crisp_bio

論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

2021-08-16 一連の新型コロナウイルス変異株に対して,モデルナワクチン (mRNA-1273)はどこまで有効か?
[出典] "Durability of mRNA-1273 vaccine–induced antibodies against SARS-CoV-2 variants" Pegu A, O'Connell S, Schmidt SD, O'Dell S [..] Doria-Rose NA. Science. 2021-08-12. https://doi.org/10.1126/science.abj4176
 mRNA-1273を共同開発したNIAID/NIHとModerna, Incに,Emory University School of Medicine, Emmes Company, およびKaiser Permanente Washington Health Research Instituteが加わった研究グループが,mRNA-1273ワクチンが被接種者の血中に誘導する抗体の活性を,第二回接種後6ヶ月まで追跡調査した結果を発表し,mRNA-1273が6ヶ月以後も一定程度有効であるが,第三回接種 (追加のブースター接種)がCOVID-19予防に有用であるとした [bioRxiv 投稿 2021-05-16; Science 論文 2021-08-12]
  • mRNA-1273は,WA1株 (SARS-CoV-2 nCoV-WA1-2020, MN985325)の安定化完全長スパイクタンパク質 (以下,タンパク)をコードし,28日の間隔で二回接種される.
  • 先行研究では,mRNA-1273ワクチンの第1相試験に参加したボランティアを対象に,初回接種時から7ヶ月にわたって,初期株のWA1のスパイクに対するワクチン誘導抗体の結合および中和活性を評価した.
  • 2021-08-16 13.22.45今回は,100 μg二回接種から6ヶ月にわたって,WA1に加えて変異株 [*1]に対する活性を評価した.18~55歳,55~70歳,71歳以上の3つの年齢層のボランティア8人 (計24人)から無作為に抽出した血清を4回分析した:第一回接種から4週間後;第二回接種から2週間後,3か月後および6か月後(第一回接種から29日目, 43日目, 119日目, 209日目) [*1: B.1.1.7 (アルファ), B.1.351 (ベータ), P.1 (ガンマ), B.1.429 (エプシロン), B.1.526 (イオタ), および B.1.617.2 (デルタ); 参考crisp_bio記事 [20210814更新] 新型コロナウイルス:変異株ギリシャ語アルファベット表記の一覧. https://crisp-bio.blog.jp/archives/26551487.html]
  •  今回の研究ではまた,3種類の機能アッセイと2種類の結合アッセイと,複数のアッセイ法を併用した [右上挿入図に引用したTable S1のアッセイ法と変異株との対照参照].
  • mRNA-1273の一連の変異株に対する抗体活性は,WA1およびWA1+D614G変異と比較して低下するが,第二回接種から6カ月後も持続し,スクリーンショット 2021-08-16 13.54.58試験を行った最新の時点で,被験者の半数以上がB.1.351 (ベータ)に対する中和活性を維持していた [右図に引用したFig. 1の複数のアッセイ法により評価した第二回接種後6ヶ月間の活性の推移参照]
  • また,B.1.351 (ベータ)およびB.1.617.2 (デルタ) を含むすべての変異体を認識する高レベルの結合抗体が,すべての被験者で維持されていた.
  • 複数のアッセイ法で得られた結果は,最初のワクチン接種から7ヶ月後まで整合していた.
  • WA1スパイクをコードしたmRNA-1273ワクチンに加えて,B.1.351スパイクをコードしたmRNA-1273改変ワクチン (mRNA-1273.351)を3回目に接種した場合,または両方を併用した場合の抗体の効力と範囲に及ぼす効果を調査中であるが,初期の結果では [*2],いずれかを接種することで,D614Gを含む変異株に対する反応が高まることが示された [*2: "Preliminary Analysis of Safety and Immunogenicity of a SARS-CoV-2 Variant Vaccine Booster" Wu K, Choi M [..] McPhee R, Edwards DK. medRxiv 2021-05-06 [Preprint].https://doi.org/10.1101/2021.05.05.21256716]
2021-04-22  記事タイトルを "モデルナ社, 南ア変異株ワクチン候補mRNA-1273.351作出"から"新型コロナウイルス: モデルナ (Moderna)社とNIAID/NIHが開発したmRNA-1273"へと改訂;モデルナ (Moderna)とNIAID/NIH,mRNA-1273ワクチン接種者から採取された血清の各種変異株に対する中和活性のデータ公開 (モデルナ社とNIAID/NIHからの報告)
[出典] CORRESPONDENCE "Serum Neutralizing Activity Elicited by mRNA-1273 Vaccine" Wu K et al. N Engl J Med. 2021-04-15. https://doi.org/10.1056/NEJMc2102179
[この投稿は,NEJMのWebサイトでは2021-02-17に公開されていた].
