2021-11-20 ブログ記事タイトルを「CRISPR-Swap: S. cerevisiae において異なる染色体上の遺伝子発現に作用するゲノム領域("trans QTLs")内の責任変異を同定」から「CRISPR-Swapを利用して,酵母におけるtrans-eQTLの構造と機構を探った」へと改訂
2021-11-19 U Minnesotaの研究グループは2019年に「それぞれが数十個の遺伝子の発現に影響を及ぼす3つの単一のDNA変異」をPLoS Genetics 誌にて報告していたが [初稿の項参照],CRISPR-Swapを再利用して今回は「一つの遺伝子に複数のtrans-eQTLバリアントが及ぼす影響」をGenetics 誌から発表した.
[出典] "Multiple epistatic DNA variants in a single gene affect gene expression in trans" Lutz S, Van Dyke K, Feraru MA, Albert FW. Genetics 2021-11-15. https://doi.org/10.1093/genetics/iyab208
 S. cerevisiae の遺伝子発現に広範なトランス作用を及ぼすバリアントを含む,大型のRASシグナル制御因子であるIRA2 遺伝子を対象として解析を進めた.CRISPR-Swapと高感度な表現型解析戦略を用いて,原因となる変異をヌクレオチドレベルで同定し,IRA2 にはこれまで知られていた単純な構造ではなく,trans-eGTLをもたらす非同義バリアントが少なくとも7種類存在することを同定した.また,これらのバリアントの効果は,相加的ではなく,エピスタティックな相互作用によって調整されていた.5′末端にある2つのバリアントは,それ単独では影響を及ぼさない3つ目のバリアントと組み合わされたときにのみ,遺伝子の発現と細胞増殖に影響を及ぼした.今回の発見は、trans-eQTLの分子基盤が,これまで考えられていたよりもかなり複雑である可能性を示した.

2019-08-21
初稿
[出典] "DNA variants affecting the expression of numerous genes in trans have diverse mechanisms of action and evolutionary histories" Lutz S, Brion C, Kliebhan M, Albert FW (U Minnesota). (bioRxiv 2019-08-19.PLoS Genetics. 2019-11-18. https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1008375
 
 実験室株S288C ("BY")とワイン酵母株RM11a ("RM")の間で異なる変異が40,000種類知られていたが、BY/RM交雑株に基づく実験から、異なる染色体上の数千種類の遺伝子に作用する("trans-acting")量的形質座位 (trans eQTL)のホットスポット102ヶ所が明らかにされた。一方で、trans eQTLにおいて"trans-acting"をもたらす責任DNA変異の同定は遅れていた。スクリーンショット 2021-11-19 12.51.35
  • 投稿者らは今回、CRISPR-Swapに蛍光標識したタンパク質発現のハイスループット定量を組み合わせることで、trans eQTLホットスポットにおける責任変異 (1塩基変異)を3種類 (グルコースセンサーRgt2; プロモーターOLE1;オレイン酸応答転写因子OAF1)同定し、その作用も解析した [ホットスポットのマッピング戦略についてFig. 1引用右図参照]。
  • CRISPR-Swapは、“insert-then-replace”の手法に則り、非必須遺伝子の場合は選択マーカ遺伝子に置換した後に、必須遺伝子の場合は2種類の選択マーカを挿入した後に、Cas9, sgRNAならびにDNA修復用テンプレートによる相同組み換えを介して、BY遺伝子からRM遺伝子へと置換する手法である.