[出典] "Generating viable mice with heritable embryonically lethal mutations using the CRISPR-Cas9 system in two-cell embryos" Wu Y, Zhang J [..] Chen B, Wang S. Nat Commun. 2019-06-28.

背景
  • 遺伝子ノックアウトモデルマウスは、in vivoでの遺伝子機能を解析に必須である。そのノックアウトが胎生致死をもたらす遺伝子は、胚発生の必須遺伝子であることを意味するが、胚発生必須遺伝子のノックアウトマウスの作出は極めて困難であり、したがって、そうした遺伝子のin vivo機能解析も進んで来なかった。
  • 例えば、前核期の一細胞胚にCas9 mRNAとsgRNAsをマイクロインジェクションすることで多重遺伝子のノックアウトが可能なことが実証されていたが (Cell, 2013) 、胚発生必須遺伝子がノックアウトされたファウンダー(F0)マウス樹立には至らなかった。
  • 近年 (Cell Res, 2017)、2細胞期胚の一方の割球にCas9 mRNAをマイクロインジェクションし、続いて、Cre mRNAとsgRNAを同時にマイクロインジェクションする二段階の遺伝子編集 (two-step injection method: 2CC)を加えた後、胚移植を経て、そのノックアウトが出生後 (postnatally)致死をもたらすTet3遺伝子変異を帯びたキメラマウスが作出された。
成果
  • 首都医科大学 (北京)の研究チームは今回、in vivoまたはin vitroで受精した接合子から培養した2細胞期胚に、Cas9のmRNAまたはタンパク質とsgRNAとを同時にマイクロインジェクションする一段階の遺伝子編集 (one-step two-cell embryo microinjection: OSTCM)を加えた後、胚移植することで、遺伝性の胎生致死遺伝子 (VirmaまたはDpm1の2種類)変異を帯びたキメラ・ファウンダーマウスを作出した (原論文 Fig. 7引用下図の最下段参照)。OSTCM Fig 7
  • ファウンダーマウスのCRISPORで予測したオフターゲット作用の候補サイトでのオフターゲット編集は見られなかった。
  • ファウンダーマウスの胎生致死遺伝子変異は、野生型との交配を経たF1マウスへと継承された。また、Virma変異F1ヘテロ接合体交配に由来するF2胎仔34匹のうち11匹がVirma (+/+)が、23匹がVirma(+/-)であり、Virma(-/-)は見られず、Virma変異の胎生致死性が裏付けられた。
  • また、Virmaフレームシフト変異ファウンダーマウス (120日間生存)において、腎臓におけるVirma変異のフェノタイプとVirmaの機能解析も実現した。
  • OSTCMによって作出したモデルマウスにおいて、出生後致死変異をもたらすSlc17a5遺伝子とCtla-4遺伝子の機能解析も行い、Ctla-4ノックアウトマウスにおける制御性T細胞増殖も同定した。
OSTCMの効率:原論文Table 2引用下図参照OSTCM Table 2