  • mRNA-1273の第1相試験参加者8名から,初回接種後36日 (第2回接種から7日後)に採取した血清の中和活性を,組換え水泡口炎ウイルス (rVSV)をベースに新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を組込んだシュードタイプウイルス [*]について,50%阻害希釈倍率 (ID50)にて判定測定した.
  • 測定対象は,武漢で当初分離されたWuhan-Hu-1 (以下,武漢株),D614G変異株,英国由来B.1.1.7株, 南アフリア由来B.1.351株, ブラジル由来P.1株, 米国カリフォリニア由来B.1.427/B.1.429株, (B.1.1.7+E484K)株, その他の変異株 (20E [EU1], 20A.EU2, N439K-D614G, およびデンマークで最初に分離されたミンククラスター5)である.
  • mRNA-1273は武漢株のゲノム配列をベースとして設計・開発されたことから,今回,変異株に対する効果を,接種者の血清のシュードウイルスに対する中和活性の観点から評価した.
  • B.1.1.7変異株に対する中和活性は,武漢株と同レベルであった.
  • P.1変異株,B.1.427/B.1.429変異株,B.1.1.7+E484K変異株,およびB.1.351変異株に対しては中和活性低下が見られた.中和抗体価で見ると,低下度合いは,2.3分の1からB.1.351株の6.4分の1までに分布した.
  • しかし,8名の血清のB.1.351株に対する幾何平均抗体価は1:290であり,いずれの血清もシュードウイルスを中和した.
  • B.1.1.7変異株と(B.1.1.7+E484K)変異株の比較からE484K変異の存在によって中和抗体価が有意に低下することが明らかになった..
  • その他の変異株に対する中和活性は,Wuhan-Hu-1 (D614)分離株に対する中和活性と同レベルであった.
  • mRNA-1273ワクチン接種者の血清のP.1, B.1.427/B.1.429, およびB.1.351変異株シュードタイプウイルスに対するに対する中和活性のデータが今回得られたが,それぞれの変異株に対するmRNA-1273ワクチンの有効性の検証は今後の課題である.
  • [*] シュードタイプウイルスを利用したウイルス侵入機構の解析. 谷 英樹. 生化学. 2017-04-25. https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2017.890251/data/index.html
2021-03-04 記事タイトルを"[20210304更新] 新型コロナウイルス: モデルナ社 , 南ア変異株ワクチン候補mRNA-1273.351作出"に改訂した。旧タイトルは" [20210130更新]新型コロナウイルス: モデルナ (Moderna) のmRNA-1273ワクチン, 英国変異株にも有効とみている"であった。
 モデルナ社はEUA承認済みのmRNA-1273が英国変異株と南アフリカ変異株に対しても中和活性をもたらすとしていたが今回, 南アフリカ変異株 (20C / 501Y.V2; B.1.351)を標的とするワクチン候補"mRNA-1273.351"を第1相試験に向けてNIHに出荷した。
 モデルナ社はまた、mRNA-1273.351単独の他に、mRNA-1273.351にEUA承認済みのmRNA-1273を組み合わせた多価ブースターワクチン''mRNA-1273.211"と、mRNA-1273の3回接種についても、その有効性と安全性の評価を進めていく。[出典] Moderna Press Release "Moderna Announces it has Shipped Variant-Specific Vaccine Candidate, mRNA-1273.351, to NIH for Clinical Study" 2021-02-24. https://investors.modernatx.com/news-releases/news-release-details/moderna-announces-it-has-shipped-variant-specific-vaccine

2021-01-30 crisp_bio 2021-01-29 新型コロナウイルス: 英国変異株と南アフリカ変異株の傾向と対策 (6報)へのリンク追加 https://crisp-bio.blog.jp/archives/25441681.html
2020-12-31 第3相試験からの報告が査読付学術雑誌The New England Journal of Medicineから出版された: "Efficacy and Safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine" Baden LR, et al. NEJM. 2020-12-30. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2035389; これまでの発表から参加者数が若干増えたがデータに大きな変動は起きていない; 有効性94.1% - 15,210名/2グループにそれぞれ、mRNA-1273 (100μg)または偽薬を28日間をおいて2回注射; SARS-CoV-2感染者数はワクチングループ 11名 (重症化例無し)偽薬グループ 185名 (重症化 30名)
