1. 霊芝のCRISPR-Cas9遺伝子編集
[出典] CRISPR-Cas9 assisted functional gene editing in the mushroom Ganoderma lucidum. Wang PA, Xiao H, Zhong JJ. Appl Microbiol Biotechnol. 2019 Dec 21.
 上海交通大学微生物代謝国家重点実験室の研究グループが、CRISPR-Cas9により、担子菌類キノコの一種であり、トリテルペノイド-抗腫瘍ガノデリン酸 (GAs) を産生する霊芝のゲノム編集を実現した。
 gRNAのin vivo発現に適したu6プロモーターを同定し、加えて、gRNAの3’末端にHDVリボザイムを融合することで、霊芝のマーカ遺伝子 ura3の精密で効率的なノックアウトを実現した。この手法により、GAs生合成に関わるシトクロムP450モノオキシゲナーゼ (CYP450)遺伝子 cyp5150l8をHDRを介して変異遺伝子へと変換することでGAs産生量が顕著に減少することを示した。

2. CRISPRaシステムは、細胞ストレス応答を誘導するが、それは細胞分裂の繰り返しの過程で消滅する
[出典] A cellular stress response induced by the CRISPR/dCas9 activation system is not heritable through cell divisions. Johnston AD [..] Simões-Pires CA. bioRxiv. 2019-12-23
 転写活性化因子VP16を多重化したV64をdCas9に結合することで遺伝子転写を活性化するCRISPRaの手法によって、特定の遺伝子の発現抑制や、in vitro転写gRNAsがヒト細胞における自然免疫応答を誘導することが示唆されてきた。
 Albert Einstein College of Medicineの研究グループは今回、dCas9, gRNAsおよびVP16の多重度とCRISPRaシステムに対する細胞応答の相関を、CD34を標的とするCRISPRaにおいて、解析し、48時間で小胞体ストレスや細胞死に関連する遺伝子の発現が亢進し、この細胞応答が細胞分裂の過程で消失していくことを見出した。
 CRISPRa関連crisp_bio記事:2017-04-20 遺伝子発現活性化にはVPR, SAMまたはSunTagの三択

3. 肺小細胞癌モデルマウスを対象とするCRISPR-Cas9機能喪失実験により腫瘍抑制遺伝子候補の機能を検証
[出典] CRISPR-mediated modeling and functional validation of candidate tumor suppressor genes in small cell lung cancer. Ng SR [..] Jacks T. PNAS 2019-12-23
 悪性度の高い肺小細胞癌 (SCLC)において、腫瘍抑制遺伝子TP53RB1に機能喪失変異が発生していることから、Trp53Rb1の条件付き変異 [Trp53(flox/flox); Rb1(flox/flox)]を介したSCLCモデルマウス、が開発され、癌ドライバー遺伝子や癌抑制遺伝子の機能解析に利用されてきた。MITの研究グループは今回、SCLCモデルマウスにCRISPR-Cas9技術を適用することで、癌抑制遺伝子候補の機能を効率よく同定した。
 具体的には、ヒトSCLCのサブセットにおいて反復変異がみられるRbl1としても知られているp107の機能損失が腫瘍の進行を顕著に亢進することを同定した。また、p107損失が、同じ網膜芽細胞腫ファミリーに属するp130の損失とは異なる作用をもたらすことも見出した。

4.  KRASが変異している大腸癌 (CRC)において、RUNX2/CBFBの欠損が一連の受容体型チロシンキナーゼの活性化を介して、MEK阻害剤に対する感受性を減じる
[出典] RUNX2/CBFB modulates the response to MEK inhibitors through activation of receptor tyrosine kinases in KRAS-mutant colorectal cancer. Šuštić T [..] Bernards R. Transl Oncol. 2019-12-19
 The Netherlands Cancer Instituteの研究グループは先行研究で、ERN1のノックアウト (KO)がKRASイ変異を帯びた大腸癌細胞にMEK阻害剤に対する感受性をもたらすことを同定していた。今回、ERN1 KO大腸癌細胞を対象とするゲノムワイドCRISPR/Cas9スクリーンにより、その不活性化が、ERN1 KO大腸癌細胞にMEK阻害耐性をもたらす一連の遺伝子を同定した。その中には、既知のDUSP4、DET1およびCOP1に加えて、RUNX2 (コア結合因子α1サブユニット/CBFA1)と、その転写コファクターCBFB(コア結合因子βサブユニット)が含まれていた。研究グループは表題にあるような分子機構の存在も明らかにした。