[出典] "Precise in vivo genome editing via single homology arm donor mediated intron-targeting gene integration for genetic disease correction" Suzuki K, Yamamoto M [..] Izpisua Belmonte JC.
Cell Res. 2019-08-23.
背景
- CRISPR-Cas9ゲノム編集技術は主として、 Cas9に切断されたdsDNA (DSB)に対する非相同端末結合 (NHEJ)が誘導するindelsを介した遺伝子ノックアウトと、DSBの修復用ドナー配列を利用するHDR過程を介した遺伝子ノックインである。
- Salk Instituteの鈴木啓一郎とJuan Carlos Izpisua Belmonteの研究グループは、ライフサイエンス新着レビュー から引用した下図にあるように、ドナー配列を巧妙に設計することでNHEJを介してHDR経路では達成できなかった高い効率で、分裂細胞に限らず非分裂細胞 (神経細胞・脳・心臓)においても遺伝子のノックインを実現し、HITI (Homology-Independent Targeted Integration)*法として発表した (* crisp_bio記事:2017-05-06 非相同末端結合(NHEJ)によって、in vivoで非分裂細胞に外来遺伝子をノックイン)。
- ただし、HITI法は内在している点変異やフレームシフト変異の修復には至らなかった。
SATIの構成
- 研究グループは今回、HITI法に準拠して、変異を帯びているエクソンの直前のイントロンに正常なエクソンを含む'minigene'をノックインすることで、HITI法では実現しなかった内在変異の機能的修復を実現した。すなわち、'minigene'から正常な転写物が生成され、'minigene'より下流に位置することになった内在変異エクソン以下は転写されないためである。
- HITI法では先の図にあるように、ノックインする遺伝子断片に標的領域から~20塩基の配列を隣接させるが、今回、これが相同アームとして機能することでHDRを介して正常遺伝子がノックインされる現象も見出した。古典的HDRに基づくノックインでは、ノックイン配列の両端を、標的領域と相同な配列ペアで挟むことから、研究グループはこの新規HDRをone armed HDR (oaHDR)と称し、ドナー配列がCas9によって細胞内で環状から直鎖状へと切り開かれる現象も込めてこの新たなノックイン手法を、SATI (intercellular linearized Single homology Arm donor mediated intron-Targeting Integration)と称した。
SATIの実証
- マウス初代神経細胞への遺伝子ノックインにより、イントロンに遺伝子をノックインするSATI法の性能を実証したのに続いて、早老症 (ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群)モデルマウス) in vivoでの優性点変異の修復によりSATI法の性能を実証した。
- Lmna遺伝子の変異エクソン11を対象としてイントロン10を標的とするSATIシステムをAAVベクターにより注入したところ、注入後100日目においても、肝臓、心臓、筋肉、および大動脈に設計通りの遺伝子ノックインが見られた。
- 正常遺伝子ノックイン効率は臓器によって変動し、例えば、肝臓で2.07%、心臓で0.10%であった。この数字は低効率に見えるが、SATI法を施したマウスモデルの生存期間が顕著に伸び、早老症の症状も緩和され、遺伝子治療の効果を誘導するには十分であることが示唆された。
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