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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

[出典] Tandem Paired Nicking Promotes Precise Genome Editing with Scarce Interference by p53. Hyodo T [..] Konishi H. Cell Rep 2020-01-28. (bioRxiv. 2019-10-18);愛知医科大学に遺伝研先端ゲノミクス推進センターが加わった研究グループの成果

 “tandem paired nicking” はLeiden University Medical Centerの研究グループの2017年のNature Communication論文のSupplementary Figure 6から引用した下図 aにあるように、ノックイン標的サイトを囲む同一DNA鎖上の2ヶ所を標的とする1対のCas9ニッカーゼによって標的DNA鎖の2ヶ所にニックを入れると同時に、ノックイン用ドナープラスミドの相同アーム上の標的DNA鎖と同一位置2ヶ所にもニックを入れる (isolocal nicking)手法である。Supplementary Figure 6
上図の b は、Cas9による二本鎖DNA切断 (DSB)からのHDRを介したノックイン、標的(target)とドナー(donor)の双方にニックを入れるNick2、標的にだけニックを入れるsingle nick、tandem paired nicking (Tandem Nick2)によるノックイン結果の比較図である。その中でTandem Nick2のバーのマゼンタ色とシアン色はgRNAの内向きと外向きに相当する。研究グループは、先行研究よりも幅広い細胞株と遺伝子座について、“tandem paired nicking (以下、TPN)”の性能を評価した。

 研究グループは今回、HCT116, DLD-1, MCF10A, HeLa、293T、ヒトiPSCなどの細胞株における複数の遺伝子座を標的として“tandem paired nicking (以下、TPN)”によるノックインを試み、ノックイン効率とノックインに伴うindelsの発生およびオフターゲット編集を検証した。さらに、これまでCas9ヌクレアーゼHDRを介したゲノム編集との相関について議論が続いているp53とTPNとの相関についても検証した。
  • TPNのノックイン効率は、Cas9 HDRを介したノックインと同レベルである。また、特に大規模なノックインにおいて、単一のニッキングを介したノックインを遥かに凌ぐ効率を実現する。
  • TPNのノックイン効率は、相同アームの長さに左右され、これが、先行研究でTPNの効率が相対的に低く見えた原因と考えられる。また、Cas9 ヌクレアーゼ HDRとは異なり、ノックインサイトとニッキングサイトの間が416 bpまで離れていても、ノックイン効率が維持される。
  • TPNは、ホリデーモデルに似たDNAの相同組み換えを介して、目的以外のサイレント突然変異のような塩基改変を誘導することなく、目的のノックインを実現する。
  • TPNはまた、ノックイン標的サイトにindelsをほとんど誘導せず、また、ドナープラスミド全体のノックインを引き起こさない。
  • TPNは、p53の活性化を誘導することなく、また、p53の抑制にも左右されない。
 [関連crisp_bio記事]
  1. CRISPRメモ_2017/12/27-2 [第12項] 二本鎖DNA切断を経ない精密かつ高効率な遺伝子編集の新たな手法 (Nishijima K et al., 2017)
  2. CRISPRメモ_2017/09/23 [第2項] 標的DNAとHR用テンプレートDNAに同時にニックを入れることで、二本鎖切断を介さずシームレスなゲノム編集を実現 (Chen X et al., 2017)
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