2020-06-03 : Nature Biotechnology論文書誌事項を追記し、bioRxivに準拠していた初稿を大幅に改訂
2019-08-09: bioRxiv投稿に基づく初稿
[出典] "Base editors for simultaneous introduction of C-to-T and A-to-G mutations" Sakata RC, Ishiguro S, Mori H [..] Yachie N. Nat Biotehnol 2020-06-01. (bioRxov. 2019-08-09 "A single CRISPR base editor to induce simultaneous C-to-T and A-to-G mutations")
2019-08-09: bioRxiv投稿に基づく初稿
[出典] "Base editors for simultaneous introduction of C-to-T and A-to-G mutations" Sakata RC, Ishiguro S, Mori H [..] Yachie N. Nat Biotehnol 2020-06-01. (bioRxov. 2019-08-09 "A single CRISPR base editor to induce simultaneous C-to-T and A-to-G mutations")
背景:Base Editors, CBEとABE, とは
- DSBを経由することなく一塩基変換を可能とする手法として、C-to-Tを実現するCBE、続いて、A-to-Gを実現するABEが開発された (crisp_bio記事[*]参照)。
- CBEはdCas9またはnCas9にシチジンデアミナーゼを融合し、加えて、塩基除去修復酵素UGIの阻害を介してDNAミスマッチ修復を亢進することで、gRNAの標的サイトの比較的狭いウインドウの中の非標的鎖 (NTS)のCをTへ変換する (C-to-T)。CBEとして、David R. Liuらの一連のBE (dCas9-rAPOBEC1)と、近藤昭彦らのTarget-AID (dCas9-PmCDA)が知られている。
- ABEは、dCas9またはnCas9にE. coli tRNAアデノシンデアミナーゼ (TadA)由来の変異体TadA*とTadAのヘテロ二量体を融合することで、AからIへ、DNA複製を介してさらにGへ変換する (A-to-G)。
- このCBEとABEの効率は、dCas9をnCas9 (D10A)に替えることでgRNAに相補的な標的鎖 (TS)にニックを誘導し、NTS上の変換された塩基をニック修復のテンプレートたらしめることで、向上する。
[* CBEとABEに関連するcrisp_bio記事]
- 2019-07-24 一塩基編集 (CBE)、ファージに依存する持続的進化法 (PACE)により、進化続く
- 2017-10-26 D. R. LiuのDNA1塩基編集法”ABE”とF. ZhangのRNA1塩基編集法”REPAIR”
- 2017-09-05 塩基編集法(BE)第4世代へ:BE1, BE2, BE3からBE4へ
- CRISPR関連文献メモ_2016/08/06 [第1項] Target-AID: 二本鎖DNA(dsDNA)切断とドナーDNA(テンプレート)を必要としない点変異導入法
成果概要
東大 (慶応大または神戸大兼務を含む)の研究グループは今回、nCas9 (D10A)のC末端に、PmCDA1-NLS-UGIを結合し、同時に、N末端にTadA*/TadA-bipartite NLSを結合することで、HEK293Ta細胞内の47種類の遺伝子座にて、C-to-TとA-to-Gの同時変換を実現し、これをTarget-ACEmaxと称した。
デュアルBE*のTarget-ACEmaxのオンターゲット活性ならびにDNAとRNAに対するオフターゲット活性は、シングルBEのCBEおよびABEと同等であるが、CBEとABEの組み合わせに比べて、サイズが7,190 bpと小型なことからTarget-ACEmaxの可用性が高い。
[*注] シングルBEとデュアルBEという表記は、C-to-TとA-to-Gの変換のどちらかを実現するBEと、共変換を実現するBEとして、本記事内で便宜的に使用したものです。原論文中では、単一のBEで共変換を実現するTarget-ACEmaxなどを"シングル base editor"と記しています。
デュアルBE*のTarget-ACEmaxのオンターゲット活性ならびにDNAとRNAに対するオフターゲット活性は、シングルBEのCBEおよびABEと同等であるが、CBEとABEの組み合わせに比べて、サイズが7,190 bpと小型なことからTarget-ACEmaxの可用性が高い。
[*注] シングルBEとデュアルBEという表記は、C-to-TとA-to-Gの変換のどちらかを実現するBEと、共変換を実現するBEとして、本記事内で便宜的に使用したものです。原論文中では、単一のBEで共変換を実現するTarget-ACEmaxなどを"シングル base editor"と記しています。
デュアルBEとしてTarget-ACE、Target-ACEmaxおよびACBEmaxを評価
- Target-ACEは、nCas9 (D10A)のC末端とN末端それぞれにPmCDA1とTadA*/TadAを結合
