(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/11/16)
  • Corresponding author: David Baltimore (Caltech/1975年ノーベル生理学・医学賞)
  • 患者由来のT細胞に腫瘍抗原を特異的に認識するαβT細胞受容体(TCR)をコードする遺伝子を挿入することで、腫瘍細胞を標的とするように改変してT細胞患者に移植するTCR遺伝子治療は、劇的な効果を上げる。しかし一方で、改変αβ鎖が内在性(野生型)αβ鎖と誤ってペアを組む(misparing)可能性があり、misparingによる改変TCRの発現低減さらには自己免疫応答を誘起する危険性を伴っている。
  • 研究チームは今回、改変したTCRのα鎖とβ鎖の定常部ドメインを入れ替えた(swapping constant domains: 以下、ds)TCR (dsTCR)を使うことで、改変TCRのmisparingの問題を回避可能なことを示した。
    • 野生型のT細胞にはそれぞれ1本のα鎖とβ鎖がコードされており1種類のTCRが形成されるが、抗腫瘍療法に利用される改変T細胞では、それぞれ2種類のα鎖と2種類のβ鎖を発現することから、4種類のTCRが形成される可能性があり、自己免疫のリスクを伴うことになる。
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    • 研究チームは、α鎖とβ鎖の定常部ドメインを入れ替えたハイブリッド遺伝子を発現させることで、dsTCRを作出した。dsTCRは安定であり、α鎖とβ鎖が然るべくペアを形成したdsTCR(参考図C)は、ヒトT細胞とモデルマウスにおいて、T細胞共受容体CD3と結合しT細胞表面に発現し、T細胞に腫瘍細胞に特異的な免疫活性をもたらした。
    • 一方で、内在性(野生型:参考図の中のwtTCR)のα鎖/β鎖とmisparingしたdsTCRは、CD3との結合が不全となり、自己免疫応答のシグナル伝達を起こさなかった(参考図D)。
    • また、αβTCRドメインをγδTCRドメインに置換するとmispairingが起こらないことも見出した。
    • ドメインスワッピングは、抗腫瘍に限らず、感染や自己免疫疾患に対するより安全な免疫療法を実現する手段である。