(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/11/05)
  • Corresponding authors: Gil Sharon; Sarkis K. Mazmanian (CALTECH)
  • ヒトとモデル動物における微生物叢(microbiome)と脳との交差について論じたレビュー
  • 神経発生は内因性シグナルと外因性シグナルの双方に制御される複雑な過程である。胎児発生時には、細胞が遠距離からのシグナルを受けながら大規模かつ長い距離を移動して神経回路を形成していく。出生前そして出生後の長い時間の中で起こるこの複雑な過程は、環境因子から大きな影響を受ける。
  • 近年、腸内細菌と免疫システムの発達と機能とが密接に関連していることが明らかにされてきたところ、動物やヒトの微生物叢と神経システムの交差を示すデータも蓄積されてきた。
    • 体内にも体表にも微生物が存在しない無菌(germ-free, GF)マウスと、特定の病原菌だけが除去された(specific-pathogen-free, SPF)マウスと比較すると、GFマウスは、危険をおそれない行動をとりがちで多動である一方で、学習能力や記憶能力が劣る。
    • GFマウスは、内在神経伝達因子セロトニンに結合する5-HT1A脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor, BDNF)、および海馬におけるNMDA受容体の発現が変化しており、また、血液脳関門機能が損なわれ、前頭前皮質において髄鞘形成の亢進が見られた。
    • さらに、予備的動物実験からではあるが2013年以来、微生物叢が、抑鬱や不安、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、およびパーキンソン病とアルツハイマー病を含む神経精神病に関与すると報告されてきている。
  • 腸内細菌叢と脳発生過程の交差 
    表1に、微生物叢の状態(例 GM処理;抗生物質投与;プロバイオティック)、生理的影響/行動、分子機構(既知と推定)、および参考文献のセットが27件まとめられている
    • GMから脳への直接また間接のメッセージ伝達(バクテリアの2次代謝物;代謝前駆体;免疫シグナル;迷走神経シグナル伝達;視床下部・下垂体・副腎皮質系(HPA軸)活性化)
    • GFマウスのコロニー化や抗生物質による腸内細菌の減少が、血液脳関門、神経発生、ミクログリア、髄鞘形成、および神経細胞生存・成長および分化に与える影響
  • マウスとヒトにおける脳発達過程における主要なイベント
    • E7から出生、成人そして老年に至るまでの脳の発達と、腸内細菌叢の変遷
  • 妊娠中の母親の腸と膣の細菌叢と、それらが出生児の行動に与える影響
  • 出生時から出生後の腸内細菌叢と、それらが脳の発達と行動に与える影響
  • 成人の“安定状態にある(steady-state)”微生物叢
  • 神経発達障害と気分障害に関与する微生物叢(自閉症スペクトラム障害、統合失調症、抑鬱)
  • 老年期の神経変性と微生物叢
  • 展望
    • 腸と脳の軸(gut-brain axis)の研究はまだ幼児期であるが、「腸内細菌叢は、その代謝物を介して直接的、あるいは、免疫系、代謝系あるいは内分泌系への影響を介して間接的に、栄養素などの外部環境の情報をリアルタイムで、神経システムに伝達する」という共通認識は広がってきている。今後、その分子機構を詳らかにし、微生物叢の変動が特定の疾患の原因なのか結果なのかを明らかにしてくことが課題である。