2020-12-30 "COVID-19ワクチン に関する提言 - 第1版" 日本感染症学会ワクチン委員会 2020-12-28: PDF https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2012_covid_vaccine.pdf
 [注]この項は2020-12-30に、他の情報を加えた別記事へと移動しました:
2020-12-29 mRNAワクチンとウイルス感染症 [crisp_bioの雑感]
 [注]この項は2020-12-30に、他の情報を加えた別記事へと移動しました:
2020-12-24 Moderna社は、同社のワクチンmRNA-1273が誘導する中和抗体は、英国から報告された変異株B1.1.7に対しても有効であると信じるに足るとするプレスリリースを発表した。その論拠は「mRNA-1273は、スパイクタンパク質の全長1,273アミノ酸をコードしており、仮に8ヶ所に変異があったとしても、全長に対する比率は1%未満であり、mRNA-1273が誘導する抗体は変異型のスパイクタンパク質を中和すると想定できる」というところにある。なお、同社はこれまで知られていた変異株については、モデル動物およびヒトの血清で評価し、有効性を確認してきており、B1.1.7株についても同様な実験を予定している: [出典] Statement on Variants of the SARS-CoV-2 Virus. Moderna. 2020-12-23. 4:10 PM EST. https://investors.modernatx.com/news-releases/news-release-details/statement-variants-sars-cov-2-virus
2020-12-19 FDA, ModernaとNIAID/NIHが共同開発した新型コロナウイルスワクチンmRNA-1273の緊急使用承認: [出典] NEWS RELEASE "Statement from NIH and BARDA on the FDA Emergency Use Authorization of the Moderna COVID-19 Vaccine" National Institutes of Health. 2020-12-18 EST. https://www.nih.gov/news-events/news-releases/statement-nih-barda-fda-emergency-use-authorization-moderna-covid-19-vaccine
2020-12-18 ロイター(日本語版) [*1]によるとFDA諮問委員会VRBPACは, 賛成20/反対0/棄権1にて、モデルナの新型コロナワクチン緊急使用を支持; ModernaのWebサイトにて、1月11日にSARS-CoV-2のゲノム配列が公開されてから11月16日まで [*2]のmRNA-1273開発の動向が時系列でまとめられている
https://www.modernatx.com/modernas-work-potential-vaccine-against-covid-19
[*1] 出典 "米FDA諮問委、モデルナの新型コロナワクチン緊急使用を支持" ロイター 2020-12-18 7:24 am 9/: 15 am更新 https://jp.reuters.com/article/fda-moderna-idJPKBN28R3AL
[*2]2020-12-18時点
2020-12-16 ニューヨークタイムズが, 消息筋 ("people familiar with the agency’s plans")からの情報として、「17日 (金)開催予定の'ワクチンならびに関連の生物製剤に関する諮問委員会 (VRBPAC)'にてEUA (緊急使用許可)/FDA承認の見込み」と報道
[出典] "Moderna Vaccine Is Highly Protective Against Covid-19, the F.D.A. Finds" Weiland N, Grady D, Zimmer C. New York Times 2020-12-15 Updated 7:36 pm ET; [参考 PDF] VRBPAC議事予定とModernaワクチンの概要説明書 (FDA Briefing Document - Modena COVID-19 Vaccine (54頁) )

2020-12-04 mRNA-1273が誘導する結合抗体と中和抗体の寿命
[出典] "Durability of Responses after SARS-CoV-2 mRNA-1273 Vaccination" Widge T et al (mRNA-1273 Study Group) NEJM 2020-12-03.
