タイプⅢ CRISPRシステムは3種類の核酸切断機能を備えている
- 侵入ssDNAの切断
- DNAから転写されたRNAのcrRNA依存選択的切断 (標的RNA切断)
- セカンドメッセンジャーを介したウイルスRNAの非選択的分解。
Memorial Sloan Kettering Cancer CenterとThe State University of New Jerseyの研究グループは今回、Thermococcus onnurineusのタイプIII-A CRISPRシステムCsm6に注目し、X線結晶構造解析とクライオ電顕法により、Csm6とその変異体の構造を解き、二次情報伝達物質 (セカンドメッセンジャー)を介した非選択的分解の分子機序について考察を加え、Molecular Cell誌に2論文を発表した。
1. Csm6 CARFドメインへのcA4結合がCsm6 HEPNドメインのRNase活性を誘起する分子機構とRNaseの活性を調節する因子
[出典] "CRISPR-Cas III-A Csm6 CARF Domain Is a Ring Nuclease Triggering Stepwise cA4 Cleavage with ApA>p Formation Terminating RNase Activity" Jia N, Jones R, Yang G, Ouerfelli O, Patel DJ. Mol Cell 2019-07-17.
- Csm6の野生型およびCARFとHEPNドメインにアミノ酸置換を導入したCsm6変異体を対象として、アポ状態およびcA4、cdA4、ApApApA>pおよびApA>pが結合した状態の構造をX線結晶構造解析によって1.95 ~ 2.80の分解能で決定した:[PDB登録] 6O6S; 6O6T; 6O6V; 6O6X; 6O6Y; 6O6Z ; 6O70; 6O71; 6OV0.
- セカンドメッセンジャーcA4はCsm6 RNaseのCARFドメインとHEPNドメイン双方のポケットに結合し、CARF結合ポケット内に位置するHis132が、Csm6 HEPNドメインを介したRNase活性を自己阻害調節する。
- Csm6のCARFドメインはリングヌクレアーゼであり、cA4を2回のニッキングを経て、ApApApA>pからApA>pへと二段階で分解し、この2回の分解はいずれも2',3'-環状リン酸を生成する。
- CARFにおける第一段階のニッキングを介したApApApA>p生成がHEPNドメインのRNaseの活性化を促し、第二段階で生成されるApA>pがその活性を終結させる。この機構によりCsm6の無差別なRNA切断活性から宿主が保護される。
- T. onnurineus Csm6 (HEPNドメイン)は、S. epidermidisとStreptococcus thermophilusのCsm6がプリン塩基を切断する傾向を示す一方でPyrococcus furiosus Csx1と同様なアデノシン特異的エンドリボヌクレーアゼであり、ApA>pからcAMP (A>p)を生成する。
2. Csm複合体のCsm1 Palmポケット内におけるcA4合成とその放出経路
[出典] "Second Messenger cA4 Formation within the Composite Csm1 Palm Pocket of Type III-A CRISPR-Cas Csm Complex and Its Release Path" Jia N, Jones P, Sukenick G, Patel DJ. Mol Cell 2019-07-17.
- crRNAが結合したタイプIII-A CRISPR-CasマルチユニットCsm複合体が、Csm1サブユニットのPalmドメインポケットにおいて、ATPからのサイクリックオリゴアデニル酸 (cAn)合成を促す。このcAnが、項目1にもあるように、トランスに作用するRNase Csm6のCARFドメインに結合し、HEPNドメインのRNase活性を起動する。
- 研究グループは、T. onnurineus Csmエフェクタの三者複合体をクライオ電顕法で再構成し、Csm1-Csm4カセットのアポ構造および基質 (AMPPNP)、中間体 (pppAn)、および産物のセカンドメッセンジャー(cAn)が結合した構造をX線結晶構造解析することで、第1項にあったHEPNドメインのアデノシン特異性と、ATPからpppAnを経てcAn合成にいたる反応の構造基盤を明らかにし、さらに、Csm1とCsm4サブユニットの間のチャネルに沿って、Csm1結合cA4が放出されることを明らかにした。
- 構造情報 [EMDB] 0640; 0641; 0642 [PDB] 6O7E; 6O7H; 6O7I; 6O73; 6O74; 6O75; 6O78; 6O79; 6O7B; 6O7D
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