1. CRISPR-Cas9 HDRを亢進するRAD18バリアントを同定
[出典] "Stimulation of CRISPR-mediated homology-directed repair by an engineered RAD18 variant" Nambiar1 TS [..] Ciccia A. Nat Commun 2019-07-30.
  • Columbia University Irving Medical Centerの研究グループは、CRISPR-Cas9 HDRを亢進する観点から、ヒトDNA損傷応答 (DDR)に関与するオープンリーディングフレーム (ORFs)204種類をスクリーニングし、複製後修復とHDRに関与するRING型E3ユビキチンリガーゼであるRAD18が、ssODNおよびdsDNAをテンプレートとするHDRいずれについても、最も強力に亢進する因子であることを同定した。
  • さらにHDR亢進に必須のドメインを機能解析から同定し、効率と特異性を向上させた (enhanced) RAD18バリアント (e18)を誘導した。e18バリアントの効果は、53BP1のDSBsへの局在を阻害し、ひいては、HDRと競合するNHEJを介したDSB修復を阻害することでもたらされる。
  • e18は、HEK293T細胞、HeLa細胞、U2OS細胞ならびにヒトES細胞において多様な遺伝子座におけるHDRを亢進した (原論文Fig. 5引用下図参照)。e18
2. SpyCas9のDNA切断活性には、HNHヌクレアーゼドメインの残基N863が決定的な役割を果たしている
[出典] "Structural and functional insights into the bona fide catalytic state of Streptococcus pyogenes Cas9 HNH nuclease domain" Zuo Z [..] Wang YC, Liu J. eLife 2019-07-30.
  • SpyCas9の構造とDNA切断機構について共通理解が進んできたが、HNHヌクレアーゼドメインのDNA切断可能な状態のコンフォメーションについては決着がついていない。
  • 上海工程技術大学、University of North Texas Health Science CenterならびにUniversity of Oklahomaの研究グループは今回、in silico (ホモロジーモデリング;分子動力学シミュレーション;QM/MMシミュレーション)およびDNA切断実験から、HNHドメインが、これまでに示唆されたD839-H840-D861、D839-H840-N854、D837-D839-H840またはD839-H840-D861-N863ではなく、D839-H840-N863で触媒活性部位を構成することを、明らかにし、D861が活性中心に向きMgイオンの活性中心への配位と標的鎖切断を担うとした構造は“psuedoactive state”の構造であるとした (原論文Figure 2引用下図参照)。SpyCas9
3. CRISPRiとCRISPRaの多重化に対するdCas9ボトルネック
[出典] "Modeling predicts that CRISPR-based activators, unlike CRISPR-based repressors, scale well with increasing gRNA competition and dCas9 bottlenecking" Clamons S, Murray R. bioRxiv 2019-07-30
  • dCas9に転写因子 (transciption factors: TFs)を融合した人工因子 (CRISPRtf)で、遺伝子発現抑制/活性化をもたらすCRISPRi/aシステムの構築が容易になった。このCRISPRtfによって、宿主遺伝子の発現調節や、小規模な転写調節回路の構築も容易になったが、スケーラビリティーが課題となっている。dCas9ボトルネックとは、CRISPRftsのネットワークの中で一つのgRNAの発現は、その他のgRNAsをdCas9から隔離することで、sgRNAsを介したCRISPRi/aの活性が損なわれていく現象である。
  • ZhangとVoigt (NAR 2018)はdCas9ボトルネック現象として、E. coliにおいて、CRISPRiの遺伝子発現抑制の活性がgRNAs同時使用数の増加とともに低下し、7 gRNAsを超えると10分の1にまで低下することを報告している (低毒性のdCas9バリアント、dCas9*-PhIF、の場合は、~ 15 gRNAsにて) [*1]。バクテリアにおいてCRISPRaの活性は低く当時はCRISPRaに対するdCas9ボトルネック現象は関心を集めなかったが、その後、他の因子を併用することなくdCas9にSoxSを融合するだけでバクテリアにおける実用的なCRISPRaが実現された [*2]。
  • Caltechの研究チームは今回、Chenらによって提案され [*3]、ZhangとVoigt[*1]がCRSIPRiのdCas9ボトルネック効果解析に利用したモデルに基づいて、CRISPRaに対するdCas9ボトルネックを評価した。
  • その結果、CRISPRaはCRISPRiとは異なり、数十から数百のgRNAsを同時使用しても、10倍を超える活性化を維持可能であるとし、転写調節回路構築のツールとしてCRISPRaを推奨した。
参考文献と記事
4. TALEN HDRを介したウシの生殖細胞系列のゲノム編集の際に、テンプレート・プラスミドが取り込まれる
[出典] "Template plasmid integration in germline genome-edited cattle" Norris AL, Lee SS [..] Lombardi H. bioRxiv 2019-07-28
  • FDAの研究チームは今回、無角遺伝子の導入を目的とするTALEN HDRを介した生殖細胞系列ゲノム編集を加えたウシの全ゲノム配列の公開データを解析し、目的外のプラスミドバックボーンと第2のHDR用テンプレート配列がゲノムにヘテロに組み込まれることを見出し (投稿Fig. 1引用下図参照)、プラスミドと多重なテンプレートの組み込みへの注意を喚起した。TALEN HDR