[出典] "The Eleanor ncRNAs activate the topological domain of the ESR1 locus to balance against apoptosis" Abdalla MOA, Yamamoto T [..] Nakao M, Saitoh N. Nat Commun. 2019-08-22.

背景
  • エストロゲン受容体 (ER)陽性の乳癌は、ホルモン療法に感受性を示すが、継続治療の間に耐性を獲得する。ER陽性乳癌由来細胞株MCF7は、長期間エストロゲンを枯渇した培地で培養すると (long-term estrogen deprivation: LTED)、一部がエストロゲン非依存の増殖能を獲得し、ホルモン療法に対する耐性を獲得した乳癌モデル細胞、LTED細胞、に至る。
  • LTED細胞はポリフェノールの一種でありエストロゲンの構造類似体のレスベラトロールによって細胞死に誘導されるがその機構はこれまで不明であった。
  • がん研究所の斉藤典子と熊本大学の中尾光善らの研究グループは先行研究 (Nat Commun 2015)にて、LTED細胞の核内において、エストロゲン受容体をコードするESR1遺伝子を含むクロマチンドメイン (topologically associating domain:TAD)を規定するncRNAsのクラスタが形成されることを見出し、これを(ESR1 locus enhancing and activating noncoding RNAs; エレノア)と命名した。EleanorsはER陽性乳癌組織に見られ、転写が活性なESR1遺伝子座に局在してRNA凝集体 (RNA foci)を形成していた。
  • 研究グループはまた、レスベラトロールの他にも大豆由来のグリセロリンIが、エレノアRNA凝集とESR1 mRNAの転写の阻害を介して、LTEDを細胞死に誘導することも見出していた (Sci Rep 2018)。
成果
  • 研究グループは今回、Eleanorsが形成するLTED細胞の活性な核コンパートメントに形成するESR1遺伝子座を含むTAD (以下、Eleanor TAD)が、細胞死を誘導するFOXO3因子をコードする遺伝子座を含みEleanor TADからゲノム上で42.9 Mb離れた位置に存在するTAD (以下、FOXO3 TAD)と近接相互作用することで、細胞死を誘導するFOXO3の活性化とともに、ERをコードするESR1も活性化し、両者のバランスに依存してホルモン療法に対する耐性が発生することを、示唆した (原論文Fig. 7引用下図左参照)。The Eleanor ncRNAs
  • さらに、上図右にあるように、promoter-accociated ncRNAであるpa-EleanorのノックダウンまたはレスベラトロールによるEleanorsの阻害によって、ESR1遺伝子を含むEleanor TAD内の全ての遺伝子と、2つのTADs間の長距離相互作用が、共に抑制される一方で、FOXO3 TADとFOXO3遺伝子の活性は維持され、LTED細胞が細胞死に至ることを同定した。