酵素触媒ポリペプチド/apolipoprotein B mRNA editing enzyme catalytic polypeptide)のようなシトシン脱アミノ化酵素 である。
- 相同組換のテンプレートとなるDNAとCas9を組合わせた相同組換修復機構による変異導入は、未だ効率が低くまた意図しないin/delsが発生する危険性を伴う。これに対して、dCas9とデアミナーゼの融合は、一本鎖のDNAに特異的かつ局所的にシトシン(C)をウラシル(U)に置換する。
- 西田~近藤らと、Komor~Linら(*)は、ウミヤツメ(Petromyzon marinus)由来の哺乳類AIDホモログPmCDA1が精密な点変異導入に有効であり、さらに、内在するDNA修復酵素ウラシルDNAグリコシラーゼを不活性化するバクテリオファージ由来のペプチド(ugi)によって変異効率が上昇することを示した。
(*) Komor~Linらは、ラットのAPOBEC1、ヒトAID、ヒトAPOBEC3Gについても実験 - 一過性のdCas9-PmCDA1-ugiを利用することでindelsを回避可能であり、この技術には酵母ディスプレイ系による抗体創製をはじめとする多様な応用分野が拓けている。また、両研究チームの研究成果はデアミナーゼの機能への理解も深めた。
- 一方で、現時点での信頼性の高い遷移はGCからATへに限定されている。また、バブルの領域内における不確定性を排除し、gRNAによる標的DNA部位の認識精度をさらに高めていく必要がある。
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