[出典] "Off-target RNA mutation induced by DNA base editing and its elimination by mutagenesis" Zhou C, Sun Y, Yan R, Liu Y, Zuo E [..] Li Y, Zhou H, Guo F, Yang H. Nature 2019-06-10 (unedited manuscript that has been accepted for publication).

 CRISPR-Cas9のオフターゲット編集を引き起こすDSB (二本鎖DNA切断)を介さずに一塩基置換を実現するbase editorsであるCBEとABEのいずれもが、DNAとRNAの双方にオフターゲット変異を誘導するという報告が、2018年から2019年にかけて相次いだ:
  • 2019-05-10 ABEによる細胞内RNA編集の検証と抑制
  • 2019-04-19 塩基編集ツールCBE (rAPOBEC1)とABEは、DNAを編集する間に、RNAも編集する
  • 2018-11-28 BE3とCas9がオフターゲットとオンターゲットに誘導する変異プロファイル2報 (GOTI法とFORECasT)
 EMBLならびにStanford Uと共同で、GOTI法を開発してBE3のオフターゲットSNVs発生率が自然突然変異率とCRISPR-Cas9誘導変異率の20倍を超えることを同定した中国研究グループ (上海生命科学研究院、上海科技大学、中国科学院大学 (北京)、四川大学、深圳農業ゲノミクス研究所、ならびに复旦大学)は今回、BE3とABE7.10が、RNAに膨大なSNVsを誘導することを同定し、続いて、そのオフターゲット作用をデアミナーゼ改変によって抑制可能なことを示した。

 [RNAオフターゲットSNVs誘導]
  • 研究グループは、HEK293T細胞にGFP単独、GFPとBE3またはABE7.10、ならびに、GFPとBE3またはABE7.10に加えてsgRNA、を送達した3種類の条件にて、SangerシーケンシングによりDNAオンターゲット編集を、RNA-seq (多重度 125X)によりRNA SNVsを測定し、比較解析した。
  • コントロール (GFP単独送達)にて、742 ± 113 RNA SNVsを同定した。BE3送達では、sgRNA無しと有りについてコントロールの5〜40倍のRNA SNVsが発生した。ABE7.10も同様の傾向を示し、また、APOBE1またはTadA、そして、CBEsまたはABEsの発現レベルが高いほどRNA SNVs数が増すことも同定した。
  • BE3が誘導したRNA SNVsのほぼ100%がG->AまたはC->Uであり、この偏りはAPOBEC1単独が示す偏りと同一であった。ABE7.10が誘導するRNA SNVsの場合も、TadA単独が示す偏りと同様に、SNVsの95%がA->GまたはU->Cに偏っていた。さらに、BE3誘導またはABE7.10誘導のRNA SNVsにおいて、コンセンサスモチーフACW (W: A or U)とTAW (W: C or T)を見出したが、オフターゲット配列とオンターゲット配列 (すなわちsgRNA配列)とは相関していなかった。
  • ABE7.10については、癌遺伝子と癌抑制遺伝子のRNAにそれぞれ56と12の非同義SNVsをもたらし、さらにその多くの編集効率が40%を超えることを見出した。したがって、ABE7.10に発癌性のリスクに留意する必要がある。特に、in vivoでのABE7.10塩基置換に利用されるAAVによる送達はABE7.10の発現が恒常的に続くことから、注意が必要である。
 [RNAオフターゲットSNVs抑制]
  • RNA SNVsを回避する手段として、研究グループはAPOBEC1とTadAのRNA結合を不安定化することを試みた。
  • APOBEC1の疎水性領域にW90Aを誘導したBE3 (W90A)は、RNA SNVsを誘導しなかったが、オンターゲット編集も抑止されたが、APOBEC1に二重変異を導入したBE3 (W90YとR126E)が、オンターゲット編集効率を損なうことなく、RNA SNVsを抑制することを見出した。
  • APOBEC1をヒトのAPOBEC3Aに差し替えたBE3 (hA3A)によってもRNA SNVsが抑制されることを見出し、さらに、hA3AのRNAおよびssDNAの結合ドメインに、点変異 (R128AとY130F)を導入することで、RNA SNVsの数がコントロールと同レベルまで抑制されることを見出した。
  • ABE7.10については、TadAのin vitro活性に関する先行研究の結果を受けて、D53EとF148Aの点変異導入の効果を判定し、いずれもオンターゲット編集効率を損なわないが、ABE7.10(F148A)ではRNA SNVsが発生せず、また、オンターゲット編集のウインドウが狭くなることを発見した。すなわち、ABE7.10 (F148A)は、DNAについてもRNAについてもオフターゲットを伴わないBEとして有望である。