[出典] Haplotyping by CRISPR-mediated DNA circularization (CRISPR-hapC) broadens allele-specific gene editing. You J [..] Luo Y, Lin L. Nucleic Acids Res. 2020-01-16.
- 中国BGIとデンマークAarhus Universityの研究グループからの論文
背景
- OMIMデータベースによると顕性 (優性)機能獲得変異が、ヒト遺伝疾患の~36%を占めている。その遺伝子治療には病因変異を帯びているアレルを選択的に修復する必要がある。
- 近年、CRISPR/Cas9による遺伝子ノックアウトまたは相同組み換え修復 (HDR)を介して、問題のアレルを選択的に除去または置換が実現されている (原論文引用文献#5-#9参照)。この手法はしかし、疾患をもたらす顕性変異の多くが点変異であり、CRISPR-Casシステムはスペーサに相当するgRNAとのミスマッチが少数の配列も編集する可能性を帯びていることから、変異アレルとともに、野生型の正常アレルも改変するリスクを伴っている。
- スペーサ領域の変異を手がかりにする前項手法に対して最近、変異アレルに特異的なPAM配列を手がかりとして変異アレルだけを高精度でノックアウトする手法が開発された (原論文引用文献#12-#14参照; #13のFig. 1引用下図 b およびCRISPR関連文献メモ_2016/01/29 [1]参照)。
- 変異アレルに特異的なPAM配列を利用する手法はしかし、ハンチンチン遺伝子 (HTT)におけるCAG伸長をはじめとする反復配列伸長の領域に対しては適用できない。この手法はまた、疾患責任変異に対応するハプロタイプと利用可能なPAM配列を同定を必要としこれは、アレルに特異的なPAM (allele-specific PAM, asPAM)が疾患責任変異から遠位に位置している場合は特に、簡単ではない。たしかに、Oxford Nanopore、Bionano GenomicsおよびPacBioといったロングリードNGSによって、シーケンシングに基づくハプロタイピングが可能になったが、研究グループは、だれでもが利用可能な手法を目指した。
成果
- 研究グループは先行研究で、一対のCas9-gRNAで染色体DNAから切り出された断片が染色体外で環状DNA (extrachromosomal circular DNA, eccDNA)を形成することを見出しCRISPR-Cとして報告していた (Nucleic Acids Res, 2018; crisp_bio記事[2])。このeccDNAの結合部には、染色体上で互いに遠位に位置していた領域が近接している。研究グループは今回、このCRISPR-Cの技術を利用してハプロタイピングが可能なことを示し、CRISPR-hapCとして報告した [原論文Figure 1引用下図参照]。
- 研究グループはさらに、CRISPR-hapCで得られた情報を生かして変異アレル特異的編集を実現するために、1000Kヒトゲノムデータベースからアレル特異的PAM (Allele-specific protospacer adjacent motif, asPAM)を生成する高頻度なSNPs (アレル頻度 > 30%)を同定し、その結果をasPAM-CRISPRデータベースへと集積し、Webサイトから公開した (CRISPRatlas; 2020-01-25時点で、SaCas9、SpCas9、xCas9およびCas12a (Cpf1)に対応するasPAMを含んでいる)。[現論文Figure 2引用下図参照]
- 研究グループは、asPAM-CRISPRとCRISPR-hapCに基づいて、ヘテロ型変異HTT遺伝子を帯びたモデル細胞および家族性アミロイドポリニューロパチー (FAP)に見られるトランスチレチン(TTR)遺伝子の第2エクソンの変異をおびたモデル細胞において、アレル特異的編集が可能なことを実証した。
[参考crisp_bio記事]
- CRISPR関連文献メモ_2016/01/29 [第1項] CRISPR/Cas9のPAM認識機構を、1塩基単位の修復に利用する
- CRISPRメモ_2018/08/30 [第2項] CRISPR-C: ヒト細胞においてCRISPR技術により遺伝子と染色体を環状化
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