[出典] "Illuminating G-Protein-Coupling Selectivity of GPCRs" Inoue A, Raimondi F [..] Russel R. 
Cell. 2019 May 21. pii: S0092-8674(19)30496-9.

背景
  • GPCRsは最大のタンパク質スーパファミリの一つを形成し、細胞外リガンドを細胞内シグナル伝達の活性化へと変換する膜貫通タンパク質群である。これまでに市販されている医薬品の作用標的の30%をGPCRsが占めるに至ったが、引き続き、創薬標的として注目を集めている。
  • GPCRは、リガンドを受容するとそのコンフォメーションを変え、細胞内のヘテロ三量体Gタンパク質複合体と結合・活性化し (共役し)、下流へのシグナル伝達を駆動し、リガンドに対する然るべき細胞応答を実現する。Gタンパク質ヘテロ三量体はGα、GβならびにGγサブユニットで構成され、GαがGPCRとの相互作用および細胞内のシグナル伝達を制御する。
  • ヒトゲノムには、si/oq/11および12/13の4種類に分類されている Gα遺伝子16種類がコードされている。哺乳類のGPCRsそれぞれが一種類以上のGタンパク質と共役する独特のGタンパク質結合プロファイルを備えており、それぞれに特有な細胞応答を担っている。
成果
 東北大学の井上飛鳥と青木淳賢らはハイデルベルグ大学のRobert B. Russelらのグループと共同で今回、2012年に発表したTGFα切断アッセイ(TGFα shedding assay)の手法をもとに、ヒトGPCRs 148種類とGタンパク質 11種類の間の結合プロファイリングを実現した。

 [TGFα切断アッセイ]
TGFα shedding assay PDIS
  • 今回は、TGFα切断アッセイにおいて、内在Gタンパク質をCRISPR-Cas9システムで欠損させたHEK293細胞に、qをベースとする各Gタンパク質とのキメラタンパク質を導入することで、これまでデータが乏しかったグループも含むGタンパク質の活性化、ひいては、GPCRsとGタンパク質との相互作用、の網羅的同定を実現した。
  • キメラGタンパク質を利用するこのアッセイにより、Gタンパク質サブファミリー間のリガンドバイアスの解析も行なった。
 [NanoBiT™-Gタンパク質遊離アッセイ]
  • キメラGタンパク質を組み込んだTGFα切断アッセイを相補するアッセイとして、Gタンパク質活性化の鍵となるプロセスであるGαサブユニットがGβγからの遊離を、NanoLuc® BinaryTechnology NanoBiT™によって判定した。
 [Gタンパク質の選択性を支配するGPCRsのアミノ酸残基]
  • TGFα切断アッセイから得られ結合プロファイルのin silico解析から、Gタンパク質と直接相互作用するアミノ酸残基の他に、細胞膜貫通領域や細胞内ループにGタンパク質選択に重要なアミノ酸残基が存在することを発見した。
 [Gタンパク質結合の予測アルゴリズムの開発とその応用]
  • 前項のデータをもとにした機械学習 (ロジスティック回帰)によりGタンパク質結合の予測モデルを開発し、既存の予測法よりも高精度であることを検証し、GPCRs 61種類の共役Gタンパク質の新規同定も実現した。
  • さらに、予測モデルを用いて、G12に特異的に結合する人工GPCR (Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs: DREADD)の設計・作出・実験検証を実現した。
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