(創薬等PF・構造生命科学ニュースウオッチ 2016/12/04)
1. [論文] RNAiとCRISPR/Cas9を多能性幹細胞から成熟細胞までの全過程における遺伝子機能喪失実験へと最適化
- Alessandro Bertero et al. “Optimized inducible shRNA and CRISPR/Cas9 platforms for in vitro studies of human development using hPSCs.” Development. 2016 Dec 1;143(23):4405-4418: Corresponding authors: Alessandro Bertero (U. Cambridge/U. Washington, Seattle); Ludovic Vallier (U. Cambridge)
- ヒトの多能性幹細胞(hPSCs)から始まり成熟細胞/非分裂細胞に至る任意の段階の細胞を対象として、一段階で遺伝子のノックダウン(KD)とノックアウト(KO)を実現するsOPTiKD法とsOPTiKO法が開発された。それぞれ “single-step optimized inducible gene knockdown(KD) または knockout(KO)”に由来する呼称。
- [sOPTiKD法]
- CRISPR/Cas9n技術とZFN技術をそれぞれ改良して、細胞に障害を与えず外来遺伝子の安定発現を可能にする"genome safe harbor"であるROSA26 遺伝子座とAAVS1 遺伝子座を標的とする遺伝子編集効率を59~100%へと向上。遺伝子発現プロモーターとして合成CAGを選定。
- CAG-tetR発現カセットをROSA26 へとヌクレオフェクションし、CAG-EGFP遺伝子と発現誘導させるEGFP shRNAカセットをAAVS1 へとリポフェクションし、Tet発現誘導にはコドン最適化したtetRを使用(参考図の上段を参照)。
- 転写因子(OCT4 とT (ブラキウリ) )、細胞周期調節因子(サイクリンDファミリー)、およびエピジェネティック修飾因子(DRY30 )のノックダウン機能解析を実現
- [sOPTiKO法]
- sOPTiKD法の開発で得られた知見をもとに参考図の下段のsOPTiKO法を開発し、hPSCsから成熟細胞まで細胞型を選ぶことのない遺伝子KOを実現。
- 関連ニュースウオッチ記事:CRISPR関連文献メモ_2016/11/19 [論文] 非相同末端結合(NHEJ)によって、in vivo で非分裂細胞に外来遺伝子をノックイン
2. [NEWS & VIEWS] TAM法とCRISPR-X法:CRISPR-Cas9-AIDによるゲノムの多様化とその応用
- Cem Kuscu & Mazhar Adli. "CrisPr-Cas9-aid base editor is a powerful gain-of -function screening tool" Nat Methods. 2016 Nov 29:13(12):983-984. Corresponding author: Mazhar Adli (U. Virginia School of Medicine)
- Nature Biotechnology 12月号にて刊行(電子版は10月刊行)されたCRISPR-Cas9とAIDを組合わせた変異導入によってゲノムを多様化しスクリーニングライブラリーとして活用する2論文をハイライト
- [TAM法] Yunqing Ma et al. “Targeted AID-mediated mutagenesis (TAM) enables efficient genomic diversification in mammalian cells.” Nat. Methods. 2016 Dec;13(12):1029-1035. Published online 2016 October 10.
- [CRISPR-X法] Gaelen T. Hess et al. “Directed evolution using dcas9-targeted somatic hypermutation in mammalian cells.” Nat. Methods. 2016 Dec;13(12):1036-1042. Published online 2016 October 31.
- [AID]
- 活性化誘導シチジン脱アミノ酵素(Activation-Induced (Cytidine) Deaminase)を意味し、抗体のクラススイッチ組換え(class-switch recombination: CSR)と体細胞突然変異(somatic hypermutation: SHM)を調節することが知られている。
- 第2世代CRISPR’base editors’
- ’base editors’は、ヒト疾患の多くが点突然変異に由来することから疾患モデルの作出ひいては創薬スクリーニングに有用。
- 二重鎖DNA(dsDNA)切断からの効率が極めて低い相同組換え修復機構を介すことなく一塩基編集を可能にした第2世代CRISPR’base editors’として、ハーバード大学らのグループの手法と神戸大学などの国内研究グループのTarget-AIDの手法を紹介。
- [情報拠点注] CRISPR-Cas9-AID関連ニュースウオッチ記事
- CRISPR関連文献メモ_2016/08/06 1.[論文]Target-AID: 二本鎖DNA(dsDNA)切断とドナーDNA(テンプレート)を必要としない点変異導入法:近藤昭彦 (神戸大学)
- CRISPR関連文献メモ_2016/04/21 2.[論文] DNA二本鎖切断を介さずに、ゲノムDNA中の1塩基を編集:David R. Liu (Harvard University)
- いずれの手法も不活性Cas9(dCas9)とAIDを組合わせて、AIDによるシトシン(C)からウラシル(U)への置換を誘導し、さらに、ウラシルDNAグリコシラーゼを阻害することで、C-TまたはG-Aのトランジッション塩基置換を実現。
- TAM法とCRISPR-X法
第2世代CRISPR’base editors’をゲノムの標的サイトの多様化へと展開した機能ゲノミクスの手法にあたり、機能喪失/獲得スクリーニングに有用。 - [TAM法] AIDを融合したdCas9をsgRNAによって標的に誘導する手法であり、白血病治療薬イマチニブ(グリベック)に対して耐性をもたらすBcr-Abl 遺伝子におこる多重な点突然変異の同定を実現。
- [CRISPR-X法] dCas9を、AIDを融合したMS2を付加したsgRNAによって、標的部位に誘導する手法である。CRISPR-X法によって、野生型GFPのより蛍光強度が高いeGFPへと改変する点突然変異が同定され、また、プロテアソームを標的とする抗癌剤ボルテゾミブへの耐性をもたらすPSMB5 における点突然変異(既知と新規の双方を含む)が同定された。
- エフェクター構成の違いから、TAM法はPAM 配列の上流(-12 ~ -16 bp)への変異導入に、CRISPR-X法はPAM 配列の下流(+12~+32 bp)への変異導入に有効である。
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