タイプⅢ CRISPRシステムは3種類の核酸切断機能を備えている
  • 侵入ssDNAの切断
  • DNAから転写されたRNAのcrRNA依存選択的切断 (標的RNA切断)
  • セカンドメッセンジャーを介したウイルスRNAの非選択的分解。
 セカンドメッセンジャーを介したRNAの無差別分解は、標的RNAの結合によって活性化したCas10のサブユニットPALM/cyclaseドメインがATPからサイクリックオリゴアデニル酸(cOA)を合成し、このcOAがセカンドメッセンジャーとしてCsm6CARF (CRISPR associated Rossman Fold)ドメインに結合することで、Csm6/Csx1によって進行する。この独特の機構についてこれまで多くの論文が発表されてきた [$ crisp_bio関連記事]。例えば、Staphylococcus epidermidisのタイプⅢ-A CRISPRシステムについてはX線結晶構造解析とクライオ電顕によりその構造基盤が明らかにされている (NAR, 2019/bioRxiv 2018); 下図はNAR論文Fig. 1のaとcを引用したCRISPR-Cas遺伝子座の構成とcrRNAが結合したsurveilance complex)の模式図)
Csm
 Memorial Sloan Kettering Cancer CenterとThe State University of New Jerseyの研究グループは今回、Thermococcus onnurineusのタイプIII-A CRISPRシステムCsm6に注目し、X線結晶構造解析とクライオ電顕法により、Csm6とその変異体の構造を解き、二次情報伝達物質 (セカンドメッセンジャー)を介した非選択的分解の分子機序について考察を加え、Molecular Cell誌に2論文を発表した。

1. Csm6 CARFドメインへのcA4結合がCsm6 HEPNドメインのRNase活性を誘起する分子機構とRNaseの活性を調節する因子
[出典] "CRISPR-Cas III-A Csm6 CARF Domain Is a Ring Nuclease Triggering Stepwise cA4 Cleavage with ApA>p Formation Terminating RNase Activity" Jia N, Jones R, Yang G, Ouerfelli O, Patel DJ. Mol Cell 2019-07-17.
  • Csm6の野生型およびCARFとHEPNドメインにアミノ酸置換を導入したCsm6変異体を対象として、アポ状態およびcA4、cdA4、ApApApA>pおよびApA>pが結合した状態の構造をX線結晶構造解析によって1.95 ~ 2.80の分解能で決定した:[PDB登録] 6O6S; 6O6T; 6O6V; 6O6X; 6O6Y; 6O6Z ; 6O70; 6O71; 6OV0.
  • セカンドメッセンジャーcA4はCsm6 RNaseのCARFドメインとHEPNドメイン双方のポケットに結合し、CARF結合ポケット内に位置するHis132が、Csm6 HEPNドメインを介したRNase活性を自己阻害調節する。
  • Csm6のCARFドメインはリングヌクレアーゼであり、cA4を2回のニッキングを経て、ApApApA>pからApA>pへと二段階で分解し、この2回の分解はいずれも2',3'-環状リン酸を生成する。
  • CARFにおける第一段階のニッキングを介したApApApA>p生成がHEPNドメインのRNaseの活性化を促し、第二段階で生成されるApA>pがその活性を終結させる。この機構によりCsm6の無差別なRNA切断活性から宿主が保護される。
  • T. onnurineus Csm6 (HEPNドメイン)は、S. epidermidisStreptococcus thermophilusのCsm6がプリン塩基を切断する傾向を示す一方でPyrococcus furiosus Csx1と同様なアデノシン特異的エンドリボヌクレーアゼであり、ApA>pからcAMP (A>p)を生成する。
2. Csm複合体のCsm1 Palmポケット内におけるcA4合成とその放出経路
[出典] "Second Messenger cA4 Formation within the Composite Csm1 Palm Pocket of Type III-A CRISPR-Cas Csm Complex and Its Release Path" Jia N, Jones P, Sukenick G, Patel DJ. Mol Cell 2019-07-17.
  • crRNAが結合したタイプIII-A CRISPR-CasマルチユニットCsm複合体が、Csm1サブユニットのPalmドメインポケットにおいて、ATPからのサイクリックオリゴアデニル酸 (cAn)合成を促す。このcAnが、項目1にもあるように、トランスに作用するRNase Csm6のCARFドメインに結合し、HEPNドメインのRNase活性を起動する。
  • 研究グループは、T. onnurineus Csmエフェクタの三者複合体をクライオ電顕法で再構成し、Csm1-Csm4カセットのアポ構造および基質 (AMPPNP)、中間体 (pppAn)、および産物のセカンドメッセンジャー(cAn)が結合した構造をX線結晶構造解析することで、第1項にあったHEPNドメインのアデノシン特異性と、ATPからpppAnを経てcAn合成にいたる反応の構造基盤を明らかにし、さらに、Csm1とCsm4サブユニットの間のチャネルに沿って、Csm1結合cA4が放出されることを明らかにした。
  • 構造情報 [EMDB] 0640; 0641; 0642 [PDB] 6O7E; 6O7H; 6O7I; 6O73; 6O74; 6O75; 6O78; 6O79; 6O7B; 6O7D 

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