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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

1. [解説] In vivoゲノム編集の臨床応用に向けたCRISPR/Casシステム送達法
[出典] "Delivery Aspects of CRISPR/Cas for in Vivo Genome Editing" Wilbie D, Walther J, Mastrobattista E (Utrecht U). Acc Chem Res 2019-05-17.
  • エレクトロポレーション、TRIAMFiTOP など、ex vivoゲノム編集に有効な直接送達法をin vivoへ展開する際の問題点;ウイルス (AAV; AV; LV)による送達の課題;非ウイルス送達法 (脂質、ポリエチレンイミン、無機材料など);免疫応答と免疫原性;オフターゲットの課題とRNPによる軽減
2. 生殖細胞系列ゲノム編集の禁止が、ミトコンドリア病患者から奪うもの
[出典] CORRESPONDENCE "How bans on germline editing deprive patients with mitochondrial disease" Cohen IG, Adashi EY, Ravitsky V. Nat Biotechnol. 2019-05-20
  • 英国で合法化されたミトコンドリア置換療法 (mitochondrial replacement therapy, MRT) *が米国とカナダでは非合法である状態を分析し合法化の道筋を考察、また、関連規制の国際的調和の必要性およびそうした規制が存在しない状態でのメディカル・ツーリズムの問題にも言及
  • (*) 2017-08-08 ミトコンドリア置換治療、FDAに対して米国アカデミー容認の答申 (2016年)
3. CRISPR/Cas9部分的ノックアウト実験によりアトランティックサーモンのElovl2が、肝臓、白筋、および脳におけるドコサヘキサエン酸 (DHA, 22:6n-3)合成の必須酵素と同定
[出典] "CRISPR/Cas9-mediated ablation of elovl2 in Atlantic salmon (Salmo salar L.) inhibits elongation of polyunsaturated fatty acids and induces Srebp-1 and target genes" Datsomor AK,  Zic N,  Li K,  Olsen RE [..] Wargelius A,  Winge P. Sci Rep 2019-05-17.

4. CRISPR-Cas9ゲノム編集により、Candida orthopsilosisにアゾール耐性をもたらすERG11遺伝におけるアミノ酸置換を同定
[出典] "Precise genome editing using a CRISPR-Cas9 method highlights the role of CoERG11 amino acid substitutions in azole resistance in Candida orthopsilosis" Morio F et al. J Antimicrob Chemother 2019-05-18.
  • シーケンシングと立体構造モデリングから、フルコナゾールを処方された血液腫瘍患者からの分離株C. orthopsilosis分離株のERG11遺伝子において、活性中心近位に位置する2種類のフルコナゾール耐性に関与するアミノ酸置換 (L376IとG458S)を推定した。この2種類のアミノ酸変異をそれぞれ、CRISPR/Cas9によりフルコナゾール感受性株に導入し、薬剤応答性を判定することで、G458Sの変異がフルコナゾールとボリコナゾールに対する耐性をもたらすことを同定した。
5. ゲノムスケールCRISPR/Cas9スクリーンにより、ProTideに対する感受性の制御因子を同定
[出典] "Genome-scale CRISPR/Cas9 screen determines factors modulating sensitivity to ProTide NUC-103" Sarr A, Bré J [..] Reynolds PA. Sci Rep 2019-05-21.
  • フルオロピリミジン類似体のゲムシタビンは膵臓癌と卵巣癌の化学療法の主力として広く利用されているが、転移膵臓癌患者に対するゲムシタビンの奏効率は10%に及ばず、内在および獲得耐性ゆえに全生存率もほとんど改善されない。
  • ゲムシタビンのホスホロアミダートを変換したプロドラッグの一種であるNUC-1031 (Acelarin)は、抗癌ProTide (PROdrug+nucleoTID)として初の臨床試験が進行中である (例 Acelarin First Line Randomised Pancreatic Study (ACELARATE))。
  • University of St Andrewsの研究グループは今回、Acelarinがゲムシタビンとは異なる細胞障害性を帯びていること、また、ゲムシタビン療法に耐性を示す患者に対する奏功例が存在すること、を報告した。また、ゲノムワイドCRISPR/Cas9スクリーンにより癌細胞のNUC-1031に対する感受性が、ピリミジン代謝パスウエイに依存することを同定した。
6. タイプIII-B CRISPR-Casシステムが、自己転写物と外来DNAからの転写物を識別する分子機構
免疫システムの標的配列の要件
[出典] "Target sequence requirements of a type III-B CRISPR-Cas immune system" Johnson K, Learn BA, Estrella MA, Bailey S. J Biol Chem 2019-05-19.
