[出典] MAIT Cells Promote Tumor Initiation, Growth, and Metastases via Tumor MR1. Yan J [..] Teng MWL. Cancer Discovery. 2019-12-11
[関連crisp_bio記事] 2020-01-23 
ヒトMHCクラスⅠb 分子のMR1は、癌免疫療法の新たな標的 (2/2) - 汎ヒト・汎がん療法の可能性も

 進化的に保存されている (invariant)T細胞抗原受容体(TCR)α鎖 (Vα7.2-Jα33)を発現している細胞として同定されたMAIT (Mucosal associated invariant T)細胞は、ヒトMHCクラスⅠb 分子であるMR1 (major histocompatibility molecule related)によって活性化することが知られており、その病原体の感染や炎症への応答などが解明され、癌療法の観点からも注目を集めているが、これまでのところ、腫瘍の抑制と亢進それぞれを示唆するデータが得られ、議論が続いている [1-3]

 QIMR Berghofer Medical Research Institute, University of QueenslandならびにUniversity of Melbourneの研究グループは今回、ヒトMR1と相同のMr1をノックアウトした肺癌マウスin vivoでの実験において、MAIT細胞が癌の発生、成長および転移を亢進することを初めて明らかにした。
  • Mr1-/-マウスでは、野生型マウスに比べて、癌の発生、成長および転移が、有意に抑制された。
  • Mr1-/-マウスに見られた抗腫瘍性は、NK細胞そしてまたはCD8陽性T細胞およびIFNγに依存していた。
  • Mr1-/-マウスに、MAIT細胞を養子移植すると、転移抑制が解除された。
  • MR1分子を阻害する抗体投与によって癌の転移と成長が抑制された。
  • MR1リガンドを投与したマウスとヒトの癌細胞株において、全てではないが、MR1の発現亢進が見られた。
  • 癌細胞株に、刺激性 5-OP-RUリガンドまたは抑制性 Ac-6-FPリガンドを投与すると、それぞれ、転移が亢進または抑制された。
  • MR1を欠損させた癌細胞株は、親株に比べて転移が抑制された。
  • MAIT細胞によるNK細胞のエフェクター機能抑制は、腫瘍細胞のMR1に依存し、また、宿主のIL17Aにも一部依存した。
 MAIT細胞については、in vitroで癌細胞を殺傷するとする報告があったが、腫瘍微小環境において、細胞障害性の抗腫瘍(antitumor)エフェクターとして機能するか、あるいは、protumorに転向するのか、双方の報告が続いている[1-2]。今回、腫瘍細胞が発現するMR1に活性化されたMAIT細胞が、NK細胞そしてまたはCD8陽性T細胞のエフェクター機能を抑制し、腫瘍の発生、成長および転移を促進することが示された。したがって、MR1を発現している癌に対して、MR1の阻害 (すなわち、MAIT-MR1軸の阻害)による療法の可能性が示された。

[参考文献]
  1. Frontier in Immunology誌とFrontier in Oncology誌が"MAIT Cells in Cancer and How to Target them"をトピックとする投稿を募集中 (2020年2月12日締切)
  2. Tumor-infiltrating Mucosal-Associated Invariant T (MAIT) Cells Retain Expression of Cytotoxic Effector Molecules. Sundström P [..] Quiding-Järbrink M. Oncotarget. 2019-04-19
  3. Mucosal-Associated Invariant T Cells Display Diminished Effector Capacity in Oesophageal Adenocarcinoma. Melo AM [..] Dunne MR. Front Immunol. 2019-07-10
  4. The intracellular pathway for the presentation of vitamin B-related antigens by the antigen-presenting molecule MR1. McWilliam HE [..] McCluskey J, Rossjohn J, Villadangos JA. Nat Immunol. 2016-04-04