crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] "Transposon-encoded CRISPR–Cas systems direct RNA-guided DNA integration" Klompe SE, PLH Vo, Halpin-Healy TS, Sternberg SH. Nature 2019-06-12;NEWS & VIEWS "Hijack of CRISPR defences by selfish genes holds clinical promise" Urn FD. Nature 2019-06-12;News & Views Jumping at the chance for precise DNA integration.  Kwon JB, Gersbach CA. Nat Biotechnol. 2019-08-01

INsert Transposable Elements by Guide RNA-Assisted TargEting (INTEGRATE

背景
  • 水平遺伝子伝播 (Horizontal Gene Transfer: HGT) は生物進化を駆動する主要機構であり、バクテリアとアーケアでは、ウイルス、プラスミド、およびトランスポゾンを含む可動遺伝因子 (mobile genetic element: MBE)を介したHGTが広がっている。同時に、バクテリアとアーケアは、外来遺伝子の侵入を防止する種々のシステムが備わっており、RNAにガイドされて標的を切断するCRISPR-Casシステムは今やその代表的システムである。
  • 近年、このトランスポゾンとCRISPR-Casシステムが侵入対防御という単純な関係ではなく、進化的に機能的にも相互に入り組んだ関係にあることが、明確にされてきた。NCBIのE. V. Kooninらは2017年に、CRISPR-Casシステムをコードしているトランスポゾンの研究成果として「トランスポゾンはCRISPR-Casシステムを取り込み自らの伝播に利用する」ことをPNAS にて発表した(crisp_bio 2017-08-18)。
  • 2019年6月6日になって、Broad InstituteのFeng ZhangらがKooninグループとも共同で、シアノバクテリアScytonema hofmanni由来の 'CRISPR-associated transposase (CAST)'を利用して「CRISPR-Casシステムとトランスポザーゼの協働により、標的ゲノムを切断することなくE. coliゲノムにドナーDNAを挿入可能」なことをScience誌に発表した (crisp_bio 2019-06-06)。
  • 続いて今回(2019年6月12日)、Columbia Universityの研究グループがVibrio choleraeトランスポゾンTn6677によるE. coliゲノムへのドナーDNA挿入を、Nature誌に発表した。
  • これらの論文はいずれも、短縮型I-F CRISPR-Casシステム (Cascade)を帯びているTn7様トランスポゾンを主題としている。なお、Sicence論文とNature論文の受付日/受理日/出版日はそれぞれ、4月4日/5月29日/6月6日と、3月15日/6月4日/6月12日、となっている。
V. cholerae Tn6677トランスポゾン
  • E. coliのTn7トランスポゾンは、左右の逆向き反復配列の間に、5種類のtns遺伝子(tnsA ~ tnsE)を帯びているが、Tn7様トランスポゾンであるTn6677トランスポゾンは、tnsA、tnsBおよびtnsC遺伝子からなるオペロンを帯び、興味深いことに、tnsDのホモログであるtniQ遺伝子がcasオペロンにコードされているが、tnsEは欠失している。また、I-F CRISPR Casシステムからはcas1, cas2およびcas3を欠失し、cas8-5 (以下、cas8と表記)とcas6ならびにcas7、加えて、CRISPRアレイを帯びている。すなわち、この短縮型I-F CRISPRはヌクレアーゼ活性を伴っていない。
  • 研究チームは、逆向き反復配列を左右に接合したトランスポゾン・ドナーのカセット、tnsA-tnsB-tnsCオペロン、およびCRISPRアレイとtniQ-cas8-cas7-cas6オペロンをそれぞれコードするプラスミド、pDoner、pTnsABCおよびpQCascadeを、E. coliに導入して、実験を進めた (原論文 Fig. 1参照)。
  • CRISPRアレイは、非標的crRNA-ntと、glmsに隣接する5'-CC-3'PAMを標的とするcrRNA (リーディング鎖とラギング鎖の双方についてcrRNA-1とcrRNA-2)を生成するように設計し、予備実験で、crRNAs (以下、gRNAs)に相補的な領域の下流にトランスポゾンが組み込まれることを確認した。
  • V. cholerae Tn6677トランスポゾンも、Science論文のS. hofmanni由来の 'CRISPR-associated transposase (CAST)'と同様に、crRNAを介した短縮型I-F CRISPR-Casシステムの標的位置への結合に伴って標的位置へ近接し、標的位置に侵入する。この過程について研究チームは次のモデルを提案した:Cascade (cas8-cas7-cas6)とTniQの複合体がcrRNAと相補的な配列を宿主のゲノムまたは他のMGEsから探索し、標的に結合する。この標的結合がR-ループ形成を誘導し、TniQがDNA配列に非特異的に結合するTnsCをリクルートし、このTnsCがペアエンド複合体を形作ったトランスポゾンをDNA標的位置へリクルート、ドナーDNAの挿入へと至る
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