  • タイプI/II/VシステムではエフェクターがPAM配列を認識して外来DNAを切断するが、タイプIIIではRNAを切断する。その際に、RNAプロトスペーサの3'末端に隣接する配列protospacer flanking sequence (PFS)配列を認識してRNAを切断する。したがってタイプIIIは宿主のDNAからのRNAと外来DNAからのRNAの判別を備えているはずである。
  • Staphylococcus epidermidisのタイプIII-Aシステムでは標的RNAのPFSとcrRNAとの間の-2/-5の2ヶ所の塩基対合により自己DNA由来RNAを識別することが示されたが、Pyroccocus furiosusのタイプIII-Bではこの塩基対合が見られなかった。
  • Johns Hopkins Universityの研究チームは今回、超好熱性バクテリアThermotoga maritimaのタイプIII-B CRISPRエフェクター (Cmr複合体)が、PFSの-2/-5の2ヶ所の塩基対合と、-1に位置し塩基対合には関与しないグアニンの存在によって、自己DNAから転写されたRNAを判定することを見出した。
  • CRISPRメモ_2018/07/31 [第3項目] タイプIII CRISPRのセカンドメッセンジャーを介したウイルスRNAの非選択分解のオフ・スイッチを同定
7. Cas9発現細胞へのcrRNA: tracrRNAの同時導入により簡便で高効率な多重遺伝子ノックアウトを実現
[出典] "Multiplexed CRISPR/Cas9 gene knockout with simple crRNA: tracrRNA co-transfection" Khan FJ, Yuen G,  Luo J. Cell Biosci 2019-05-20.
  • 米国NCIの研究チームは今回、RISCの内在する細胞へのsiRNA導入法を模して、化学合成したcrRNAとtracrRNAオリゴ の二量体(crRNA:tracrRNA)をCas9発現細胞に導入する手法を開発し、標的遺伝子への変異誘発と標的タンパク質ノックアウトを高効率で実現し、また、3種類のcrRNAsを併用することで、3種類 (EGFP、KRASおよびPTEN)の同時ノックアウトを実現した。
8. 大腸菌に由来する無細胞・転写翻訳 (無細胞TXTL)システムに基づく抗-CRISPRタンパク質 (Acrs)の迅速でスケーラブルなアッセイ法
[出典] "An enhanced assay to characterize anti-CRISPR proteins using a cell-free transcription-translation system" Wandera KG, Collins SP, Wimmer F, Marshall R, Noireaux V, Beisel CL. Methods 2019-05-20.
  • North Carolina State University、Helmholtz-Centre for Infection ResearchならびにUniversity of Minnesotaの研究グループは今回、一部のAcrsが示す遺伝子発現の非選択的阻害を回避し、AcrsのCasヌクレアーゼ活性阻害性を2日で判定可能なアッセイ法を確立した (原論文 Figure 1参照)
9. [特許公開] CRISPR/Casコンポーネントを送達する脂質ナノ粒子
[出典] US20190136231 A1 "Lipid nanoparticle formulations for CRISPR/Cas components"
  • 公開日 2019-05-09;発明者 Morrissey DV et al;権利者 Intellia Therapeutics, Inc. 
10. 特許公開] 精原幹細胞のCRISPR/Cas9ゲノム編集による遺伝子改変動物作出
[出典] US20190134227 A1 "Generation of genetically engineered animals by CRISPR/Cas9 genome editing in spermatogonial stem cells" 
  • 公開日 2019-05-09;発明者 Hamra FK;権利者 University of Texas System 
11. CRISPR/Casシステムによる標的配列のエンリッチメント、削除および分割
[出典] US20190144920 A1 "Compositions and methods for targeted depletion, enrichment, and partitioning of nucleic acids using CRISPR/Cas system proteins"
  • 一般公開 2019-05-16;発明者 Carpenter M, Bustamante CD, Gourguechon SB;権利者 Arc Bio, LLC 
  • 例:ヒトDNA ATAC-seqライブラリーからのミトコンドリアDNA除去;ヒト血液サンプルからの病原性配列エンリッチメント
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