crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

1. CRISPR/dCas9により、MDM2と上皮間葉転換 (EMT) バイオマーカーのTGF-β2誘導性発現を抑制 - 増殖性硝子体網膜症 (PVR)療法の可能性
[出典] "Blockade of MDM2 with inactive Cas9 prevents epithelial to mesenchymal transition in retinal pigment epithelial cells"  Liu B [..] Lei H. Lab Invest. 2019-08-22.
  • PREsにおけるEMTはPVRの主たる病因とされている。Harvard Medical Schoolの H. Leiをはじめとする米国、カナダ、中国の研究グループは今回、PVR患者由来のPREsに、MDM2の第2プロモータを標的とするsgRNAとdCas9またはdCas9-KRABを導入し、TGF-β2が誘導するMDM2とEMTバイオマーカの発現を、q-PCR、ウエスタンブロット、免疫蛍光法でアッセイし、創傷治癒と増殖性から、RPEsでのTGF-β2誘導応答におけるMDM2の機能をアッセイした。
  • 網膜前膜 (ERMs)でのMDM2発現と、RPEsにおけるTGF-β2誘導性のMDM2とEMTバイオマーカー (フォブロネクチンとN-カドヘリンおよびビメンチン)発現を確認した。
  • dCas9/MDM2-sgRNAが、TGF-β2誘導によるMDM2とEMTバイオマーカの発現を阻害するが、基底発現を阻害せず、dCas9-KRAB/MDM2-sgRNAがRPEsにおける基底発現を抑制すること、これらの細胞の生存性が大きく減じることを見出した。
  • また、RPEsにおいて、低分子Nutlin-3が、MDM2とp53の相互作用の阻害を介して、TGF-β2誘導性のフィブロネクチンとN-カドヘリンの発現を阻害するがビメンチンの発現は阻害しないことを見出した。
  • さらに、実験データは、dCas9/MDM2-sgRNAがTGF-β2依存性細胞増殖と運動性を阻害することを示した。
2. その欠損がマウス不妊症をもたらす遺伝子クラスタと遺伝子を同定
[出典] “Identification of multiple male reproductive tract-specific proteins that regulate sperm migration through the oviduct in mice” Fujihara Y, Noda T, Kobayashi K [..] Matzuk MM, and Ikawa M. PNAS 2019-08-27
  • 阪大の伊川正人とBaylor College of MedicineのMartin M. Matzukらの研究グループは、CRISPR/Cas9による遺伝子ノックアウト実験を介して、雄特異的に発現するが生殖能力に必須ではない遺伝子を多数同定してきた[1-3]。研究グループは今回、CRISPR/Cas9により、雄生殖系で発現するタンパク質をコードしている遺伝子を多数含んでいる2種類の遺伝子クラスターの大規模欠損と、2種類の遺伝子ファミリー (GdpdLypd)のメンバー遺伝子へ変異を誘導することで、雄性稔性必須タンパク質同定を試みた。
  • Gdpd1Gdpd4のノックアウトマウスは雄性不妊に至らなかったが、CstPateの遺伝子クラスタ、および、Lypd4欠損マウスでは、精子の輸送が不全になることで雄性不妊に至ることを見出した。
 引用論文とcrisp_bio記事
  1. The testis-specific serine proteases Prss44, Prss46, and Prss54 are dispensable for mouse fertility. Holcomb RJ [..] Garcia TX. Biol Reprod. 2019-08-12
  2. "Nine genes abundantly expressed in the epididymis are not essential for male fecundity in mice" Noda T, Sakurai N [..] Matzuk MM, Ikawa M. 
    Andrology 2019 Sep;7(5):644-653. Online 2019-03-29.
  3. CRISPR関連文献メモ_2016/07/04 [第2項] CRISPR/Cas9を利用して、精巣に多く発現するが生殖能力に無関係な遺伝子54種類を同定
  4. 2019-06-17 発現が精巣に偏るが繁殖には冗長な遺伝子の同定進む - 男性不妊研究の効率化に貢献 (2報)
3. [ハイライト] 循環器の研究と医療への機能ゲノミクスとCRISPR技術の展開
[出典] RESEARCH HIGHLIGHTS  "Functional Genomics and CRISPR Applied to Cardiovascular Research and Medicine" Li F, Shi J, Lu HS, Zhang H. Arterioscler Thromb Vasc Biol (ATVB). 2019-08-21
  • Columbia University Irving Medical CenterとUniversity of Kentuckyの研究チームが、GWASの結果から機能ゲノミクスを介して責任遺伝子を絞り込んでいく手法にそって、ジャーナルATVBに最近発表された循環器分野の機能ゲノミクス論文と、CRISPRによるモデルマウスの作出とヒトiPSCからのモデル細胞作出などの最先端のツールとその応用をハイライト。
4. [レビュー] CRISPR-Cas9によるHIVプロウイルスの不活性化
[出典] REVIEW "Elimination of infectious HIV DNA by CRISPR–Cas9" Das AT, Binda CS, Berkhout B (Amsterdam University Medical Centers). Curr Opin Virol. 2019-08-23

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