- Target-ACEmaxは、Target-ACEに、BE4maxとABEmaxに倣って、コドンを最適化しTadA*/TadAへのbipartite NLSを付加
- ACBEmaxは、Target-ACEmaxのPmCDA1を、BE4maxに組み込まれていたコドン最適化シチジンデアミナーゼrAPOBEC1に置換
- また、対照群となるシングルBEとして、Target-AID、BE4max、ABEおよびABEmaxに加えて、コドンを最適化したTarget-AIDmaxとBE4max (C)を用意した。このTarget-AIDmaxには、PmCDA1のBE4maxのrAPOBEC1への置換も施した。
- 塩基変換の活性、およびオンターゲットとオフターゲットの編集プロファイルを、HEK293Ta細胞に導入したBEsによってEGFPタンパク質を発現するレポータ、および、HEK293Ta細胞の47遺伝子座を標的とする編集結果のシーケンシングに拠って評価した。
- 評価対象は、前項のディアルBE3種類とシングルBE6種類に、シングルBEの組合せ (mix)4種類 (Target-AID+ABE; Target-AIDmax+ABEmax; BE4max(C)+ABEmax; BE4max+ABEmax)を加えた。
- [注] シングルBEsとディアルBEの関係図が、Extend Data Fig. 1: Single- and dual-function base editors used in this studyに、Target-ACEmaxの構造モデル図と塩基変換の活性データがFig. 1: C→T and A→G base-editing activities of single- and dual-function base editorsに用意されている。
- Target-ACEmaxはTarget-AIDmax+ABEmaxは共に、PAMから18 bpと15 bpにそれぞれ位置するCとAに対して効率的な変換活性を示し、ピークはそれぞれ19.2%と21.0%に達した。
- ACBEmaxとBE4max+ABEmaxも効率的であり、PAMから-12 bpと-15 bpにそれぞれ位置するCとAに対して、テストした中で最も高い変換効率23.2%と23.6%を示した。
オフターゲット活性の検証
- 3種類のgRNAsについてのアンプリコンシーケンシングの結果、ディアルBEのオフターゲット・リスクは、シングルBEと同等であったが、シングルBEの組合せはオフターゲット・リスクが著しく高まることが示された。
- 全エクソームシーケンシング (WES)およびRNA-seqによるゲノムワイドでのDNAとRNAのオフターゲット活性も判定した。
- WESでは、ディアルBEであることによるSNVレベル上昇は見られなかった。
- RNA-seqからは、rAPOBEC1を組み込んだBEにおいてC-to-U変換が他のBEの10倍以上発生し、また、非選択的A-to-I変換が、ABEmaxおよびABEまたはABEmaxのミックスBEの場合に、他のBEに比べて有意に増加するという結果が得られたが、Target-ACEmaxの非選択的A-to-I変換は、Target-AIDmax+ABEmaxよりも顕著に低減されていた。
BEの結果予測と応用
- アンプリコンシーケンシングのデータをもとに、各BEによって誘導される塩基変換スペクトルの確率モデルを構築し、モデル構築に利用しなかった標的配列群によって検証し、Target-ACEnaxとACBEmaxについて予測可能なことを確認した。
- 続いてこのモデルに基づいて、各BEについてヒトゲノムにみられるあらゆるコドン変換パターンについてその頻度を算出した。その結果、Target-ACEmaxとそれに相当するmixであるTarget-AIDmax+ABEmaxが、コドンの多様化に貢献することを同定した。
- バイスタンダー変異のリスクについて、Target-ACEmaxとACBEmaxは、それぞれ相当するシングルBEと同等であったが、ACEBEmaxのリスクの方が、コドン変換多様化のパターンが少ないこと相関して、有意に低いことも見出した。
- ClinVarデータベースに基づいて病因ヘテロ変異の修復効率を評価したところ、シングルBEs、デュアルBEsおよびmix BEsの中で、Target-ACEmaxが最も効果的であった。また、配列の多様化の観点では、先行研究のCRISPR-X [*]よりも効果的であった。
[*] 2017-05-08 CRISPR関連文献メモ_2016/12/04 第2項 [NEWS & VIEWS] TAM法とCRISPR-X法:CRISPR-Cas9-AIDによるゲノムの多様化とその応用
Target-ACEmaxは、C·GとT·Aの間の可逆的変換を可能とすることから、細胞系譜追跡に、CRISPR/Cas9のDSB活性に基づくバーコーディングを利用した手法に優る可能性がある。
共変換関連crisp_bio記事
共変換関連crisp_bio記事
- 2020-01-14 C-to-TとA-to-Gの共変換を実現するBE: STEME (イネ)
- 2020-06-03 C-to-TとA-to-Gの共変換を実現するBE: A&C-BEmax (ヒト細胞)
- 2020-06-03 C-to-TとA-to-Gの共変換を実現するBE: SPACE (ヒト細胞)
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