[出典] "Total synthesis of Escherichia coli with a recoded genome" Fredens J, Wang K, de la Torre D, Funke LFH, Robertson WE [..] Chin JW. Nature 2019-05-15; (2019-05-18追記) [NEWS AND VEIEWS] "Construction of an Eshcherichia coli genome with fewer codons set records" Blount BA, Ellis T. Nature 2019-05-16.
Genomically Recoded Organisms (GRO)
- 2016年にボストンにてヒトゲノムを書くプロジェクト'HGP-write'のクローズとな会合が開催され、物議を経た後、2017年にニューヨークでオープンな'GP-write'会合が開催され、その際に「ヒト遺伝暗号の書き換え」が提唱された (crisp_bio *1)。一方で、原核微生物ゲノムの合成はすでに2010年に、Craig Venterらが1.08 Mbサイズのゲノムを帯びたMycoplasma mycoides JCVI-syn1.0作出で実現していた (crisp_bio *2)。
- 'HGP-write'会合を企画した一人であるGeorge M. Churchも、遺伝暗号を書き換えたE. coliを作出し(Science 2013, 2016)、2013年論文でGenomically Recoded Organismsを意味するGROを使い始めた。
- 合成ゲノムは真核微生物についても2000年代初めから試みられてきた。Jef D. Boekeの取り組みが国際共同プロジェクトに発展したSynthetic Yeast 2.0 (Sc2.0)は、2017年に酵母染色体6種類を合成 (synII、syn III、synV、synVI、synXならびにsynXII)したと発表した (Science 2017)。この中には化学合成DNAが0.99 Mb含まれていた。
GRO E. coli 'Syn61'の作出
- 今回、Medical Research Council Laboratory of Molecular Biology、California Institute of TechnologyならびにVidyasirimedhi Institute of Science and Technology (タイ)の研究グループは、Escherichia coliの全ゲノムにわたり、64種類から61種類に圧縮した遺伝暗号 (コドン)で書き換へ (synonymous codon compression)、得られた変異体が、野生型より若干長く、成長速度が遅いが、増殖・生存することを確認し、これをSyn61と命名した。
- 先行研究 (Nature 2016 ; crisp_bio *3) において実用化されていたCRISPR技術も利用したReplicon excision for enhanced genome engineering through programmed recombination (REXER)法と、その繰り返し使用を可能とするGenome stepwise interchange synthesis (GENESIS)法を利用して (*3)、野生型全ゲノムを合成DNAへ置換することで、E. coli MDS42のゲノム全域にわたりセリンのコードTCGとTCAおよび終止コドンTAGをそれぞれ全て、同義コドンのAGC、AGTおよびTAAに書き換え、同義コドンの圧縮を実現した。
- 今回の書き換えは、長さ4-Mb、のべ18,214のコドン書き換えと、最大規模であり、加えて、想定外の変異発生率 (2 × 10−4 )は極めて低く、高精度であった。
- 同義コドンの機能解析や同義コドン進化過程の研究
- 微生物工場への利用:さまざまな微生物が、有用物質生産や有害物質分解の工場として利用されている。同義コドン圧縮によって、天然コドンの一部を非アミノ酸に割り振ることが可能になり、これまでにない機能を帯びたタンパク質の生産、微生物工場の生物ストレスに対する耐性の向上、微生物工場の自然環境への漏出がもたらすリスクの抑制など。
参考crisp_bio記事
- (1*) 2018-05-02ゲノムを書くプロジェクト 'GP-write'は,「ヒト遺伝暗号の書き換え」から始まる
- (*2) 2018-01-22 Craig Venterら、473遺伝子/531 kbゲノム長の自己増殖可能なJCVI-syn3.0を発表
- (*3) CRISPR関連文献メモ_2016/12/05 第2項目 Escherichia coli ゲノムの大規模(> 100 kb)編集の実現とその応用
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