(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/09/22)
  1. [RESEARCH HIGH LIGHT/論文] 新ゲノム編集技術:構造をガイドとするエンドヌクレアーゼ(structure-guided endonuclease, SGN)を開発
    • RESEARCH HIGHLIGHT corresponding author: Shawn M. Burgess (NHGRI, NIH) 
      論文 corresponding authors: Minsheng Zhu; Qingshun Zhao; Guohua Zhou (南京大学)
    • CRISPR/Cas9システム技術の研究開発の加速と共に、新たなゲノム編集技術の探索研究もまた加速している(例 Cpf1, C2c1, C2c2, そしてC2c3NgAgo)。Genome Biology 誌に今回、部位特異的人工ヌクレアーゼTALENやZFNに利用されたていたⅡ型制限酵素Fok1とDNAの修復と複製に関与することが知られているフラップエンドヌクレアーゼ-1(flap endonuclease 1, FEN-1)で構成した“structure-guided endonuclease (SGN)”が報告された。
    • 41050001
      • [参考図参照] SGNでは、FEN-1が3’フラップ構造の認識し、Fok1二量体が二本鎖DNAを切断する。FEN-1を標的部位に誘導するのは、ゲノムの標的鎖と結合し3’フラップ構造を作り出すように設計した20 bp以上の長さの二本のDNA鎖である。3’フラップ構造は、3’末端の1塩基が標的鎖とミスマッチになるように設計することで実現。
      • SGNをゼブラフィッシュの外来遺伝子(eGFP)と内在遺伝子(znf703 ;cyp26b1)の編集で検証
      • SGNの特性
        • PAMに縛られない;ガイドDNAの長さが20塩基以上であることが必要;SGNsの標的部位は、ガイドDNA3’末端から9-10塩基の位置;3’末端におけるミスマッチの種類は効率に影響しないが、二本のガイドDNAの標的の間隔に依存(50 bpで25%)
        • 切り出す長さがほぼ650から2,600 bpと画期的に長い(この機構は不明としながらも、原論文図8にそのモデルが提案されている)。
    • RESEARCH HIGHLIGHTは、効率の向上と修復テンプレートを利用した置換の実現、および、再現実験による検証を期待。
  2. [論文] ショウジョウバエにおいてCRISPR/Cas9遺伝子編集の結果に母性効果遺伝が影響する
    • Corresponding author: Christopher J. Potter (Johns Hopkins University School of Medicine)
    • GAL4 トランスジーンを標的とするCRISPR/Cas9システムによって、in vivo でトランスジェニック・ショウジョウバエを作出したところ、CRISPR/Cas9システムの要素がゲノムに含まれていない子孫においてもGAL4トランスジーン配列に変異が起こることを見出した。
    • この現象は、母体効果遺伝(*)によってCas9とgRNAsが胚に蓄積し、体細胞においても生殖系組織においてもGAL4 変異が亢進することが原因であり、この現象を“dominant maternal effect”と名付けた。 
      (*) 母性効果遺伝(maternal effect inheritance):動物の表現型はオスとメスからそれぞれ継承した染色体だけでは決定せず、メスの配偶子由来の初期の細胞質環境が胚の発生に決定的な影響を与える。この細胞質には、メスのゲノムで決定された細胞小器官、RNAおよびタンパク質を含んでいる。発生中の胚にオスからの正常な遺伝子が存在するにもかかわらず、子孫がメスからの変異を継承する現象を母性効果遺伝と呼ぶ。
    • "遺伝子ドライブ"に取り組む際には、“dominant maternal effect”により、DNAを編集する要素が存在しない子孫でも遺伝子編集が起こり得ることに留意する必要がある。
  3. [論文] 変異アレルに特異的なCRISPR/Cas9によるハンチントン病変異の持続的不活性化
    • Corresponding author: Jong-Min Lee (Massachusetts General Hospital/Harvard Medical School/Broad Inst.)
    • ハンチントン病は、HTT 遺伝子におけるCAG反復配列の異常な伸長がもたらす機能獲得型の優性遺伝病である。研究チームは今回、ハプロタイプに特異的なCRISPR/Cas9ゲノム編集によって、ハンチントン病遺伝変異の持続的不活性化が可能なことを示した。
      • 変異染色体上のSNPアレルによって生成されるPAMサイトに基づいて設計したgRNA一組を利用して、変異HTT 遺伝子のプロモーター領域、転写開始点、およびCAG伸長領域にわたる〜44 kbのDNAを選択的に切り出した。この遺伝子編集は、変異HTT のmRNAとタンパク質の生成を完全に阻害したが、正常なアレルには影響を与えなかった。
  4. [論文] ネスチン(Nestin)を高発現する高転移性乳癌細胞の弾性測定
    • Corresponding author: 中村 史(産総研・東京農工大)
    • 中間径フィラメントタンパク質の一種ネスチン(Nestin)は、神経幹細胞のマーカーとして利用されているが、高転移性の癌細胞で高発現するという報告がなされ、癌細胞の転移に関与すると見られている。今回、ネスチンを高発現しているマウス乳癌細胞株SC2のネスチンをCRISPR/Cas9技術でノックアウトし、ネスチンと転移性の関連を探った。
      • ネスチンは3つのドメインとロッド・ドメインで構成されているが、そのロッド・ドメインを標的とするsgRNAを設計。リポフェクションを使ってCas9とsgRNAを発現するプラスミドをSC2細胞に導入。ネスチンが破壊されていた3つのクローンのゲノムシーケンシングによって、ネスチン遺伝子に塩基欠失に由来するフレームシフトが起きていることを確認。ネスチンをノックアウトしたSC2(以下、KO SC2)をモデルマウスに静脈内注射させたところ、生存期間が大きく伸びた。
      • SC2とKO SC2の弾性を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope, AFM)によって測定したところ、KO SC2のヤング率がSC2よりも有意に高かった。ネスチンを高発現によって「柔らく」なることが、転移に有利と考えられる。
  5. [技術報告] ヒトES細胞のTLE1 遺伝子をCRISPR/Cas9技術によりノックアウト(ホモ接合型)
    • Corresponding author: Lindy E. Barrett (Broad Inst./Harvard U.)
    • ヒトES細胞株WA01におけるTLE1 (Transducin Like Enhancer of Split 1)遺伝子の第2エクソンを標的としてCRISPR/Cas9により編集し、TLE1 第2エクソンにバイアレリックに1 bp挿入され、それによってフレームシフトが発生し、全長TLE1タンパク質が生成されず、かつ、多分化能とゲノム完全性は維持されているヒトES細胞株TLE1-464-G04を樹立した。
  6. [技術報告] ヒトES細胞のTLE3 遺伝子をCRISPR/Cas9技術によりノックアウト(ヘテロ接合型) 
    • Corresponding author: Lindy E. Barrett (Broad Inst./Harvard U.)
    • ヒトES細胞株WA01におけるTLE3 (Transducin Like Enhancer of Split 3)遺伝子の第7エクソンを標的としてCRISPR/Cas9により編集し、TLE1 第7エクソンがモノアレリックに5 bp削除され、それによってフレームシフトが発生し、TLE3タンパク質の発現がノックダウンされ、かつ多分化能とゲノム完全性は維持されているヒトES細胞株TLE3–447-D08-A01を樹立した。