  • 健常成人34名に100 μgを28日間おいて二回接種し、第一回接種から119日後 (第二回接種から90日後)に測定したデータ
  • SARS-CoV-2 スパイク (S)タンパク質の受容体結合ドメイン (RBD)に結合する抗体も、血清中の中和抗体も、時間が経過するとともにわずかにレベルが低下するが、第二回接種から90日後 (3ヶ月後)も検出された
  • S RBD結合抗体の幾何平均抗体価 GMT (geometric mean titer): 18-55歳 235,228; 56-70歳 151,761; 71歳以上: 157,946
  • 血清中の中和抗体/mNeonGreenアッセイからのID50 GMT: 18-55歳 775 (560-1071); 56-70歳: 685 (436-1077); 71歳以上 321 (68-947); シュードウイルスでのアッセイとプラーク形成抑制アッセイの結果も同傾向
  • [crisp_bio注] 個人差が大きいように見える
2020-12-01 モデルナ社 mRNA-1273の第3相試験からの公表データを更新し、緊急使用許可 (EUA)願いをFDAに提出, 12月17日に審査の予定
[出典] PRESS RELEASE "Moderna Announces Primary Efficacy Analysis in Phase 3 COVE Study for Its COVID-19 Vaccine Candidate and Filing Today with U.S. FDA for Emergency Use Authorization" Moderna. 2020-11-30 6.59 AM EST https://investors.modernatx.com/news-releases/news-release-details/moderna-announces-primary-efficacy-analysis-phase-3-cove-study/
  • 196名の新規COVID-19患者を含む30,000名を対象とした第3相COVE試験のデータをもとにEUAを申請; 196名のうち33名は高齢者 (65歳以上)
  • 有効率は、11月16日の95名新規患者をもとにした94.5%に対して94.1%; 196名のうち30名の重度患者をもとにした有効率は100%; プラセボ (偽薬)グループからCOVID-19死者1名
  • 副作用はこれまで同様軽微であった。
  • FDAへのEUA申請基準の一つであるワクチン接種からの経過期間を満たした (中央値 > 2ヶ月)
  • EUAを審査するVRBPAC (Vaccines and Related Biological Products Advisory Committee)による審議が12月17日に予定されていると、FDAから通知された。
2020-11-19 ファイザーとビオンテック社が有効率を改訂: 170例に基づいて有効率95%とプレス発表 (2020-11-18 crisp_bio記事参照)
2020-11-18 モデルナ社のmRNAワクチンの脂質ナノ粒子によるデリバリーに関して, 2020-11-18の項に [2]に追記
2020-11-17  (最終更新時刻 8:26 AM) モデルナ社プレス発表,
 治験の中間報告から"mRNAワクチンの有効性 94.5%"とプレス発表 [1]; 冷蔵庫 (2° to 8°C)30日 / 冷凍庫 (-20°C)6ヶ月 / 接種前12時間室温保管可能 [2]であり, また, 接種前に希釈 (dilution)などの特別な処理は不要と, その取り扱いやすさもプレス発表 [3]
[1] Moderna’s COVID-19 Vaccine Candidate Meets its Primary Efficacy Endpoint in the First Interim Analysis of the Phase 3 COVE Study. Moderna 2020-11-16 6:56 AM EST
  • 治験において2回目のワクチンまたはプラセボ接種してから2週間経過した時点での新規COVID-19患者95名を対象とする分析結果。
  • 5名がmRNAワクチン接種グループから, 90名がプラセボ接種グループであった。また、重症者11名は全てプラセボ接種グループからであった。
  • 95名には65歳以上が15名含まれており、また、20名の人種や多様でありアジア系も3名含まれている。
  • 30,000名を超えた治験参加者の中にワクチン接種による重大な副作用は見られていない。
  • Moderna社は数週間のうちにFDAに緊急使用許可を申請する予定。
[2] crisp_bio注: ファイザーのワクチンもモデルナのワクチンも、mRNAワクチンを脂質膜で包んで体内へデイバリーする脂質ナノ粒子の形を撮っているファイザーのワクチンに対してモデルナのワクチンが冷凍庫・冷蔵庫での長期間保管と室温での取り扱いを可能にしたのは、脂質ナノ粒子の設計の工夫によると思われる [crisp_bio 2020-08-06: 新興感染症に備えてきたmRNAワクチン開発から産まれたモデルナのmRNA-1273]。
