8. CRISPR/Cas9でゲノム編集した癌細胞クローンは、サンガー法で想定した変異を確認できたとしても、細胞遺伝学的分析で染色体の不安定化や再編成の有無を確認すべし
[出典] CRISPR-Cas9 Causes Chromosomal Instability and Rearrangements in Cancer Cell Lines, Detectable by Cytogenetic Methods. Rayner E, Durin MA, Thomas R [..] Lewis A. CRISPR J. 2019-11-19
 University of OxfordとUniversity of Birminghamは今回、癌細胞株 (COLO320, HCC2998, SW1463, HCT116)に、SpCas9またはCas9ニッカーゼによりHDRを介した点変異の導入と病原点変異の修正、およびNHEJを介した遺伝子ノックアウトの3種類の遺伝子編集を加え、設計したsgRNAsにより所期の変異が誘導されたクローン (以下、正解クローン)をPCRとサンガーシーケンシングによりスクリーニングした後に、その核型と遺伝子座特異的FISHを分析し、正解クローンの一部に遺伝子編集がもたらしたゲノム不安定性の拡大が見られ、また、クローンと細胞株に特異的な染色体領域の大規模な削除やHDR編集にて標的遺伝子座の破壊が発生することを示した。

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9. 個体内で多様な塩基配列を帯びたHIV-1集団 (quasispecies/準種)全てを標的可能な広域gRNAsセットを同定
[出典] Novel gRNA design pipeline to develop broad-spectrum CRISPR/Cas9 gRNAs for safe targeting of the HIV-1 quasispecies in patients. Sullivan NT, Dampier W [..] Wigdahl B. Sci Rep. 2019-11-19. 
 CRISPR/Cas9技術がHIVの治療戦略として挙げられているが、HIV患者にみられる準種の大半を分解する可能性を帯びた広域gRNAsは、これまでほとんど報告されていない。Drexel University College of Medicineを主とする研究グループは今回、Drexel CARESコホートに由来するHIV-1感染サンプル269件のLTRsのNGSデータからgRNAsを評価し、活性を最も期待できる4種類の gRNAs (D-LTR-P4-227913)によって、269サンプルに見られる準種とLABL HIVデータベースに登録されている準種全てを標的可能なことを同定した。

10. ゲノムワイドCRISPRスクリーンにより、内在Kras (G12D)存在下でのトランスフォーメーションを抑制する遺伝子を同定
[出典] Genome-wide CRISPR Screen to Identify Genes that Suppress Transformation in the Presence of Endogenous Kras (G12D). Huang J [..] Kirsch DG. Sci Rep. 2019-11-20.
 KRAS変異悪性腫瘍は、p53遺伝子変異やLKB1遺伝子変異など、共に変異している遺伝子により細分化され、それぞれが異なる遺伝子の発現の様式や治療に対する反応性を示すことが知られている (北嶋俊輔・David A. Barbie, 2018)。Duke University Medical CenterとDuke Universityの研究グループは今回、Kras (G12D9を帯びた不死化マウス胚線維芽細胞 (mouse embryonic fibroblasts: MEFs)において、ゲノムワイドCRISPR/Cas9ノックアウトスクリーンにより、その変異がKras(G12D)と共同して癌化を進行させる遺伝子を同定した。
  • 同定結果にはよく知られた腫瘍抑制因子であるサイクリン依存性キナーゼ阻害因子2A (cdkn2a)の他に、F-box/WD repeat-containing protein 7 (Fbxw7)およびsolute carrier family 9 member 3 (Slc9a3)といった腫瘍抑制因子候補が含まれる。
  • TCGAデータベースを参照したところ、FBXW7SLC9A3は、ヒト癌におけるKRASと共に変異していた。しかし、マウスにおけるサルコーマ発生には、Trp53またはCdkn2aの変異がKras(G12D)と癌化に協働するが、Fbxw7Slc9a3は協働しないことを見出し、腫瘍抑制因子候補の変異の作用がin vitroin vivoで異なることが明らかになった。
11. ヒト非小細胞肺癌 (NSCLC)の変異EGFR依存性を調節する遺伝子をゲノムワイドCRISPRスクリーニングで同定
[出典] Genome-wide CRISPR screening reveals genetic modifiers of mutant EGFR dependence in human NSCLC. Zeng H [..] Cong F. eLIFE. 2019-11-19
 EGFR変異NSCLCsは高頻度でEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 ( tyrosine kinase inhibitors: TKI)に感受性を示すが、それは長期間は維持されず、腫瘍縮小の効果も変動し、EGFR依存性を改変する遺伝子の存在が示唆されていた。Novartis Institutes for Biomedical Researchの研究グループは今回、G-alphaタンパク質の活性化に必須なRIC8Aをノックアウトすると、EGFR TKIに誘導される細胞死を亢進することを見出した。また、 ARIH2のノックアウトがEGFR阻害に対する耐性をもたらすことを見出した。