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論文・記事紹介:CRISPR生物学・技術開発・応用 (ゲノム工学, エピゲノム工学, 代謝工学/遺伝子治療, 分子診断/進化, がん, 免疫, 老化, 育種 - 結果的に生物が関わる全分野); タンパク質工学;情報資源・生物資源;新型コロナウイルスの起源・ワクチン・後遺症;研究公正

2020-03-18 PDB登録へのリンクを追加
2020-03-10 初稿

[出典] "Crystal structure of SARS-CoV-2 nucleocapsid protein RNA binding domain reveals potential unique drug targeting sites" Kang S [..] Shan H, Chen S. bioRxiv 2020-03-07. 構造情報 6M3M: Crystal structure of SARS-CoV-2 nucleocapsid protein N-terminal RNA binding domain (2.7 Å分解能)

成果
  • 中山大学と中国科学院南海海洋研究所の研究グループは今回、SARS-CoV-2の複製と転写およびウイルスの構成を特異的に阻害する創薬を目指して、SARS-CoV-2のヌクレオカプシド (N)・タンパク質の構造を解析し、既報のSARS-CoV, MERS-CoVおよびHCoV-OC43のNと比較した。
  • X線結晶構造解析によって、SARS-CoV-2のヌクレオカプシド・タンパク質のN末端ドメイン (NTD)/RNA結合ドメイン (RBD)の結晶構造を分解能2.7 Åで決定した。
  • 全体の構成は、これまでに報告されてきた他のコロナウイルスN-NTDに似ていたが、SARS-CoVのN-NTD(2OFZ2OGS)とは異なり、直方晶系であり、4つのN-NTDモノマーが単一の非対称ユニットを形成し、また、表面静電ポテンシャルには明確な差異が見られた。
  • SARS-CoV、SARS-CoV-2およびMERS-CoVと異なり重症化しないコロナウイルスHCoV-OC43のNTDと比較し、NTDのコアを形成するβ-シートに沿った独特なRNA結合ポケットの存在と、SARS-CoV-2に特徴的な残基を見出した。
  • 以上、SARS-CoV-2ヌクレオカプシドを標的とするSARS-CoV-2に抗する抗体や低分子を開発する創薬の可能性が示唆された。
解析法
  • 広東省医学実験動物中心から得たSARS-CoV-2 N-FLプラスミドを得て、SARS-CoV-2 N-FL (1-429残基)、SARS-CoV-2 N-NTDドメイン2種類 (41-174残基; 33-180残基)からタンパク質合成を試み、SARS-CoV-2 N-NTD (41-173残基)タンパク質の精製と、X線回折と表面プラズモン共鳴による解析に至った。
背景
  • SARS-CoV-2のゲノムは、SARS-CoVとMERS-CoVと同じ一本鎖RNA (ssRNA)である。
  • 長さ~30 kbのゲノムssRNAの遺伝子構造は、5'末端から、非構造タンパク質遺伝子 (ORF1a, 1b)、スパイク糖タンパク質 (S)、エンベロープタンパク質 (E)、マトリックスタンパク質 (M)、およびヌクレオカプシドタンパク質 (N)をコードする遺伝子が続く。
  • これまでに開発されてきた抗ウイルス剤は、主として、Sと、3C様プロテアーゼ https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?3C様プロテアーゼ (3CL)およびパパイン様プロテアーゼ (PLP)を標的としているが、Sの変異が誘導する抵抗性や、抗ウイルス抗体によって感染が増強される (antibody-enhancemnet effect: ADE)現象が発生することが、課題となっている。ウイルスのプロテアーゼを標的とする阻害剤では、ヒト細胞における相同なプロテアーゼに対しても非選択的に作用して細胞毒性をもたらすリスクが課題となっている。そこで、コロナウイルスの新たな薬剤標的を同定する必要がある。
  • コロナウイルスのNは、ウイルスRNAゲノムに結合し、RNAゲノムを長い螺旋状のヌクレオカプシドへ包み込むか、リボ核タンパク質を形成し、ウイルス増殖時のRNAゲノムの合成、RNAゲノムの転写、さらには、感染細胞の代謝を調節するウイルス必須タンパク質である。Nは保存性が高く免疫原性が高くウイルス感染時に多量に発現して、感染細胞の免疫応答を誘導する可能性を帯びており、コロナウイルス診断マーカとしてはすでに利用され、また、抗ウイルス薬の標的となり得る。
  • コロナウイルスのNは、N末端のRNA結合ドメイン (NTD)、C末端の二量体化ドメイン (CTD)、および中央部に位置するSer/Arg (SR)リッチな天然変性領域であるリンカーで構成されている。
  • これまでに、SARS-CoV N-NTD、鶏伝染性気管支炎ウイルス (IBV)のN-NTD、HCoV-OC43 N-NTDおよびマウス肝炎ウイルス (MHV) N-NTDの構造が解かれている。また、CoVsのN-NTDがウイルスRNAゲノムの3'末端に、おそらく静電相互作用を介して、結合することが報告され、RNA結合とウイルス感染に決定的な役割を果たす残基も同定されている。
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