[出典] "Targeted delivery of CRISPR interference system against Fabp4 to white adipocytes ameliorates obesity, inflammation, hepatic steatosis, and insulin resistance" Chung JY, Ain QU, Song Y, Yong SB, Kim YH. Genome Res. 2019-08-29. 

 先進諸国において解決すべき課題となっている肥満について、分子機構の理解が進んできたが、消化管神経系または修す神経系に作用し食欲を抑制しようとする抗肥満薬の効力は限定的であり、重篤な副作用を伴い、販売後に市場から撤退する例もあった。Yong-Hee Kimが率いる漢陽大学校の研究グループは今回、白色脂肪細胞を標的とするCRISPRiによる治療の可能性を示した。

 同グループは先行研究で、脂肪細胞のマーカとして知られているプロヒビチンに結合するペプチド (Adipocyte-Targeting Sequence: CKGGRAKDC) [1]に9-merのアルギン (R)を融合したペプチド (ATS-9R)をキャリアとして、FABP4 (脂肪酸結合タンパク質4)を標的とするshRNAを成熟脂肪細胞へ選択的に導入し、ATS–9R/shFABP4オリゴペプチド複合体が、肥満モデルマウスの症状を改善することを実証した[2]

 同グループは今回、Fabp4遺伝子を標的とするsgRNAとdCas9のCRISPRiシステムとATS-9Rの複合体がプロヒビチンを介して白色脂肪細胞ヘと取り込まれ、細胞質内で複合体から遊離したdCas9とsgRNAがdCas9の両端に結合していたNLSによって細胞核へ移行し、核内で標的遺伝子Fabp4に結合し、RNAポリメラーゼによる転写を阻害することで、Fabp4の発現を抑制した (dCas9/sgRNAプラスミドとATS-9Rの動態について原論文Figure 1引用左下図参照)。
Figure 1 Figure 5
 週2回6週間にわたりdCas9/sgRNA-ATS-9Rを腹腔内に注入した肥満モデルマウスにて、体重20%減、インスリン抵抗性と炎症の改善、肝臓での脂肪脂質蓄積減少 (脂肪肝の改善)、血中の遊離脂肪酸、トリアシルグリセロール、ALTおよびASTのレベルの~50%減少 (肝臓代謝修復)の効果を確認した(mRNAレベルと肝臓組織への作用について原論文Figure 5の一部引用右上図参照)。

[引用論文]
  1. "Reversal of obesity by targeted ablation of adipose tissue" Kolonin MG, Saha PK, Chan L, Pasqualini R, Arap W. Nat Med. 2004 Jun;10(6):625-32. Online 2004-05-09. 2004 May 9.
  2. "Oligopeptide complex for targeted non-viral gene delivery to adipocytes" Won YW, Adhikary PP, Lim KS, Kim HJ, Kim JK, Kim YH. Nat Mater. 2014 Dec;13(12):1157-64. Online 2014-10-05.