[3] Moderna Announces Longer Shelf Life for its COVID-19 Vaccine Candidate at Refrigerated Temperatures. Moderna 2020-11-16 6:52 AM EST

関連プレス発表
  • [2020-11-18 11:25 AM 予定] Jefferies Virtual London Healthcare Conference (Webサイト) で発表予定 (Webcastはこちらからhttps://wsw.com/webcast/jeff141/mrna/18439500)
  • [2020-10-29 2:00 AM EDT] 武田薬品および厚労省と5,000万回分 (2,500万人)の契約成立, Modernaと武田薬品は、厚労省とAMED (国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の支援のもとに、2021年上半期の接種開始を保証する (ensure)。
2020-10-24 モデルナ社のプレス発表
 mRNA-1273のCOVE第3相試験 (NCT04470427)において, 目標としていた30,000名を超す参加者を得、また、10月22日の時点で25,654名が2回目のワクチン接種を完了し、今後2ヶ月をかけて安全性と有効性を評価し, EUA (緊急使用許可)の申請するか否かを判断する; 記事タイトルを"... 第3相試験へ"から"... 第3総試験, 終盤へ"に変更。[出典] "Moderna Completes Enrollment of Phase 3 COVE Study of mRNA Vaccine Against COVID-19 (mRNA-1273)" Moderna Press Release 2020-10-22 9:47 AM EDT.
2020-10-17

  1. モデルナ社CEOのStéphane Bancelは、Financial Timesのインタビューにて、「FDAへのmRNA-1273ワクチンの緊急使用許可の申請は早くても11月25日であり、生物学的製剤申請 (BLA)は1月後半以後になる」と述べた: [出典] Moderna chief says its vaccine won’t be ready before US election. Stacey K, Kuchler H. Financial Times. 2020-10-01
  2. 2020-08-28にプレスリリースされた高齢者を対象とする第1相試験の中間解析の結果が、NEJM論文として公開された。8月のプレスリリース資料に対して、20名への25μg投与の結果が追加されているが、mRNA-1273ワクチンの評価に大きな変更は無かった: [出典] "Safety and Immunogenicity of SARS-CoV-2 mRNA-1273 Vaccine in Older Adults" Anderson EJ, Rouphael NG, Widge AT, et al., on behalf of the mRNA-1273 Study Group. NEJM. 2020-09-29
  • 高齢者において、忍容性 (tolerable)と免疫原性 (immunogenic)を示した。
  • 高齢者のCOVID-19重症化を予防する長期にわたる免疫原性と有効性を示すデータは未だ得られていない。
2020-09-09  モデルナ社、ワクチン開発企業9社の共同誓約に加わる ("crisp_bio 2020-09-09 新型コロナウイルス: ワクチン開発にあたり9社のCEOが誓ったこと"参照)
2020-08-28 モデルナ社、8月26日にCDCの予防接種実施に関する諮問委員会 ( Advisory Committee on Immunization Practices; ACIP)にて、第1相中間解析から高齢者コホート(56-70歳10名と71歳以上10名)における安全性と免疫応答など報告
[出典] Moderna社のプレスリリースと発表資料 (図表多数) "mRNA-1272 Vaccine Against COVID-19: Phase 1 Interim Analysis of Older Adult Cohorts (ages 56-70 and 71+)"
  • mRNA-1273 100μgを28日の間隔をおいて2回接種
  • 高齢者コホートでも概ね安全であり、 忍容性が良好 (well-tolerated)であった。
  • 中和抗体の活性とT細胞応答は、以前に公表した55歳までコホートの結果と整合した。
