(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/10/27)
  1. [レビュー] CRISPR時代におけるヒトiPS細胞からの中枢性神経(CNS)疾患モデル創出
    • Corresponding author: Rudolf Jaenisch (Whitehead Inst. Biomedical Research)
    • ヒトiPS細胞(hiPSC)のin vitro分化は、ヒトの神経システムの発生過程と機能や疾患発生機序の研究のプラットフォームであり、近年の3次元組織培養システムの開発によって、複雑なヒトCNSの構造の形成過程のモデリングと、内在する神経細胞群とグリア細胞群との相互作用のモデリングも可能になった。ここにCRISPR/Cas9を始めとする拡張をし続けるゲノム編集のツールキットを組み合わせることで、ヒトの神経疾患を分子レベル、細胞レベル、そして解剖学的コンテクストにおいて、研究することが可能になった。
    • [構成] ヒトCNS疾患モデルの必要性;急速に進化するゲノム編集ツールキット;3次元器官培養によるヒト神経系発生の再現;患者由来のiPSCsによる疾患モデル生成;これまでミッシングリンクであったミクログリア細胞をモデルに組み込む法;外的障害(向神経性ウイルス);3D長期培養(ミニ・ブレインを超えて)
  2. [論文] CRISPR/Cas9を利用したFGF5遺伝子ノックアウトによるカシミア山羊の品種改良
    • Corresponding authors: Yulin Chen (Northwest A&F University, China)
    • 研究チームは先行研究で、山羊の1細胞期胚にCas9 mRNAとsgRNAsをマイクロインジェクションすることで、ミオスタチン遺伝子(MSTN)と線維芽細胞成長因子5遺伝子(FGF5)のいずれかまたは双方を欠損した山羊の作出に成功していた。
    • FGF5遺伝子はイヌ、ネコ、マウス、そしてヒトの毛の長さを調節することから、FGF5を編集したカシミア山羊の毛に注目した。
      • カシミア山羊の毛は独特であり、2種類の毛包、primary hair follicles (PHF)とsecond hair follicles (SHF)、からそれぞれ形成されるキメの粗い外側の毛とキメの細かい内側の毛(カシミア)の毛が重なっている。 野生型と遺伝子改変型のそれぞれの毛の長さを出生後30日目から30日ごとに120日まで測定し、また、120日目にカシミア収量と毛の太さを測定した(参考図1参照)。
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      • その結果、FGF5 ノックアウトによって、野生型よりも長く野生型と太さが変わらないカシミアが得られることが判明した(カシミアは細い方が高品質)。
      • 定量的PCR、抗体染色およびウエスタンブロッティングは、ゲノム編集した山羊においてFGF5の発現が転写レベルでもタンパク質レベルでも強く抑制されていることを示した。
      • さらに、この遺伝子改変が生殖細胞系列を介して次世代へ伝達されることが示唆された。
    • [先行研究論文] Xiaolong Wang〜Yulin Chen. “Generation of gene-modified goats targeting MSTN and FGF5 via zygote injection of CRISPR/Cas9 system.” Sci. Rep. 2015 Sep 10;5:13878.
  3. [論文] ゲノム編集によるフレームシフトの可視化・定量化を簡便かつ効率的に実現
    • Corresponding author(s): Yun-Bo Shi (Eunice Kennedy Shriver National Inst. Child Health and Human Development)
    • ゲノム編集実験ではTALENやCRISPR/Cas9による塩基の削除、挿入および置換を含む変異を判定する必要がある。特に、遺伝子破壊につながるフレームシフトを起こすindelsの判定が肝要であるが、このためにはシーケンシグをするしかなかった。今回、2色の蛍光タンパク質を利用したフレームシフトの簡便な可視化法を開発した。
      • mCherryとGFPを制限酵素認識サイトを複数含む(マルチクローニングサイト, MCS)in-frameのリンカーを介して融合プラスミドを設計し、2つの蛍光タンパク質がそれぞれ独立に蛍光を発することを確認した(参考図2参照)。
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      • このプラスミドの2色の蛍光タンパク質の間にゲノム編集対象領域をクローニングし挿入することで、ゲノム編集領域にフレームシフト変異が起こったか否かを蛍光顕微鏡で可視化し判定する(参考図3参照)。
      • Xenopus tropicalisをモデルとして、TALENによって目的とする変異が導入されたX. tropicalisの同定と、TALENによるin vivoでの変異率の定量化が可能なことを確認した。
      • さらに、LacZαとGFPの組み合わせにすることで、蛍光顕微鏡を使うことなく明視野顕微鏡で判定可能なことを示した。