1. 創薬におけるCRISPR (成書*の第8章)
[出典] CRISPR in Drug Discovery. Lee CS, Luo J (Nationa Cancer Institute). In: O'Donnell JJ, Somberg JJ, Idemyor V, O'Donnell JT (eds) *Drug Discovery and Development, Third Edition. CRC Press.2019-12-10.
 イントロダクション; CRISPR/Cas9システムの発見と哺乳類遺伝子編集への展開; ゲノム編集ツールとしての (ノックアウト, 精密な遺伝子編集, CRISPRi, CRISPRa); CRISPR/Cas9スクリーンによる創薬標的発見(CRISPR KOとCRISPRiによる機能喪失, CRISPaによる機能獲得, in vivoスクリーン, 標的評価); CRISPR/Cas9の限界と改善戦略;まとめ

2.  [解説] CRISPRのオフターゲット編集の捉え方
[出典] What are off-target effects of CRISPR and why are they concerning? Burgio G. BioTechniques. 2019-11-27
 オーストラリア国立大学のGaetan Burgioが、CRISPR-Cas9のオフターゲット編集について、そもそも稀な現象でかつ予測可能であり、gRNAの最適設計、高精度版Cas9および最先端のシーケンシング技術を利用することで最小限に抑制可能であることから、"off-target effects are not such a concern"とし、利用目的から許容されるオフターゲット作用のレベルを見極めて、CRISPR遺伝子編集技術が適切か判定するのが重要とした。

3. CRISPR-Cas9によるインスリン様成長因子1 (IGF1)遺伝子の多重なアイソフォームの発現亢進を介して筋分化を促進
[出典] CRISPR-Cas9–induced IGF1 gene activation as a tool for enhancing muscle differentiation via multiple isoform expression. Roberston MJ [..] McConnell BK, Schwartz RJ. FASEB J. 2019-11-25
 IGF1/lgf1遺伝子は、組織発現や機能が異なる複数のタンパク質アイソフォームをコードしている。University of Houstonを主とする研究グループは今回、CRISPR-Cas9遺伝子活性化システムにより、ヒトまたはマウスの骨格筋芽細胞においてIGF1またはIgf1の一連のmRNAsの発現を上方制御することで、IGF1シグナル伝達が亢進することを示し、骨格筋萎縮の治療法としての可能性を示した。

4.  レンチウイルスで単一のCRISPRi (sgRNA-Cas9-KRAB)をマウス受精卵前核に導入することで、マウス内在遺伝子の機能喪失実験が可能になる
[出典] Effective CRISPR interference of an endogenous gene via a single transgene in mice. MacLeod RS [..] O’Brien CA. Sci Rep. 2019-11-21
 University of Arkansas for Medical Sciencesの研究グループは、その欠失または変異が大理石骨病とリンパ節の欠失をもたらすTnfsf11遺伝子をモデルとして、表題を検証した:CRISPRiトランスジーンの高発現マウスでは大理石骨病の病態とリンパ節欠失が見られ、低発現マウスは野生型と変わらず、発現レベルが中間的なマウスでは表現型も中間的となる;CRISPRiトランスジーンの組織発現とTnfsf11 mRNAレベルが逆相関する。

5. CRISPRitz: CRISPRシステムのオフターゲット部位をgRNA配列に対するindelsや変異も考慮しつつ高速に予測するソフトウエアパッケージ
[出典] CRISPRitz: rapid, high-throughput, and variant-aware in silico off-target site identification for CRISPR genome editing. Cancellieri S [..] Pinello L. Bioinformatics. 2019-11-25
 既存のオフターゲット部位in silico探索プログラムは、計算効率、標的部位における変異の評価またはアノテーション参照、オフターゲット編集が及ぼす影響評価などに限界がある。University of VeronaとMassachusetts General Hospitalの研究グループは、効率的なデータ構造とマルチコアを活かした並列計算に基づいた高速・高信頼性・悉皆的探索を介してオフターゲット部位を網羅的に推定するソフトウェアパッケージ CRISPRitz を開発し、GitHubサイトから公開した
 CRISPRitzはオフターゲット部位推定にあたって、gRNAと対合するゲノム領域における挿入・欠失 (DNA/RNA bulges)と変異を評価に入れ、利用者が指定可能な任意のサイズのミスマッチに対応し、また、コーディング・ノンコーディングの領域を問わず推定部位のゲノムアノテーションを分析しグラフ化して表示する。

6. CRISPR-Cas9で作出したF508del CFTRはCFTR機能喪失 (CFTR KO) モデルとして利用可能
[出典] Characterization of two rat models of cystic fibrosis—KO and F508del CFTR—Generated by Crispr‐Cas9. Dreano E [..] Chanson M, Cottart CH. Animal Model Exp Med. 2019-11-25
 両モデルとも浸透圧性緩下剤を伴う特別な食餌を用意することで部分的に改善される腸閉塞を起こし、また、輸精管無形成や歯のエナメル質形成不全といったCFの症状を呈した。腸、膵臓、肝臓および肺は、組織学的には異常がなかった。KOラットはCFTRの機能を喪失していたが、F508del CFTRラットには残余しているCFTRの活性が見られ、その初代培養細胞にVX-809 Lumacaftor)とVX-770 (Ivacaftor)投与するとCFTRを介したCl−イオンの輸送が改善することを見出した。

7.  [成書**の一部] iPSCのCRISPR/Cas9編集は、嚢胞性線維症 (CF)の療法足り得るか?
 CF臨床研究と療法開発の観点から、iPSCモデル、自家細胞療法ならびにin vivo遺伝子編集について考察。

8. Cas9ヌクレアーゼの精製を容易にするペプチドリガンドの開発と評価
[出典] Discovery and evaluation of peptide ligands for selective adsorption and release of Cas9 nuclease on solid substrates. Day K [..] Menegatti S. Bioconjug Chem. 2019-11-22
 E. coli 細胞溶解液に打ち込んだCas9ヌクレアーゼのリガンド候補となるペプチドを介したレジンに対する吸着と遊離を評価し、Cas9のRecIIドメインに結合する2種類のペプチド (GYYRYSEYとYYHRHGLQ)が有用であることを同定した。