  • コホート 全員に、一貫して、回復者血清にみられる中和抗体の2-3倍の抗体価を示す中和抗体が誘導された。
  • Th1細胞応答とTh2細胞応答のバランスはTh1細胞応答に偏りが見られた。
  • 第3相試験のコホートの規模は、2020年8月25日時点で、15,239人に達している
2020-07-28 モデルナ社, NIHおよびBARDAと共同で3万人を目標とする第3相試験 (NCT04470427)開始をアナウンス: Moderna Announces Phase 3 COVE Study of mRNA Vaccine Against COVID-19 (mRNA-1273) Begins. Modena Press Release July 27, 2020 at 6:52 AM EDT
2020-07-21 オックスフォード大学/アストラゼネカとカンシノ・バイオロジクスの進捗紹介記事へのリンクを追加: 新型コロナウイルス・ワクチン:オックスフォード大/アストラゼネカと中国カンシノ、第3相試験へ
2020-07-15 第1相試験からの中間報告をNEJM 2020-07-14にて発表
[出典] An mRNA Vaccine against SARS-CoV-2 — Preliminary Report. Jackson LA et al. for the mRNA-1273 Study Group. NEJM 2020-07-14
  • Moderna社の2020-05-19のプレスリリースの更新にあたる。プレスリリースは15名3グループの参加者の一部のデータをもとにした発表であった。
  • 今回2回目の注射後に参加者45名全員に、SRAS-CoV-2に対する中和抗体がみられた。中和抗体価は、回復者由来の中和抗体の上位に相当したが、43-57日の間徐々に低下した。
  • CD8 T細胞応答の誘導も、低レベルであるが、確認された (一部参加者については未判定)。
  • 参加者の半数以上に疲労、寒気、頭痛、筋肉痛および注射部位の痛みが見られた。全身性副作用は2回目の注射後に拡がりが見られ、特に高用量 (250-μg)では15名中3名に重篤な有害事象が見られた (第2相試験は50μgと100μgで進められている)。
[注] 
2020-06-20 モデルナ社、第3相試験7月開始予定と発表
2020-06-21 Harvard Medical Schoolを主とする研究グループがDNAワクチンをアカゲザルで評価したScience論文紹介crisp_bio記事へのリンクを、[参考 2]の項に追加。
[出典] Press Release "Moderna Advances Late-Stage Development of its Vaccine (mRNA-1273) Against COVID-19Moderna 2020-06-11 7:57 AM EDT [crisp_bio: 記事タイトルを" 新型コロナウイルスに対するModernaのmRNAワクチン第1相試験進む"を"新型コロナウイルスに対するModernaのmRNAワクチン第3相試験へ向かう"へ変更]
  1. 第1相試験継続中、12コホートのうち9コホートで完了し、NIHは第1相試験の結果を査読付きジャーナルに投稿予定
  2. 第2相試験は、安全性、反応原性、免疫原性の評価を目的として、健常な18-54歳300名と55歳以上50名のコホートで進行中; 50 μgまたは100 μg を28日をおいて2回投与し、その後、12ヶ月間観察
  3. 第3相試験 (7月開始予定)
  • ランダム化, 1:1プラセボ対照試験, 30,000人規模
  • 用量として、第1相試験にて免疫応答を最大化し副作用を最小限に留めた100 μgを選択
  • プライマリーエンドポイント 軽症COVID-19予防; セカンダリーエンドポイント 重症COVID-19予防とSARS-CoV-2感染予防
  • 第3相試験のための必要量は整っており、第3相試験と並行して5億回分製造予定; 2021年には年に10億回分製造へと拡大予定
[参考 1] New York Timesの"Coronavirus Vaccine Tracker" (2020-06-19更新版)によると、140種類を超えるワクチン開発が進行中であり、前臨床, 第1相, 第2相, 第3相の各試験進行中がそれぞ、10件, 8件, 2件とされている。第3相進行中として取り上げられているのは、AstrazZenca/U OxfordのChAdOx1 (NCT04400838と、Murdoch Children's Research Institute (オーストラリア)のBacillus Calmette−Guerin (BCG)ワクチン (NCT04327206)である。
