(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/10/26)
- [論文] Cas9の活性を光または熱で制御する
- Corresponding author: Florian Richter (Humboldt-U. zu Berlin); Andreas Möglich (Humboldt-U, zu Berlin/U. Bayreuth)
- 研究チームはこれまでに、任意のエフェクターに適用可能な汎用光スイッチの実現を目指して、青色光を吸収するフラビン発色団を内包するRhodobacter sphaeroides由来のlight-oxygen-voltage (Rs LOV;PDB ID 4HJ6)の利用を検討してきた。Rs LOVは暗状態ではホモニ量体であり、青色光によって可逆的に2つのモノマーへ解離する(参照:右参考図「Rs LOVによる調節原理・RsLOV挿入(d)Cas9ライブラリー構築 RFPによる活性判定」A)。今回、Rs LOVのCas9の光スイッチとしての性能を評価した。
- Rs LOVをCas9タンパク質の全体にわたる234ヶ所に挿入したライブラリーを構築(参照 参考図内 D-E)し、E. coliの転写抑制に基づくハイスループットスクリーンを行ない(参照 参考図 右上挿入図)、光にまずますの応答をする変異体を同定しpaRC9と名付けた。
- Rs LOV挿入によってCas9の構造が不安定になることから熱に対する応答も評価し、29°Cで活性を安定して示し、37°Cではほとんど活性を示さない変異体を同定しtsRC9と名付けた。
- [論文] アフリカツメガエルから網膜芽細胞腫モデル動物を作出
- Corresponding author: Kris Vleminckx (Ghent U.)
- 近年小児の網膜芽細胞腫(Retinoblastoma)の治癒率が向上しつつあるが、病因とされる遺伝子変異を有し遺伝的浸透性の高い適切なモデル動物が存在しないため、治療の分子標的は未だ不明である。研究チームは今回、Retinoblastoma 1(RB1)とRetinoblastoma-like 1 (Rbl1)の双方を標的とするCRISPR/Cas9システムを適用したXenopus tropicalisが、有用な網膜芽細胞腫モデル動物になることを示した。
- 2つの標的遺伝子のダブルモザイク変異体では腫瘍が発生したが、どちらか一方だけのノックアウトでは腫瘍が発生しなかった。
- 2重変異体に加えて、近年、網膜芽細胞腫の治療標的候補となってきたSYK(spleen associated tyrosine kinase)も標的とした3重変異体を、CRISPR/Cas9によって作出し、Skyのエピジェネティックな変調を再現できないマウスモデルに対して病理的によりヒトに近いモデル動物の可能性を示唆した。
- [論文] ゲノム重複によるクロマチン構造における新たなTAD(topology associating domain)生成と病原性が相関する
- Corresponding author: Stefan Mundlos (MPI Molecular Genetic/Charité Universitätsmedizin Berlin/Berlin Institute of Health)
- 染色体はTAD(トポロジカル関連ドメイン)と呼ばれる調節単位に区分けされている。研究チームは、ヒト染色体17q24に位置し多くの疾患や奇形と相関することが知られているSOX9 遺伝子座をモデルとして、ゲノム重複が新たなTADを形成することを、capture Hi-C法と4C-seq法を利用して、明らかにした。
- 手の奇形を発症するCooks症候群の患者由来ゲノムのTADのTAD内DNA重複とTADの境界を超えたDNA重複に加えて、CRISPR/Cas9とCre-loxpを利用してTAD内DNA重複と2つのTADにわたるDNA重複を発生させたモデルマウスについて解析し、TAD内DNA重複はクロマチン高次構造を改変しないが、2つのTADとその境界にわたるDNA重複は、その2つのTADに隣接するTADとは区切られた新たなTAD、neo-TAD、を形成することを見出し、その病原性を解析した。
- [関連リサーチハイライト]
- Martin Franke et al. “Formation of new chromatin domains determines pathogenicity of genomic duplications.” Nat. Rev. Genet. Published online 2016 october 17.
- [論文] Wnt/β-カテニン経路におけるDishevelled (DVL)の機能解析
- Corresponding authors: Melissa V. Gammons; Mariann Bienz (MRC Laboratory of Molecular Biology)
- Dishevelled(DVL)はWntシグナル伝達経路のハブ(hub)タンパク質である。DVLの機能解析はこれまでその過剰発現をもとに行われてきたが、その代替となる精密な機能解析手法を開発した。
- HEK293細胞からCRISPR/Cas9によってDishevelled(DVL)の3つのパラログ(DVL1-DVL3)をノックアウトし、βカテニンへのWntシグナル伝達が生じない細胞(DVL triple-knockout, TKO)を作出した。このTKOにおいて、DVL2の転写を本来の内在レベル近くまで修復することで、Wntシグナル伝達が回復した。
- このcomplementation assayの系で各種DVL2変異体を解析することで、DVL2のDEPドメインがWntシグナル伝達に必須であり、PDZドメインはβカテニンへのシグナル伝達には必ずしも必要ではないことを特定した。
- 本手法は、これまでの機能解析の前提となっていたDishevelledの過剰発現を必要とせずWntシグナル伝達経路の重要なhubタンパク質であるDishevelledの精密な構造機能解析を可能にした。
- [技術報告] 多シストロン性のtRNA-gRNAコンストラクトを利用したCRISPR/Cas9によって、コメの必須遺伝子の機能を解析
- Corresponding author: Yinong Yang (Pennsylvania State U.)
- [多シストロン性のtRNA-gRNAコンストラクト(polycistronic tRNA-gRNA, PTG)] 一つの転写物から多重のgRNAsを安定かつ効率的に発現させる手法(Xie K, Minkenberg B & Yang Y., 2015)であり、tRNA-gRNAのセットを直列に接続した合成遺伝子をPol Ⅲプロモーターで発現させ、内在RNA転写機構を利用して、成熟gRNAsを生成する。
- コメのMAPK(MPK)遺伝子ファミリーの4つのメンバーを対象とするgRNAsを組み込んだPTG/Cas9システムによって、indelsと領域削除の変異導入を実現。MPK1とMPK6をノックアウトした場合は致死であったが、PTG/Cas9によるindels変異体から繁殖性のあるヘテロ型のT0世代を得ることができた。また、両アレル変異も45〜86%の割合で導入され、加えて、PTG/Cas9合成遺伝子の除去も可能であったことから、PTG/Cas9システムは機能ゲノミクスのツールとして有用である。
- [インタビュー] 遺伝子操作・編集によるイネ育種の位置付け
- 中国系のジャーナルNational Science Reviewの記者が、植物遺伝学者Qifa Zhang(中国科学院 院士/米国National Academy of Sciences外国準会員)にインタビュー。アブストラクトは、100人を超すノーベル賞学者が、GMOsに対する反対を終わらせることをグリーンピースに求める文書にサインしたエピソードから始まっている。インタビューの話題は、イネのゲノミクスに始まるオミクス解析から有用品種創出におよぶ動向、高収量や耐病性など地域の必要に応じた育種、CRISPRなどの新技術の展望、研究室からの商用化の課題へと展開。
- 中国では2009年に中国農務省(Ministry of Agriculture)がバイオセイフティーを認定した2種類のトランスジェニック系統が、商用化に至っていない事例と、米国において害虫耐性トランスジェニック・コーンが商用化されたことで殺虫剤の使用量が90%減少した事例、さらに米国FDAが最近トランスジェニック・アップルとトランスジェニック・サーモンを認可した事例を引いて、中国においてGMOの開発と産業化を積極的に促進し、食糧問題に対処すべきとしている。

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