1. ヒストン脱アセチル化酵素、HDAC1とHDAC2、を阻害すると、CRISPR/Cas9ゲノム編集が亢進する
[出典] "Inhibition of Histone deacetylase 1 (HDAC1) and HDAC2 enhances CRISPR/Cas9 genome editing" Liu B, Chen S [..] HJ Haisma. bioRxiv 2019-06-13. > Nucleic Acids Research, Volume 48, Issue 2, 24 January 2020, Pages 517–532
- クロマチン凝縮がCas9の標的DNAへの接近を阻害し、その結果、Cas9の編集効率が低下すると見られている。University of Groningenの研究グループは今回、ヒストン脱アセチル化酵素HDAC (1-9)の阻害因子とヒストンアセチル基転移酵素HAT (p300/CBP, Tip60およびMOZ)の阻害因子が、CRISPR/Cas9遺伝子編集の効率に及ぼす影響を解析した。
- その結果、HDAC1とHDAC2の活性減衰がNEHJ過程を介した遺伝子ノックアウト効率と、HDR過程を介したノックイン効率を向上させることを同定した。HDAC 3-9の活性減衰はこの効果を示さず、HDAC3の阻害は遺伝子編集効率の低下をもたらした。
- さらに、阻害剤による HDAC1とHDAC2の活性低下は、クロマチン構造をオープンにし [Figure 8引用右図参照]、Cas9の標的DNAへのアクセスと結合を促進し、その結果、Cas9編集効率が向上することを示した。
2. GenEditID: CRISPR編集が生じた細胞をハイスループットで同定可能とするオープン・アクセス・プラットフォーム
[出典] "GenEditID: an open-access platform for the high-throughput identification of CRISPR edited cell clones" Xue Y, Tung YCL [..] Merkle FT. bioRxiv 2019-06-13.
- 同済大学医学院とUniversity of Cambridgeの中英共同研究グループが今回開発したGenEditID (Gene Editing to IDentify)は、ラボラトリー情報管理システム (LIMS)をベースにしたサンプル管理、オープンアクセスでカスタマイズ可能なバイオインフォマティクス・パイプラインおよびユーザフレンドリなグラフィカルなデータ表示を組み合わせて、専門技術を備えていなくても利用可能なプラットフォームである。
- GenEditIDによって、サンプル追跡から始まり、多重ディープシーケンス、可能であればタンパク質発現データ、また必要に応じて細胞増殖速度などの特性データを統合して、Cas9による編集が起こった細胞を同定し、由来する細胞が存在しているウエルの位置をプレート上にマップ・可視化し、編集済み細胞の増殖とさらなる解析を可能とする。
- GenEditIDの性能を、ヒト乳腺癌由来MCF7細胞におけるSTAT3遺伝子のノックアウト実験およびヒト多能性幹細胞における肥満相関遺伝子FTO (fat mass and obesity associated)のノックアウト実験にて実証した。
- プログラム入手先: https://geneditid.github.io/
[出典] "Cyclic oligoadenylate signalling mediates Mycobacterium tuberculosis CRISPR defence" Grüschow S [..] White MF. bioRxiv 2019-06-12.
- タイプⅢ CRISPR-Casシステムは、Csm3またはCmr4ドメインによる標的RNA分解、Cas10のHDドメインによる転写進行中のssDNA分解、および、サイクリックオリゴアデニル酸(cOA)合成を介した非特異的RNA分解を兼ね備えていることが知られている (*)。英国University of St Andrewsの研究グループは今回、M. tuberculosisのIII-Aシステムが、HDによるDNA分解ではなく、主として、サイクリック・ヘキサアデニル酸 (cA6下付き)のシグナル伝達とCsm6リボヌクレアーゼによって可動移動因子を分解することを同定した。
- タイプⅢ CRISPR-Casシステムは、少なくともin vitroでは、cA3からcA6までの種々のサイクリックオリゴアデニル酸(cOA)を合成することが知られている。今回、Csm6を、Thioalkalivibrio sulfidiphilus由来のCsx1に置換すると、サイクリック・テトラアデニル酸 (cA4)に依存するシグナル伝達を介した非選択的RNA分解が進行することを同定した。
CRISPR獲得免疫機構におけるサイクリック・オリゴアデニル酸に関するcrisp_bio記事
- CRISPRメモ_2019/05/17-1 [第4項目] S. epidermidisにおけるCas10-Csm複合体によるサイクリックオリゴアデニル酸合成の調節機構
- (*) 2019-03-24タイプIII CRISPR-Casの非特異的RNA分解活性を仲介するセカンドメッセンジャーを分解する'ring nuclease'
4. [レビュー] レンサ球菌のCRISPR-Casシステム
[出典] REVIEW "CRISPR-Cas Systems in Streptococci" Gong T et al. Curr Issues Mol Biol 2019-06-05.
- 四川大学の研究グループ:分類 (タイプI/II/III)、機能、免疫応答機構 (adaptation, crRNA合成および標的への作用)および応用
5. [特許]フリードライヒ運動失調症と関連疾患の遺伝子治療
[出典] US20190160186A1 "Materials and methods for treatment of friedreich ataxia and other related disorders"
- 公開日 2019-05-30;発明者 Lundberg AS, Kulkarni S, Klein L, Padmanabhan HK;権利者 CRISPR Therapeutics AG
- GAAトリプレットリピート異常伸長をに起因する表題疾患を、Cas9またはCpf1 (Cas12a)による遺伝子編集により治療する
6. [特許] 免疫細胞のCRISPR-Cas9遺伝子編集を介した抗腫瘍応答の誘導と伝播
[出典] US20190167720A1 "Gene editing for immunological destruction of neoplasia"
- 公開日 2019-06-06;発明者 Wagner SC, Ichim T;権利者 Batu Biologics Inc.
- 標的遺伝子:E3ユビキチンリガーゼCb1-b, CTLA-4, PD-1, TIM-3, キラー細胞抑制受容体 (KIR), LAG-3
7. 環境DNA (environmental DNA: eDNA)からCRISPR-Cas12aにより単一生物種を高感度で検出
[出典] "The application of CRISPR‐Cas for single species identification from environmental DNA" Williams MA [..]Parle-McDermott. Mol Ecol Resour 2019-06-08.
- 生物は環境へDNAを分泌・排出する。J. A. Doudnaらは、dsDNAを切断するとともにssDNAを切断するCas12a(Cpf1)を利用して、アトモル濃度の感度のDNA検出法を2018年に発表 (Sceince 2018-04-27)したが、アイルランドの研究グループは今回、Cas12aにより、生物が環境へ分泌・排出するeDNAから、単一生物種を高感度で同定可能なことを示した。
- 具体的には、タイセイヨウサケ(Salmo salar)をモデルとして、アトモル濃度の感度で、検出可能なことを実証した。
- 2019-04-27 CRISPR技術による次世代診断ツール開発:「展望」とMammoth Biosciencesの登場
- 2019-04-11 Cas12aは標的dsDNA切断時に、ssDNAだけでなくdsDNAとssRNAもトランスに分解する
- 2019-01-16 Cas12aのdsDNA/ssDNA切断分子機序の統合モデル
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