[出典] Highly efficient multiplex human T cell engineering without double-strand breaks using Cas9 base editors. Webber BR, Lonetree C [..] Moriarity BS. Nat Commun. 2019-11-19. (bioRxiv. 2018-11-29)

概要
 University of Minnesotaの研究グループは先行研究 [1]で、CRISPR/Cas9システムを利用することでヒト初代B細胞におけるノックアウト、ノックインおよび転座誘導を実現していたところ今回は、BE (base editor)を利用することで、ヒト初代T細胞において、転座の発生を抑制しつつ、多重遺伝子編集を実現した。

成果
 ゲノム工学と養子免疫細胞療法 (adoptive cellular therapy)の融合は、遺伝子疾患と癌に対する効果的な療法をもたらす可能性を秘めている。特に、複数の遺伝子の編集は、療法の効能の強化と適用範囲の拡大をもたらすが、意図しないゲノム改変と遺伝毒性を伴うリスクを秘めている。
 研究グループは今回BEを利用することで、アロジェニックな (他家移植型)CAR-Tプラットフォームの基盤となるヒト初代T細胞の複数の遺伝子の多重編集を、二本鎖DNA切断 (DSB)を最小限に留めつつ効率よく実現可能なことを示した 。
 BEによる多重遺伝子編集は、CD19特異的CAT-T細胞の効力を高めると共に、T細胞の増殖性を高め、一方で、多重遺伝子編集にCas9ヌクレアーゼを使用した場合に発生するDSBを介した転座を誘導しなかった。

詳細
 BEはこれまで、未成熟ストップ (premature stop: pmSTOP)コドンの誘導 [2] を介して遺伝子ノックアウトと、スプライス受容(Splice Acceptor: SA)部位の消失を介したエクソンスキッピング [3] に、利用されてきた。研究グループは今回、遺伝子ノックアウトには、スプライス供与 (Splice Donor: SD)部位を含むスプライス部位の消失がpmSTOP誘導に優る点を指摘した (下図のBEによるスプライト部位におけるC-to-T変換の模式図参照 - 原論文 Supplementary Figure 1から引用)。Suppl. Fig. 1
 CBEによるpmSTOP誘導には、STOPコドンのリードスルー (readthrough)が遺伝子によっては30%程度発生し、細胞ストレス下ではそれがさらに亢進し、加えて、改良されてきたCBE (C-to-T変換) [4]でも、C-to-G/Aの誤変換が25%程度発生することからpmSTOPの誘導が実現しないことから、タンパク質ノックアウトの効率が上がらず、また、望ましくないアミノ酸置換に至るリスクが存在する。
 研究グループは、PD1/PDCD1 (programmed cell death 1)、TRAC (T cell receptor α constant)ならびにB2M (β-2 microglobulin)を標的として、pmSTOPs誘導またはSDおよびSAの配列改変を目的とする一連のsgRNAsを用意し、BE3またはBE4のmRNAとともに、T細胞へエレクトロポレーションし、サンガーシーケンシングおよび研究グループで開発していたEditR [5] によりC-to-T変換率のsgRNAs依存性 (SD, SAまたはpmSTOPと標的位置への依存性)を比較し、加えて、タンパク質ノックアウト率も比較し、C-to- (AまたはG)変換率についてもBE3とBE4の間で比較した (原論文 Fig. 1引用下図参照)。Fig. 1
 多重遺伝子編集を、各遺伝子に対して最も効果的なsgRNAとBE3またはBE4の送達により試行したところ、各遺伝子のノックアウト効率が著しく低下したが、コドン最適化したBE4 (coBE4)により、SpCas9を凌ぐタンパク質ノックアウト効率~90%を達成した。また、タンパク質3種類のノックアウト率が、coBE4 mRNAの1.5 µgと4 µg投与によりそれぞれ86.6 ± 3.75%と89.57 ± 4.2%に達した。
 最後に、CD19 CARを形質導入したcoBE4ノックアウトT細胞は、サイトカイン、IL-2、TNFαならびにIFNγを安定して産生し、PD-L1を過剰発現させたRaji細胞を殺傷することを、確認した。

[参考crisp_bio記事]
  1. 2018-08-15 CRISPR/Cas9によるヒト初代B細胞ゲノム工学
  2. 2019-09-12 iSTOP:BE3に依るSTOPコドン誘導で遺伝子編集
  3. 2019-11-23 CRISPR-SKIP:ABEを分割することでAAV送達を実現し、in vivoエクソンスキッピング療法へと向かう
  4. 2017-09-05 塩基編集法(BE)第4世代へ:BE1, BE2, BE3からBE4へCRISPRメモ_2018/05/30 - 3 [第1項] 塩基エディターBE4とABEを、BE4max/AncBE4max/ABEmaxへと強化;CRISPRメモ_2018/07/07 [第2項] BE (Base Editors)をさらに強化
  5. EditR: A Method to Quantify Base Editing from Sanger Sequencing. Kluesner MG, Nedveck DA [..] Moriarity BS. CRISPR J. 2018 Jun;1:239-250