1. バクテリアに有効なCRISPRa/iを開発
[出典] Programmable and portable CRISPR-Cas transcriptional activation in bacteria. Ho HI, Fang J, Cheung J, Wang HH. (bioRxiv. 2020-01-03Mol Syst Biol 2020-07-13

 プログラム可能な遺伝子活性化法があれば、内在および合成遺伝子回路の精細な操作を介して、細胞の振る舞いを制御することができる。真核生物の場合はCRISPRaによってこれが可能になった。バクテリアでのCRISPRaの開発も試みられてきたが、エフェクターとする因子をゲノムから削除、適用がσ54プロモーターに限られる、E. coliイタでしか実証されていない、といった限界があった。Columbia U.の研究グループは、バクテリアに有効なエフェクターをクリーニングするプラットフォームを開発し、指向性進化法を介して、広汎なプロモーターと微生物株に適用可能な微生物版CRISPRaを実現した。
  • Columbia U.の研究グループは今回、dCas9との組合わせでE. coliにおいて遺伝子の転写を活性化する因子のスクリーニングを可能にするプラットフォーム*を開発し、多くのバクテリアとファージの調節因子の中からファージ由来タンパク質AsiAがバクテリア遺伝子の転写活性化を誘導することを発見した (* プラットフォーム概要図Figure 1参照 - PDFのp.20)。
  • PCRランダム突然変異誘発による指向性進化 (directed evolutiuon)を経て、dCas9-AsiAによってゲノムおよびプラスミドの標的の遺伝子発現を200倍まで亢進することに成功した。
  • この進化型dCas9-AsiAはまた、gRNAを選択することでCRISPRiとしても機能し、CRISPRaとCRISPRiを同時並行で作用させることも可能であった。
  • 研究グループはさらに、dCas9-AsiAによって誘導可能な基底発現レベルがさまざまなプロモーターを数百種類を同定した。dCas9-AsiAは、病原菌や産業上有用なバクテリア全般に展開可能であり、研究グループはこれをCasTA1.0と称した (CasTAはCRISPR Cas transcription activatorsに由来)。
[微生物版CRISPRa関連crisp_bio記事]
CRISPRメモ_2018/06/29: [第2項] プール型CRISPRiによるバクテリアのゲノムワイド機能ゲノミクス; [第3項] E. coliに最適なCRISPRaを開発し、バクテリアの転写をリプログラミング
CRISPRメモ_2020-04-07 - 2 [第5項] バクテリアにおけるCRISPRaの活性はプロモーターと標的位置に依存する

2. [レビュー] CRISPR/Cas9による植物病原菌に対する耐性付与:最新動向・課題・展望
[出典] CRISPR/Cas9 for development of disease resistance in plants: recent progress, limitations and future prospects. Ahmad S, Wei X, Sheng Z, Hu P, Tang S. Brief Funct Genomics. 2020-01-08
  • 中国水稻研究所の研究グループによるレビュー;病原体 (バクテリア, 菌類およびウイルス)に対する感受性遺伝子を標的とするCRISPR/Cas9による耐性付与の事例が表1にまとめられている。また、CRISPR/Cas9に伴う課題として、エフェクターのサイズ、PAM縛り、オフターゲット、HDRの低効率、ウイルスに対する低効率、アグロバクテリウム形質転換の非効率、CRISPR編集作物に対する倫理観や規制が国によって異なる、ことがあげられている。
3. ポリフェノール酸化酵素遺伝子 (PPOs)を標的とするCRISPR/Cas9 RNPのデリバリーによりジャガイモ塊茎の酵素的褐変を抑制
[出典] Reduced Enzymatic Browning in Potato Tubers by Specific Editing of a Polyphenol Oxidase Gene via Ribonucleoprotein Complexes Delivery of the CRISPR/Cas9 System. González MN [..] Hofvander P, Feingold SE. Front Plant Sci. 2020-01-09
  • CONICET とSwedish U. Agricultural Sciencesなどのアルゼンチンとスエーデンの研究グループが、PPO2を標的とする2種類のsgRNAsとCas9をRNPにて四倍体ジャガイモのプロトプラストへデリバリーし、68%の効率で少なくとも1アレルに変異誘導、24%の効率で4アレル全てへの変異誘導、を実現した。後者の変異体には、PPO活性の69%低減と酵素的褐変の73%低減が見られた。オフターゲット編集は見られなかった。
4. Cas9の標的を合理的に選択することで、イネの高収量と高ストレス耐性を両立
[出典] Rational Improvement of Rice Yield and Cold Tolerance by Editing the Three Genes OsPIN5b, GS3, and OsMYB30 With the CRISPR–Cas9 System. Zeng Y [..] Huang W. Front Plant Sci. 2020-01-08
  • 武漢大学の研究グループは今回、穂長遺伝子OsPIN5b、粒度遺伝子GS3ならびに耐寒性遺伝子OsMYB30の3遺伝子のそれぞれ2ヶ所を標的とするCRISPR-Cas9を介して同時に編集することで、穂長を伸ばし、粒度を大きくし、耐寒性を高めることに成功した。二重変異体についても、それぞれの遺伝子を標的とした結果が両立した。
5. [プロトコル] 大豆のCRISPR/Cas9遺伝子編集
[出典] CRISPR/Cas9-Based Gene Editing in Soybean. Bao A, Tran LS P, Cao D. In: Jain M., Garg R. (eds) Legume Genomics. MIMB. 2020-01-01
  • 中国科学院油料作物研究所とDuy Tan University (ダナン)の研究チームが、大豆遺伝子編集に適したCRISPR/Cas9プラスミドの設計、アグロバクテリウム形質転換法および子葉節外植片からの個体再生のプロトコルを解説