(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/11/20)
  1. [論文] 非相同末端結合(NHEJ)を介した甲殻類へのノックイン
    • Corresponding author: 渡辺 肇(大阪大学)
    • 甲殻類オオミジンコ(Daphnia magna )は、生態毒性試験に汎用されているモデル生物である。研究チームは今回、TALENsを利用しNHEJ修復機構を介してオオミジコンコへのGFPノックインを実現した。
      • Eyeless 遺伝子座を標的とする2種類のTALEN、ey1 TALENとey2 TALEN、を設計し、H2B-GFPレポーター遺伝子を2種類のTALENsの標的サイト配列で囲む構成のドナーDNAプラスミドを構築(参考図参照)。TALEN mRNAと共に受精卵へマイクロインジェクション。
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      • ey1 TALENとey2 TALENのいずれもオオミジコにてGFPを発現し、生殖細胞系伝達効率は3%であった。生成された3種類のトランスジェニックのうち2種類の標的サイトにドナーDNAがノックインされていた。このGFPを発現するトランスジェニック・オオミジンコは環境モニタリングの新たなツールになる。
    • [情報拠点注] NHEJによるノックイン関連ニュースウオッチ記事と論文
  2. [論文] CRISPR/Cas9ゲノム編集において相同組換え修復(HDR)の効率を高める新たな手法
    • Corresponding author: Jason Potter (Thermo Fisher Scientific)
    • HDRの効率を高める研究
      • [CRISPR/Cas9技術の調節] Cas9を発現させたヒト多能性幹細胞
        • (hPSCs)にgRNAとssDNAドナーを共に送達することでホモ接合型ノックイン効率10%を実現(González et al., 2014
        • 微小管重合阻害薬ノコダゾールによって細胞集団をM期に同期させた上でCas9 RNPsとssDNAドナーをnucleofectionさせることで、HEK293細胞とhESCsについて、HDR効率を、コントロールの26%と〜0%から38%と1.6%へと改善(Lin et al., 2014
        • Cas9 RNPsとssDNAドナーを初代T細胞へエレクトロポレーションし、ノックインによるゲノム改変を20%の効率で実現(Schumann et al., 2015
      • [HDR/NHEJの活性調節]
        • DNAリガーゼIV阻害剤Scr7によってHDR効率を19倍に(Maruyama et al., 2015
        • siRNAsによってDNA修復タンパク質KU70とDNAリガーゼIVを同時に阻害することでヒトとマウスの細胞株においてHDR効率を4〜5倍に(Chu et al., 2015
        • HDRを促進するRS-1によってウサギの胚においてノックイン効率を2〜5倍に(Song et al., 2016
        • 非対称なssDNAドナーを利用することで、ヒト細胞において一塩基置換を60%の効率で実現(Richardson et al., 2016
    • 内在性DNA修復機構を調節することなく、gRNA, Cas9ヌクレアーゼおよびドナーDNAの設計とエレクトロポレーションの最適条件を探索し、HDRの効率を高めることに成功した:
      • HEK293細胞において、6ヌクレオチドまでのノックインを56%の効率で実現。iPS細胞においても、Cas9 RNPとドナーDNAを当時に送達することで精密なゲノム編集を45%の効率で実現。
      • さらに、3’端をオーバーハングさせた短い二本鎖DNAオリゴヌクレオチドを利用することで、30ヌクレオチドの長さのFLAGエピトープ・タグのを50%の効率でノックイン。
      • 最適化には、DNA二本鎖切断と標的の近さ、ホスホロチオエート(S化)によるドナーDNAの保護、非対称型ssDNAドナーおよびエレクトロポレーションの条件の全てを考慮に入れる必要があった。
  3. [論文] CRISPR/Cas9で遺伝性神経変性疾患の病因となるCAG/CTGリピートを縮小
    • Corresponding author(s): Vincent Dion (U. Lausanne)
    • CAG/CTGリピート長さの伸長は13種を超える治療法が存在しない神経変性疾患の病因である(参考 トリプレット病)。リピートが長いほどより重篤になるが、リピート長を短縮する薬剤も未だ存在しない。
    • 研究チームはまず、GFPをレポータとして同一細胞集団内でリピートの伸長と縮小をモニターする手法を確立した。このモニター法を利用して、ZNFsまたはCas9ヌクレアーゼによるリピート配列二本鎖の切断は、リピートの伸長と縮小を同程度誘導することを見出した。その一方で、Cas9ヌクレアーゼに替えて一本鎖のみを切断しニックを挿入するCRISPR/Cas9 D10Aニッカーゼを使用すると、主としてリピートの縮小が起こることを見出し、DNA損傷応答キナーゼATMが関与するリピート収縮の分子機構モデルを提案した。
  4. [短報] CRISPR/Cas9による植物への逆位変異導入
    • Corresponding author: Chuanxiao Xie (Institute of Crop Science, Beijing)
    • Cas9/sgRNAを2セット利用して、シロイヌナズナのFLOWERING TIME (AtFT )とTERMINAL FLOWER 1 (AtTFL1 ) を標的とする逆位変異をそれぞれ2.6%と2.2%の効率で実現。
  5. [論文] CRISPR/Cas9によって異質6倍体植物Camellina sativa の脂肪酸組成を制御
    • Corresponding author: Donald P. Weeks (U. Nebraska)
    • CRISPR/Cas9によってシロイヌナズナとC. sativa(ナガミノアマナズナ)のFAD2 遺伝子をノックアウトすることで、オレイン酸の組成が〜16%から50%を超え、全一不飽和脂肪酸の比率が〜32%から70%を超え、同時に、リノール酸とリノレン脂肪酸が減少した。FAD2 ノックアウトは生殖細胞系伝達された。
  6. [特許] Generation of Layered Transcriptional Circuitry using CRISPR systems
    • 発明者:Kiani, Samira (Somerville, MA, US); Weiss, Ron (Newton, MA, US); Beal, Jacob S. (Somerville, MA, US); Ebrahimkhani, Mohammad Reza (Somerville, MA, US); Xie, Zhen (Beijing, CN); Li, Yinqing (Cambridge, MA, US)
    • 譲受人:Massachusetts Institute of Technology (Cambridge, MA, US); Raytheon BBN Technologies, Corp. (Cambridge, MA, US)