[参考 2] マスコミ報道によると, 大阪府の吉村知事は6月17日の記者会見で、「オール大阪で取り組んできたDNAワクチンについて、動物実験で安全性を確認したことから、6月末には大阪市大の医学部付属病院の医療従事者に投与し (第1相試験に相当)、ヒトでの安全性を確認し、10月には数百人規模へと拡大する (第2相試験に相当)」と発表した。また、一般のワクチンとして投与するのは、国の認可を得てから2021年の春から秋を目指すとした。また、6月20日の日本テレビの番組"ウエークアップ!ぷらす"に出演した吉村知事は、効能については、有症患者の数が少ないことから「数値*で判断」とした 。
 臨床試験情報登録サイトによると、第1/2相試験の規模は30名で2020/06/25~2021/07/31の期間で、単施設,非無作為化, 非盲検, 非対照試験 (出典 JAPIC Clinical Trial Information WebサイトJapicCTI-205328に ) [crisp_bio] [*] 抗体の抗ウイルス活性と量のことか?; 大阪府が大阪市立大学の職員を対象として安全性試験を始めるのは、実質的に「DNAワクチンは安全という前提で強制的に投与」という感を否めない。
 DNAワクチン (DNA vaccination)の新型コロナウイルスに抗する効用については、Harvard Medical Schoolを主とする研究グループのアカゲザルでの検証結果が公開されている: 2020-06-21 新型コロナウイルス: 
米国HMS, DNAワクチンをアカゲザルモデルで評価

2020-05-20 STAT, 批判記事発表
[出典] "Vaccine experts say Moderna didn’t produce data critical to assessing Covid-19 vaccine" Branswell H. STAT News 2020-05-19.
 Modernaと協働しているNIAID/NIHがModernaのプレスリリースにコメントせず; 中和抗体が検出された8名の背景が不明 (18-55歳の中での年齢分布を始めとして)であり、その他の参加者の状況も不明; ワクチン2回接種後2週間での判定 (中和能の維持期間不明); 抗体価が回復者由来抗体を"generally"上回るとしたが、もともと分散が大きい比較対象のデータが非開示であり"generally"の含意も不明; これまでのワクチン開発においても論文発表などでのデータ開示が限定的であり、mRNA-1273の定量的データは未だ全く開示されていない。
2020-05-19 第1相試験の途中経過を公表
[出典] Moderna Announces Positive Interim Phase 1 Data for its mRNA Vaccine (mRNA-1273) Against Novel Coronavirus. Moderna Press Release. May 18, 2020 at 7:30 AM EDT.
 健常者 (18-55歳)15名のコホート3組に、25 μg,100 μgおよび250 μgを投与し、前二者については2回目の投与後、250 μgについては1回投与後のデータ; いずれも第1回投与後15日で抗体陽転; 25 μg/100 μgについては、それぞれ4名について第2回投与後2週間 (第1回投与から43日)でのデータがあり、回復したCOVID-19患者由来血清に見られるより高レベルの中和抗体産生が見られ、副作用は100 μg投与1名に注射部位に一時的に紅斑が見られたに留まっている。NIAIDなどと共同で行った前臨床試験 (SARS-CoV-2感染マウスモデル実験)では、mRNA-1273が肺でのウイルス複製を阻止することを見た。
[参考] 
  1. "A 12- to 18-month timeline assumes that a vaccine progresses through all the various stages of testing without encountering significant issues" [出典] The Timelines and Implications for COVID-19 Vaccine" Boston Consulting Group. 2020-05-14
  2. 新型コロナワクチン 米中で相次ぎ治験入り. 化学工業日報 2020-04-22
  3. 進行中のCOVID-19ワクチン第2相試験4件 (2020-05-19に米国NLMのClinicalTrials.govを検索した結果)Phase 2
Press Release "Moderna Announces First Participant Dosed in NIH-led Phase 1 Study of mRNA Vaccine (mRNA-1273) Against Novel Coronavirus" Moderna 2020-03-16; NEWS RELEASE "NIH clinical trial of investigational vaccine for COVID-19 begins" NIH 2020-03-16.
