[出典] "Loss of p53 triggers WNT-dependent systemic inflammation to drive breast cancer metastasis" Wellenstein MD, Coffelt SB [..] Jonkers S, de Visser KE. Nature. 2019 Jul 31.

背景
  • 癌に伴う全身性炎症が癌患者の予後不良と密接に結びついている。ヒト上皮性腫瘍のほとんどにおいて、好中球/リンパ球比 (neutrophil-to-lymphocyte ratio: NLR)が高いことが全生存率の低下と相関し、好中球と癌転移の間の因果関係を示す実験結果も報告されている。
  • しかし、癌宿主の間で全身性好中球性炎症の様相を極めて不均一たらしめている癌細胞内在性機構はほとんど不明であった。
成果
  • Netherlands Cancer Instituteの研究グループは今回、ヒトの乳癌の殆どのサブタイプに相当する16種類の乳癌マウスモデル (genetically engineered mouse models: GEMMs)において血中循環好中球のレベルを全身性炎症のマーカとして実験を進め、CRISPR-CasによるTpr53遺伝子の欠損実験、TCGAデータの解析なども加えて、癌細胞内在のp53が、癌転移を促進する好中球の主要な制御因子であることを見出した。
  • その分子機構として、p53欠損腫瘍細胞において、WNTリガンド (Wnt1, Wnt6およびWnt7a)の分泌が誘導され、このWNTリガンドが腫瘍微小環境に存在する腫瘍随伴マクロファージ (tumour-associated macrophage: TAM)を刺激することでIL-1βの分泌を誘導し、全身性炎症に至るとした。
  • P53ヌルの腫瘍細胞において、薬理学的または遺伝学的にWNT分泌を阻害すると、マクロファージを介したIL-1β生産とそれに続く好中球 性炎症が抑制され、転移も減少した。