[出典] "Modular one-pot assembly of CRISPR arrays enables library generation and reveals factors influencing crRNA biogenesis" Liao C [..] Beisel  CL. Nat Commun 2019-07-03 (bioRxiv 2018-05-02)

背景
  • CRISPR-Casシステムは、Casヌクレアーゼが宿主ゲノムのCRISPRアレイから生合成されるcrRNAにガイドされることで、標的DNA/RNAを編集する。したがって、CRISPRアレイを利用したCRISPR-Casシステムの多重化が考えられて良い。
  • しかし、CRISPR-Casシステムによるゲノム編集の多重化はこれまで、主としてタイプII-Cas9と組み合わせるsgRNAの多重化に依存しており、多重なsgRNAsをそれぞれプロモータで発現させるか、または、多重なsgRNAsを細胞内で切断可能なリンカーで連結するなどのプロセスが必要とされていた。
  • Cas9に遅れて発見されたタイプV-Cas12aとタイプVI-Cas13が、crRNAsを他の因子に依存せずそれ自身でCRISPRアレイから生合成することから、CRISPRアレイを利用した多重遺伝子編集の試みが広がってきた。
  • CRISPRアレイは、sgRNAsと異なり任意のCRISPRヌクレアーゼと組み合わせることが可能であり、また、リピートとスペーサのサブユニットのサイズがsgRNAsのアレイの~150 - 400 bpよりも~66bpと小さいという利点を備えている。
  • これまでCRISPRアレイの利用が広がって来なかったのは、主として、リピートDNAとスペーサDNAのユニットを連結していく効率的な合成法が存在しなかったことによる。
CRATES (CRISPR Assembly through Trimmed Ends of Spacers)
  • North Carolina State Universityの研究グループが今回開発したCRATESは、CRISPRアレイに組み込まれたスペーサの中で、標的の認識に関与せずcrRNA生合成過程で切り捨てられる部分に連結用配列を埋め込む手法である (原論文Fig. 1から引用した下図の a がCas12aヌクレアーゼによるcrRNA生合成過程、b が、タイプIIS制限酵素とT4 DNAリガーゼを利用したCRATESによるCRISPRアレイ構築過程)
CRATES 1 CRATES 4
  • CRATESによって、多数のスペーサを帯びたCRISPRアレイ、3種類のスペーサを帯びたCRISPRアレイのライブラリ (メンバー数125)、および多重なヌクレアーゼ (Cas9、Cas12a、およびCas13a)で利用な可能な複合CRISPRアレイを作出し (原論文Fig. 4引用上図右参照)、無細胞系 (TXTL)、バクテリアおよび酵母におけるDNA/RNA切断と遺伝子活性化の多重化を実現した。
合成CRISPRアレイから合成されるcrRNAの特性
  • CRATESの開発・検証の過程で、活性なcrRNAはリピートDNAに左右を囲まれているスペーサDNAから合成されているとされていたのに対して、意外にも、FnCas12aがCRATESで作出したCRISRアレイの3'末端の外のスペーサDNAから活性なcrRNAを合成することを見出した (原論文Fig. 5 引用下図 部分参照)。これに対して、14種類のバクテリアに由来するタイプV-Aの3'末端スペーサは、crRNAへの成熟の障害になると思われる変異を帯びており、加えて、3'末端スペーサに相当するcrRNAが検出されないバクテリアも存在した。CRATE 5
  • また、合成CRISPRアレイから生合成されるcrRNAの量 (RNA-seqのリード数)がcrRNAごとに異なり (Fig. 5引用上図グラフ参照)、crRNA量とヘアピン二次構造およびヌクレアーゼの編集活性が相関することを見出した。