  • KPWHRIのLisa A. Jackson, M.Dが指揮する第1相試験は安全性・反応性と免疫原性を評価するための試験であり、今回は、open label study (非盲検試験)として行われる。
  • mRNA-1273の用量として、15名3組のコホートにそれぞれ、25μg, 100μgまたは250 μgの投与を予定している。
  • 参加者には、28日の間隔をおいて2回、上腕へ筋肉内注射を介して投与され、第2回投与後、12ヶ月間追跡される。
  • まず、15名2組のコホートそれぞれにおいて、4名ずつ25μgまたは100μgを投与し、その結果を受けて、2回目の投与と、残る7名への投与を判断する。さらに、この2組のコホートでの結果を受けて、3組目のコホートへの250 μg 投与を判断する。
2020-03-16に至るまでの経緯
 NIAID/NIHがModernaのmRNA-1273の臨床試験を実施する機関として選択したKaiser Permanente Washington Health Research Institute (KPWHRI)は、3月4日に「ModernaのmRNA-1273の安全性を見る第1相試験 [a] の参加者45名の募集を開始した」と発表した [b]。米国シアトルエリアの18-55歳の健常者が対象である。第1相試験で安全性を確認できれば、1,000人規模の第2相試験を開始する予定である。なお、KPWHRIは、NIHが指定したVaccine and Treatment Evaluation Units (VTEU)9機関の一つである。
[a] NCT04283461 Safety and Immunogenicity Study of 2019-nCoV Vaccine (mRNA-1273) to Prevent SARS-CoV-2 Infection.
[b] NEWS 2020-03-04: Kaiser Permanente Washington enrolling participants in first coronavirus vaccine trial. Kaiser Permanente Washington Health Research Institute (KPWHRI) 2020-03-04

 NIAID (アメリカ国立アレルギー・感染症研究所)は、クライオ電顕法によるSARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質 (S)構造解析論文 [1]発表時のブログ [2]で「Sの構造情報とアノテーションは、さまざまなタイプのワクチン開発に有用, .... Moderna社がmRNAワクチンを開発中」と述べていた。
  • 2月24日になってModerna社は「新型コロナウイルスに対するmRNAワクチン "mRNA-1273"を第1相試験のためにNIAIDへ出荷した」と発表した [3]
  • mRNA-1273はScience論文に発表された「ウイルスの中の一部であるスパイク糖タンパク質のヒト細胞に融合前の構造」をエンコードするmRNAであり、ヒト細胞において無害なS糖タンパク質として発現し、抗原としてヒト免疫応答を活性化することが期待される。
  • mRNA-1273は、標的配列の同定から42日でmRNA-1273に至った。臨床試験が順調に進めば、今後のS糖タンパク質の変異への迅速対応をも期待させる。
  • mRNA-1273は、ワクチン開発支援を目的として2017年のダボス会議で設立されたCoalition for Epidemic Preparedness Innovations (CEPI) からの資金を受けたModernaとNIAIDのVaccine Research Center (VRC) のmRNAワクチン研究開発の蓄積と共同研究によって実現した。
[引用記事とブログおよびmRNA参考記事]
  1. crisp_bio 2020-02-16 新型コロナウイルスのスパイク糖タンパク質 (S)のクライオ電顕構造; Cryo-EM Structure of the 2019-nCoV Spike in the Prefusion Conformation. Wrapp D, Wang N [..] McLellan JS. bioRxiv 2020-02-15 > Science 2020-02-19
  2. "NIH Scientists Identify Atomic Structure of Novel Coronavirus Protein" NIAID Now 2020-02-19.
  3. Moderna Press Release "Moderna Ships mRNA Vaccine Against Novel Coronavirus (mRNA-1273) for Phase 1 Study" 2020-02-24 6:04 EST
  4. "Unlocking the potential of vaccines built on messenger RNA" Dolgin E. Nature 2019-10-16.
  5. "mRNA 医薬開発の世界的動向" 位髙啓史, 秋永士朗, 井上貴雄. 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス   Vol. 50 No. 5 (2019)リンクを解除
[本記事2020-03-17までの更新履歴]
  1. 2020-02-26 初稿
  2. 2020-03-11 追記
  3. 2020-03-17 タイトルを「開始へ」から「開始」に改訂し、Moderna社のPress ReleaseとNIHのNEWS RELEASEとを引用 [*]
このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット