[出典] Efficient inter-species conjugative transfer of a CRISPR nuclease for targeted bacterial killing. Hamilton TA [..]Gloor GB, Edgell DR. Nat Commun. 2019-10-4; [2019-10-30 crisp_bio追記] Is Crispr the Next Antibiotic? Sheikh, K. New York Times. Updated Oct. 29, 2019, 1:24 p.m. ET

 HEK293細胞において、I-TevIとSpCas9のデュアルヌクレアーゼ (TevSpCas9)により標的ゲノムから一定の長さの精密な削除を実現[1]したSchulich School of Medicine & Dentistry (カナダ)の研究グループは今回、送達手段としてIncP RK2接合系 [2]を介した接合伝達を選択することで、TevSpCas9により複雑な微生物叢における病原菌の選択的殺菌の可能性を示した。
  • プラスミドをエレクトロポーレーションしたEscherichia coli EPI300を供与体、Salmonella enterica LT2を受容体とし、共培養系 (固形培地上のフィルター接合アッセイと液体培養)において検証した。
  • フィルター接合アッセイにおいて、接合系とTevCas9-gRNAを同一プラスミドで送達するシス方式 (pNuc-cis)と、接合系とTevCas9-gRNAを別のプラスミドで送達するトランス方式 (pNuc-trans)を検証し、pNuc-cisの接合伝達効率が時間とともに指数関数的に上昇し、pNuc-transを顕著に優るに至ることを確認した (原論文Fig. 1引用下図参照)。TevSpCas9 1
  • 次に液体培養において、その表面上でのバイオフィルム形成を介した細胞間の相互作用を亢進するガラスビーズを併用することで、シス方式で接合伝達率100%を達成した (原論文Fig. 2引用下図参照)。TevSpCas9 2
    TevSpCas9に加えてTevSaCas9も有効であり、両者を組み合わせる多重化が可能なことも確認した。
  • 65種類の遺伝子を標的とする実験において、S. entericaの殺菌性が、sgRNAsに依存することを見出したが、非必須遺伝子を標的とする単一または多重なsgRNAsによって 前述のS. entericaの効率的殺菌が実現した。
  • バイオフィルムの状態と対照的にプランクトンのように浮遊状態で接合伝達の効率を期待できない場合は、ファージによるTevSpCas9送達を試みるべきである。
[参考記事・論文]
  1. CRISPR関連文献メモ_2016/12/22 [第2項] I-TevIとCas9の2重ヌクレアーゼによって、ゲノムから一定の長さを削除
  2. 新谷政己, 松井一泰, 金原和秀, 野尻秀昭「環境中におけるプラスミドの挙動解析」 (表1参照). 環境バイオテクノロジー学会誌. Vol. 13, No. 2, 125-134, 2013.