[出典] "Programmable RNA editing by recruiting endogenous ADAR using engineered RNAs" Qu L, Yi Z, Zhu S, Wang C, Cao Z, Zhou Z, Yuan P [..] Wei W. Nat Biotechnol 2019-07-15.

背景
  • 2017年にdCas13bにアデニンデアミナーゼADAR2の触媒ドメインを融合しgRNAを設計することでRNA上でA-to-I置換を実現するREPAIRが開発されたが [*1] 、同時に、AD-gRNAsadRNAsを設計することで、内在ADAR1またはADAR2を活かすRNA A-to-I変換ツールの研究開発も進んでおり、2019年1月には入ってから、複雑な化学修飾を施した化学合成アンチセンス・オリゴヌクレオチドをガイドとするツールRESTORE[*2]が発表されている。
概要
  • 北京大学の研究グループは今回、細胞に内在するADAR1またはADAR2を標的RNAにガイドするgRNAを新たに設計することで、免疫原性のリスクを伴わず、高効率・高精度で、RESTOREよりはフレキシブルなRNA A-to-I置換ツールLEAPERを開発した。
LEAPERの誕生
  • 予備実験において、高活性なADAR1変異体のデアミナーゼドメインをdCas13aに融合した複合体を40-ntの長さのcrRNAでガイドする実験と、dCas13bを利用するREPAIRの再現実験 (70-ntのcrRNA)を行い、いずれの場合もcrRNA単独でも、内在ADARの活性に基づくA-to-I置換が生じることを見出した。
  • さらに、70-ntのcrRNA単独でHEK293T細胞にて~13%の編集効率を示した一方で標的RNAの発現を阻害しないことを確認した。
  • さらに、ADAR欠損細胞での実験も行った結果、crRNAが標的RNAとdsRNAを形成するとともに内在ADARをリクルートすることで、ADARを介したRNA編集が進行するとし、ADARをルクリートする(ガイドする)RNAをarRNAと命名し、arRNAと内在ADARに基づくRNA A-to-I置換ツールをleveraging endogenous ADAR for programmable editing of RNAに因んでLEAPERと命名した。
LEAPERの組み立てと細胞株における活性
  • HT29、A549、HepG2、RD、SF268、SW13およびHeLaの各ヒト細胞でのADAR1/2/3の発現を測定し、ADAR1だけが全ての細胞で発現していることを確認し、ADAR1と再設計した71-ntの長さのarRNAと組み合わせたLEAPERにより、編集効率は一様ではないが、全ての細胞においてRNA編集が可能なことを実証した。LEAPERはまた、マウスのNIH3T3細胞と胚性線維芽細胞およびB16細胞でも活性を示した。
  • 次に、PPIBKRASおよびSMAD4の各遺伝子の転写物のUAGモチーフと、FANCC遺伝子の転写物のUACモチーフを標的とする長さを変えた (51-/71-/111-/151-nt)のarRNAの効果を比較し、いずれの場合もA-to-I置換が誘導されることを確認した。また、2種類のarRNAsを併用することでTARDBPFANCCの転写物の多重編集にも成功した。
  • LEAPERによるRNAiは見られなかったが、オフターゲット編集は発生した。特にKRASの場合は、111-ntのarRNAがカバーする30ヶ所のAのうち11ヶ所のAが I に変換されたが、標的配列とarRNAとの間のミスマッチを調節することで抑制に成功した。また、arRNAがカバーする以外の領域におけるオフターゲット編集は見られず、最適化したarRNAに基づくLEAPERはトランスクリプトーム・ワイドでオフターゲット変換を誘導しないことが明らかになった。
病因点変異の修復
  • HEK293T細胞においてarRNAと相補的DNAペアを共発現させる系において、G-to-Aの病因変異が発生するCOL3A1, BMPR2, AHI1, FANCC, MYBPC3およびIL2RGの全ての遺伝子について、A-to-Gへの修復に成功した。A-to-G変異は、ヒト疾患の病因点変異の50%近くを占めている。
  • ヒト肺線維芽初代細胞、ヒト気管支上皮初代細胞ならびにヒト初代T細胞において151-nt arRNAを介してPPIBに対する変換効率それぞれ>40、>80、ならびに30%を達成した。
  • arRNAの細胞への導入には、プラスミドの送達、レンチウルスベクターをキャリアとする送達に加えて合成オリゴヌクレオチドのエレクトロポレーションでも可能であり、T細胞へ導入した111-ntのPPIBオリゴは~20%の変換効率を示し、LEAPERがオリゴヌクレオチド治療薬として有望なことが示唆された。
  • さらに、HEK293T (TP53ノックアウト)細胞での実験によりTP53に発生する未成熟終止コドンの修復を実現した。
  • 遺伝性ムコ多糖代謝異常症の一種であるハーラー症候群患者に由来する初代線維芽細胞におけるα-L-イズロニダーゼ  (IDUA)の欠損を、自然免疫応答を引き起こすことなく、修復した。
参考記事・論文